2017年3月にリリースされたNintendo Switch™用「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は、ゲーム面、デザイン面ではもちろんのこと、サウンド面でも既存の〈アタリマエ〉に囚われない革新的なアイディアが満載だった。そんな「ブレス オブ ザ ワイルド」のBGM全211曲を収録した5枚組ボックスが本作だ。
DISC-1には、メインテーマやゲーム序盤の楽曲、フィールドでのBGMを中心に収録。続くDISC-2と3には神獣と呼ばれる古代兵器と、それを操る英傑たちと村や里に関連するBGMなどが収録されている。DISC-4には神獣を巡る冒険以外の部分でのBGMや、物語の中核を担う厄災ガノン、魔獣ガノンとの死闘における音楽が、そしてDISC-5にはミニゲームのBGMやジングル、ダウンロードコンテンツ用の音楽が収められている。ピアノとオーケストラによるノスタルジーあふれるクラシック的楽曲をメインにしつつも、シンセや打ち込み、そしてクラシックには似つかない数々の楽器を使用し、見事に融合。ゲーム上の多彩な世界をそのまま音楽で表現したような楽曲が顔をそろえている。
まずはゲームのオープニングを彩る“メインテーマ”。100年の眠りから覚めた主人公・リンクと、彼が目の当たりにする雄大な大地をそのまま表現したようなこの曲は、ピアノを含むオーケストラのサウンドに加え、篠笛や二胡といった民族楽器も登場。まるで大作映画の主題歌のような壮大な楽曲に仕上がっている。メロディーは形を変えてゲーム中に幾度も登場するため、最も記憶に残る曲になっている。
“メインテーマ”とは対照的に、ゲーム中でプレイヤーが最も長い時間過ごすであろうフィールド上の音楽はいたって静かで、ピアノのロングトーンと余白を最大限に活かしたもの。ゲーム中ではむしろBGMよりもリンクの足音や声、風の音や虫の鳴き声といった自然の音の方がよく聴こえるほどだが、そんなささやかな音楽にも注力して聴くことができるのはサントラならではの長所だ。例えば“フィールド(昼)”や“フィールド(夜)”をよく聴くと逆回転の音が入っており、この音はDISC-4に収録されている“赤き月の予兆”への伏線となっていることがわかる。
古代の兵器・ガーディアンとの戦闘中に流れるメカニカルなBGM“戦闘(祠):Original Soundtrack ver”は、8分の13拍子という非常にリズムの取りにくい拍子で、まるでどんな攻撃を仕掛けてくるか読めないガーディアンの不気味さを表現しているかのよう。同様にフィールド上での戦闘シーンで流れる楽曲のメドレー“戦闘(フィールド):Original Soundtrack ver”は、全編ほぼ3拍子ながらポリリズムを多用し、こちらもわらわらと蠢くモンスターたちの不規則な動きを表現しているかのようだ。いずれもピアノや弦の他にシンセ・サウンドやさまざまな打楽器を効果的に使用し、どちらの音楽も聴くだけで心拍数が上がるような、このゲームを代表する音楽に仕上がっている。
DISC-2と3にそれぞれ2曲ずつ収録されている、カースガノンと呼ばれるボス戦でのBGM(“水のカースガノン戦”“風のカースガノン戦”“炎のカースガノン戦”“雷のカースガノン戦”)では、同じメロディーながら、神獣や里のイメージに合わせてメロディーやリズムに使用されている楽器がそれぞれ異なって選ばれていることもわかる。ここでもサントゥールやタブラなどの民族楽器が使用されており、サントラで改めて聴くことで通常のゲームプレイでは気付かないことに数多く気付かされる。
本サントラのクライマックスは、DISC-4の37曲目、 “魔獣ガノン戦”であるのは間違いないだろう。実際にゲームをプレイしていると落ち着いて聴くことはなかなか難しいが、メインテーマが各楽器によってアレンジされて演奏される中、歴代ゼルダシリーズの楽曲フレーズも散りばめられ、オーケストラによる圧巻の演奏が繰り広げられる。メインテーマのメロディー上で自由に舞い踊る超絶技巧のピアノは、まるでガノンの猛攻を避けて馬を駆るリンクそのものを表現しているのかのよう。ゲーム音楽の中でも最高峰と言っても差支えのないこの曲のためだけにでも、本サントラを手に入れる価値はあると思う。
そしてボーナス・トラックには2014年のE3での本作のトレイラー映像用BGMと、2017年のプレゼンテーション映像用のBGMを収録。さらに初回数量限定生産盤に同梱されるPLAYBUTTON(缶バッジ型音楽プレイヤー)には、これまでのゼルダシリーズよりフィールド音楽を集めた15曲を収めている。特典と呼ぶには豪華すぎる内容で、これまでのゼルダ音楽を振り返りたい。
また、“魔獣ガノン戦”の部分でも触れたように、「ブレス オブ ザ ワイルド」の音楽には歴代ゼルダ・シリーズの楽曲から引用が多数見られるのも特徴のひとつ。〈楽曲“時の神殿跡”を4倍速させると「ゼルダの伝説 時のオカリナ」の時の神殿のBGMになる〉など、まるでゲーム本編での謎解きのようにネット上ではたくさんの検証がなされているが、本サントラに付属のブックレットに収録されている〈サウンドスタッフによる座談会〉には引用やアレンジについての意図についても語られているようなので、ファンは必見だ。
音数を極限まで排したBGMから、ゲーム音楽最高級のオーケストレーションまで、全211曲を詰め込んだ6時間超。「ブレス オブ ザ ワイルド」の世界にどっぷり浸かったファンはもちろん、そうでない人もこの美麗なサウンドを余すところなく堪能していただきたい。