地図のない獣道を歩んできたカーネーションの35年

 めまいがするほど多彩でマニアックな音楽性。そして、とびきりのポップセンスを併せ持ったロック・バンド、カーネーションが、今年で結成35周年を迎えた。波乱に満ちた日々を乗り越えて、現在は唯一のオリジナル・メンバーの直枝政広(ヴォーカル/ギター)と大田譲(ベース)の2人組。デビュー30周年の2015年にはスカートやミツメ、シャムキャッツらの参加したトリビュート盤『なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?』がリリースされ、彼らを慕う若手たちからリスペクトを捧げられた。そして今年は直枝監修による2枚組のベスト盤『The Very Best of CARNATION "LONG TIME TRAVELLER"』が登場。6月30日には岡村靖幸、森高千里、曽我部恵一らさまざまなゲストを迎えて35周年記念コンサートも開催される予定だ。そこで今回は、その最新ベストに並んだ名曲の数々に触れながら、直枝にこれまで歩んで来た〈地図のない獣道〉を振り返ってもらった。

カーネーション The Very Best of CARNATION "LONG TIME TRAVELLER" CROWN STONES(2018)

いろんな面が詰まったベスト

――これまでもカーネーションは何枚かベスト盤を残していますが、今回はどういったコンセプトで選曲されたのでしょうか。

 「これまでのベストって、僕はあまり関わっていないんですよ。今回は初めて最初から関わったんです。カーネーションの本質というか、B面っぽいマニアックな曲も良いと思うものはどんどん入れました。あと、ファンに向けてTwitterで〈裏名曲〉を募って、それも参考にしたんです。選曲し終わって気付いたんですけど、シングルや推し曲以外の曲、ほかのベストとかぶっていなかった」

――カーネーションのいろんな面が詰まったベストですよね。時系列に沿った流れになっていて、1曲目はメジャー・デビュー・アルバム『GONG SHOW』(88年)に収録された“夜の煙突”。インディー時代の初リリース曲を再演したヴァージョンですね。

「曲が多すぎて、今回はインディー時代の曲は入れられなかったんです。なので、この曲からスタートするのは良いかなと。それで2曲目が『天国と地獄』(92年)の“未確認の愛情”っていうのも良い流れだと思います。この曲は〈日本語の歌詞をどう書くか〉ということに関して初めて手応えを感じた曲なんです」

――サウンド面でも『天国と地獄』は転機になるような作品ですね。

「そうですね。スタジオの使い方とか音の作り方に自覚的になって、それを自分たちでコントロールできるようになった。挑戦的なアルバムでした」

――そして、次作の『EDO RIVER』(94年)からポップに突き抜けていきます。タイトル曲の“EDO RIVER”をはじめ、この時代の曲はリズムのアプローチが多彩ですね。

「当時はヒップホップの12インチとかヴィンテージ・ソウルをよく聴いてました。そういうものをギター・バンドでどうやって採り入れるのか、ということを常に考えていましたね。良いリズムさえあれば曲が書けると思っていた。サンプリングの可能性もすごく感じてたし、ルーツ・ミュージックもちゃんと見直さなきゃいけないと思っていて。とにかく、倒れそうになるくらい、いろんな音楽を聴きまくってたし、前向きなパワーに溢れていて、〈立ち止まらずに真っ直ぐ行こう!〉って開き直ってました」

――シングル・ヒットした“It's a Beautiful Day”(95年作『a Beautiful Day』収録)は、まさにそんな感じの曲です。

「軽快なグルーヴなんですけど、リズムのアクセントがユニークで(笑)。でも、サビでパーンと抜ける。カーネーション史上いちばん明るい曲なんですけど、〈でもLonely〉っていうオチがあるんですよね(笑)」

――“New Morning”(97年作『booby』収録)は荒々しいギター・サウンドが特徴ですが、この時期からロック色が濃くなっていきますね。

「この曲のイメージはザ・バンドです。自分のルーツを衒いなく出せるようになったのが『booby』からでした。それまでの2作(『EDO RIVER』『a Beautiful Day』)は、〈ポップス〉っていう感覚で曲を作っていたんです。ポップスだけど、ところどころ変態、みたいな感じで(笑)。でも、『booby』あたりから、ちょっとダークな側面も出てくる。(自分以外の)メンバーも曲を書くようになったし、賑やかではあるんだけど」