成功を手にしたからこそ訪れた葛藤の季節。取り巻く喧騒や既成概念とは距離を置き、 自分であり続けることの大切さを改めて噛み締めた6人の答えがここにある!
バンドとしてブレイクスルーを果たした“STAY TUNE”が呼び水となり、昨年1月リリースのアルバム『THE KIDS』が大ヒットを記録したSuchmos。同年6月、新たに設立した自身のレーベル=F.C.L.S.より『FIRST CHICE LAST STANCE』を発表後、全国ツアーを大成功のうちに終えたが、彼らはバンドを取り巻く熱狂的な状況を冷静に見つめている。
「昨年の活動を振り返ると、あらかじめ決まっていたスケジュールの流れのままに、受動的になってしまっていたところがあって。そんななか、メンバーそれぞれ葛藤している時間が続いたんですよ」(YONCE、ヴォーカル)。
「めちゃくちゃ考えましたね。〈6人の集団〉という以上に〈バンド〉としての存在が膨らんだ時、メンバーそれぞれが成長したようにも錯覚するんですけど、そういう認識で音を鳴らしても〈バンド〉にはならないんです。そうではなく、自分であり続ける6人が集まってこそ、〈Suchmosというバンド〉は成立するんだなと思いましたね」(HSU、ベース)。
「作品の成功をどう捉えるか。それによって、今後のアウトプットが180°変わってしまうなと思ったんです。つまり、その成功は周りの人たちが僕らの音楽に価値を見い出してくれた結果であって、自分たちでコントロールできるものではないということ。そのことがわからなくなって、さらなる成功に向けて音楽を作るようになったら、バンドとしては危ないなって。だから、今の状況とは切り離した静かな場所で、アイデアが沸いてくるのを待ちたかったんです」(OK、ドラムス)。
ロックの歴史において、成功体験に呑まれ、自己模倣の末に失速していったバンドは数限りないが、翻弄されかけた流れに逆らって、ふたたび創造の大海に漕ぎ出したSuchmosは、新作ミニ・アルバム『THE ASHTRAY』をここに完成させた。ブレイクのきっかけとなったCMに再度起用された“808”と〈2018 NHKサッカーテーマ〉に抜擢された“VOLT-AGE”という2曲の大型タイアップ曲で幕を開ける本作は、冒頭から6人の強い意志が高らかに鳴らされている。
「“808”みたいなノリのいい曲に耳触りのいい歌詞を書くことは簡単にできるんですけど、そうではなく、いろんな意味でクレイジーな歌詞を乗せることによって、自分のなかで設定したハードルをクリアしたかった。それで、そうやって作った曲を世の中の人がどう聴くのかを問いたかったんです」(OK)。
「どういう曲を作ったらみんなにウケるのか、それは俺たちなりに把握しているつもりなんですけど、そういう曲を作ることで俺たちが〈2018 NHKサッカーテーマ〉を担当する意味があるのかを話し合って、〈それじゃあ、意味ないよね〉って。だから、それでもSuchmosにオファーしてくれるのであれば、俺たちが作る音楽を信じてもらうしかないし、“VOLT-AGE”ではSuchmosが自信を持って格好いいと思うものを提示しようと思ったんです」(HSU)。
「歌詞も同じです。聴き手に対する目配せはダサいと思うし、俺はサッカーが超好きだったりするし。そういうことを延々と考えながら、完成形とはまったく異なる歌詞を何度か書きました。でも、薄っぺらい内容に我ながら納得できなくて、試行錯誤の末に自分たちらしい素直な表現に辿り着きました」(YONCE)。
そして、中盤にヒップホップ的なビートのループを挿み込んでプログレッシヴな展開を見せる“YOU'VE GOT THE WORLD”とフックにビートルズの魂を宿した“ONE DAY IN AVENUE”は、Suchmosが新たな高みに立ったロック・アンセムだ。
「“YOU'VE GOT THE WORLD”は、YONCEがたまたま弾いてたギター・リフから派生した曲です。大喜利のお題が出た瞬間にすべての話が始まるというか、その先はカオスですよね(笑)。いい意味で聴き手の期待を裏切る曲が最高だと思っているし、今回のレコーディングは演者である自分たちの期待をも裏切っていきたいという強い気持ちがそのカオスに拍車をかけたと思います」(OK)。
「“ONE DAY IN AVENUE”は最初のセッションで〈これだ!〉となった唯一の曲です。個人的にはビートルズを意識したわけではないんですけど、セッションの最中の偶然のミス、その自然な曲の佇まいを活かして出来上がった曲ですね」(HSU)。
「まぁ、でも、去年の年末にNYへ行った時も〈ジョン・レノンの命日にダコタハウス周辺に集まってた大勢のファン〉というのが印象深かったりもしたし、実際、ビートルズは死ぬほど聴いてましたけどね(笑)」(OK)。
そうかと思えば、YONCEが家族に対する感謝の念を恥ずかしがらずに堂々と歌えるようになったと語る“FRUITS”と、艶やかなグルーヴと共に広がるラヴソング“FUNNY GOLD”では、肩の力が程良く抜けた6人の心地いいバンド・アンサンブルが楽しめる。
「“FRUITS”はいろんなアプローチを考えて、リズムはレゲエなんですけど、ドラムの質感はアース・ウィンド&ファイアのような温度感を意識して。〈みんな、気持ち良く演ろう!〉ということになって、その通りの曲になりました。“FUNNY GOLD”にしても、こういう綺麗な間を活かした曲は以前だったらやるのが恥ずかしかったんですけど、余裕を持ってできるようになりましたね」(OK)。
そして、DJのKCEEがチョップド&スクリュードの手法でビートを組んだ“ENDROLL”は、文字通り作品のエンディングであり、Suchmosにとっては音楽的/精神的な葛藤を乗り越えた末に掴んだ束の間の安らぎを意味しているようでもある。
「今回の作品は、トータルで聴くと〈音も言葉も人の敷いたレールには乗らないし、既成概念とは金輪際おさらばするぞ〉という意思表示が強いですよね」(YONCE)。
「この1年間、各々がいろんなものを吸収しながら葛藤と向き合い、それを吐き出したのが今回のミニ・アルバムなんです。ただ、吐き出した煙は宙に消えてしまいますけど、全員が喫煙者でもある俺たちが燃やしたものはこうして作品として形に残ったということもあって、〈灰皿〉を意味する『THE ASHTRAY』という作品タイトルにしました」(HSU)。
「そう。今のタイミングでこの作品が出来たからこそ、次は鎧を脱いだ後の身軽さというか、『THE BAY』の頃の軽やかさをさらにアップデートしたような作品が出来たらいいなって思いますね」(OK)。
Suchmosの近作。