COLUMN

片山杜秀が選曲、山田耕筰や湯山昭らの貴重音源集めたお宝ボックス『戦後作曲家発掘集成~TBS VINTAGE J CLASSICS』登場

片山杜秀が選曲、山田耕筰や湯山昭らの貴重音源集めたお宝ボックス『戦後作曲家発掘集成~TBS VINTAGE J CLASSICS』登場

戦後作曲家発掘集成
マニアは感涙必至!

 クラシック音楽=古典音楽――奇妙な言葉である。古き良き時代の音楽へのこだわりを示すこのジャンルにおいても、その「古典」が「話題の新作」として賛否両論を巻き起こした時代には、当然ながら「今」が大切であったはずだ。クラシック音楽に限らず、「未来の古典」となりうる新作がどんどん発表されていかなければ、その音楽に明るい未来はないであろう。評価の定まった「古典」音楽ばかりで埋めつくされた、オーケストラやオペラ劇場のプログラムを眺めていると、暗澹とした気分になってくる。たまたま意欲的な新作がテレビやラジオで放送されたとしても、それはほとんどの人が寝静まった深夜や早朝の枠、民放のゴールデンタイムで放送されることなど、夢のまた夢だ。

VARIOUS ARTISTS 戦後作曲家発掘集成~TBS VINTAGE J CLASSICS コロムビア(2015)

 さて、この8枚組のボックス・セットに収められたのは、50~60年前の「現代音楽」の動向を記録したレア作品、レア音源の数々である。その「お宝」度の高さにマニアは感涙必至であろう。しかし真に驚くべきは、これらの音源全てが、一民放であるTBSのアーカイヴから発掘されたという事実である。つまり、半世紀前には、このような現在進行形の音楽が民放ラジオで当然のごとく放送されていたのだ。

 単なる珍品集ではない。音楽そのものがとても面白い。当時の重鎮から若手まで世代も様々、交響曲からラジオドラマまで、作風の多彩さも予想以上だ。まさに宝の山。選曲は、この手の発掘調査には欠かせない片山杜秀。音源はもちろん、彼のペンによる気合い十分の長大なライナーノーツも合わせて楽しみたい。

 ここに収められた最長老格は、山田耕筰、誰もが知る日本の代表的な作曲家である。しかし、彼のオペラ『黒船』を実際に耳にした人は多くないだろう。ここに収録されたのは、そのレア作品を作曲者が指揮をした自作自演という、貴重きわまりない記録だ。当時の放送の慣習で、アナウンサーによる「実況中継」が随所で音楽に重なっている。音楽を純粋に楽しみたい向きには重大な欠陥であろうが、そのナレーション込みで当時のラジオ放送の雰囲気を味わう楽しみもある。『からたちの花』とプッチーニがブレンドされたような何とも奇妙な音楽も、現代の耳で聴くと逆に面白い。山田の目指した日本語歌唱の理想を体感できる点でも必聴といえるだろう。

中沢桂の歌唱による山田耕筰作曲“からたちの花”

 

 本ボックスセットの選曲の面白さは、武満徹を中心に語られがちな日本の現代音楽史観の外側に位置する作品の再評価にある。例えば湯山昭。彼の名前が最も知られているのは『あめふりくまのこ』などの童謡の分野であるが、『10人の奏者のためのセレナーデ』を聞けば、彼の知られざる才能に驚嘆せざるを得ないであろう。特徴的なのは管楽器を中心とした特殊な楽器編成だ。ラヴェルなど、フランス近代音楽を意識したハーモニーは想定範囲内であるが、管楽器と電子オルガンを組み合わせたポップな音色には意外性があり、現代的なセレナーデにふさわしい。

 いくつか収録されたラジオドラマの中では、塚原哲夫の『くもの糸』が出色の出来だ。テープ音楽の特性を生かして、大編成のオーケストラ、雅楽、電子音などの多様な音源が違和感なく重なり合い、極彩色の音の曼荼羅模様を形成する。周到なリヴァーブ操作による臨場感や浮遊感も、ぜひ実際の音源で体感して頂きたい。『くもの糸』の原作は芥川龍之介のよく知られた同名の作品であるが、文学的な視点では、三島由紀夫の台本による『あやめ』(作曲:牧野由多可)も興味深い。ちなみに、この作品はラジオドラマではなく、ラジオオペラ、生演奏とは全く違った日本語歌唱の可能性が追求されている。

 あのバッハですら、一時期は歴史から忘れらた存在であったことを思い起こして欲しい。このボックス・セットの中にもそのような名作が眠っているのかどうか、皆さんにも是非とも宝探しに加わってほしい。

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