「自分が発起人というだけであって、フタを開けてみると意外と普通にバンドなんですけどね。ただ、メンバーを固定しないということが一番のコンセプトで、自由度の高いバンドを組みたかったんです。メンバーが限定されるとサウンド的にできることも限られてくると思うので」。

 そう語るのはNulbarichのフロントマンであるJQ。彼以外のメンバーは流動的で個々の素性も伏せられているため、外側からはミステリアスな覆面プロジェクトに見える彼らだが、もともとトラックメイカーやソングライターとして活動してきたJQが、その過程で出会った仲間たちと何かおもしろいことをやりたくて始めたバンドだという。

 「ジャンルの縛りも一切ないし、自分が培ってきたのはヒップホップ・ベースのものが多かったから、それが出せればいいなと思ってたぐらいで。でも、クラブ系の質感をバンドで出せたらとは思ってましたね。例えばルーツはMPCで音を作って、ライヴのときはクェストラヴがドラムを叩きますけど、彼らみたいに生演奏と同期を上手く絡める感じのことができたらと思って」。

Nulbarich Long Long Time Ago レインボー(2017)

 そんな着想のもと、日本語と英語を織り交ぜたJQのスムースなヴォーカルと、ソウル/ファンクの素養を感じさせるスタイリッシュなサウンドで、2016年の登場から瞬く間に支持を広げてきた彼らだが、今年2枚目のリリースとなるセカンドEP『Long Long Time Ago』は、これまでとはまた異なるモードで制作されたという。

 「個人的には好きなヒップホップに原点回帰した感じで、ざっくり言うとBPM遅めで縦ノリというか。前回の『Who We Are』はワンマンのリハをやってる時期に作ったので、ライヴで横揺れで楽しめるものになったんですけど、今回は夏フェスにたくさん出させてもらった終盤のエモい時期に作ったから、音的にもマジメというか、いろいろ感じるものになってると思います」。

 その思わず首を振りたくなるようなヒップホップのバウンス感は、1曲目“In Your Pocket”で顕著に表れている。イントロの滑らかなヴァースに続いて挿入されるビートはいままでのNulbarichにないほど太く、金物の鳴りも相まって〈攻め〉を感じさせるトラックだ。

 「この曲はサウンド的にも強めで新しい一面が出せたし、根底にあるメッセージもけっこう強めというか。基本的には〈世の中いろいろわかんなくね?〉っていう思いがあって、すべてのことに対していろんな答えがあると思うけど、とりあえず自分を信じていこうぜっていう。答えはお前のポケットの中にあるから、それを握り締めていればいろんな経験をしても大丈夫だよってことですね」。

 オルガン入りでブルージーに迫る“Spellbound”もこれまでの彼らにはなかったタイプの曲調で、どこか悲哀に満ちた歌声がエモーショナルに響く一曲。一方で“Onliest”は彼も大好きだというN.E.R.D.を彷彿させるプラスティック・ファンクで、「歌詞は小悪魔女子に振り回される感じになってますけど、実はヴィンテージ機材の気まぐれで思うように音が出せないことが裏テーマ」という内容に合わせてか、808系の意匠も陽気に散りばめられている。

 「ネオ・ソウル系も大好きなので、生ドラムとウッド・ベースとローズという好きな音だけでやってみたかった」という代表曲“NEW ERA”のジャジーなリミックス(というかメロもテンポも変わった新ヴァージョン)を含め、旧来のNulbarich感にすら捉われない発想で自由に作られた全4曲。その姿勢こそが、作品に聴き手を選ばない風通しの良さをもたらしているのだろう。

 「僕たちの場合は集まってることに意義があると思うので、〈Nulbarichらしさ〉っていうのはこれから見つけていければと思ってるんですよね。まあ、これからも何でもアリでいこうかなと思ってます」。

 


Nulbarich

シンガー・ソングライターのJQを中心に、演奏形態に応じてさまざまなメンバーが参加するバンド・プロジェクト。2016年にバンドとして始動し、同年6月にライヴ会場/タワレコ限定リリースのシングル“Hometown”でデビュー。10月にファースト・アルバム『Guess Who?』を発表する。今年に入って、2月に渋谷WWWにて初のワンマン・ライヴを行い、5月にファーストEP『Who We Are』をリリース。それと並行して〈GREENROOM〉〈RISING SUN〉〈サマソニ〉などのフェスに次々と出演を果たす。11月より初の全国ツアーを開始。2018年のツアー発表も話題となるなか、12月6日にセカンドEP『Long Long Time Ago』(レインボー)をリリースする。