Photo by 石田昌隆
 

カーネーションが昨年開催した東京・赤坂の草月ホールでの2デイズ・ライブ。ストリングス、ホーン隊を各日に迎えた同公演が、この度CD2枚組のライブ盤となった。キャリアを通しての名曲の数々に加え、新曲“BABY BABY BABY”も収録した今作を、ロック漫筆家の安田謙一が聴いた。 *Mikiki編集部

カーネーション 『草月ホールのカーネーション』 Cosmic Sea(2020)

2019年6月29日と30日の2日続けて、草月ホールでカーネーションのライブが行われた。直枝政広と大田譲のふたりと、岡本啓佑(ドラムス)、伊藤隆博(キーボード)、松江潤(ギター)からなる5人に加えて、初日は美尾洋乃、美尾洋香(いずれもヴァイオリン)、鈴木千夏(ヴィオラ)、橋本歩(チェロ)からなるストリングス・クァルテット、二日目はザ・スリルの平田直樹(トランペット) 、小泉邦夫(トロンボーン)、ロベルト小山(サックスほか)によるホーン・セクションが参加した特別な夜。その実況録音盤が2枚組のCDで発売された。

Photo by 金子山
 

これが〈Official Bootleg〉シリーズの第5弾となる。アンサンブルがフレキシブルに変動するバンドゆえ、すべてのライブ音源の希少性は高い。そのなかでも飛びきりスペシャルな音源と言えるだろう。もともと〈ウィズ・ストリングス〉でスタジオ録音された“Lovers & Sisters”や“REAL MAN”、“Wild Fantasy”、そして、ホーンを擁していた“スペードのエース”、“アイ・アム・サル”、“地球はまわる”など、つい〈正調〉という言葉を思い浮かべながら、背筋を伸ばして聴いてしまう。

※カーネーションのライブ会場とオンラインショップのみでの販売。この『草月ホールのカーネーション』はDisk Union各店での取り扱いもあり
 

ストリングスの特性を最大に活かしたのは間違いなく“夜の森”だろう。この日、松江潤と伊藤隆博によって演奏されたインストゥルメンタル“Synthesizer Session”について、直枝政広はライナーノーツで〈草月ホールへの恩返し的な意味合いを込めた〉と記しているが、前衛というよりファイン・アートな“夜の森”もまた確実に、この場所が持つパワーと共鳴している。

Photo by 金子山

Photo by 金子山
 

ホーンズの日の真骨頂は“学校で何教わってんの”。間違いない。この日のちょうど1年前に日比谷野音でこの曲に参加した岡村靖幸の提案したブレイクを活かした、と直枝はMCで語っているが、まるで岡村ちゃんの生霊も加わったようなカオティックなファンクに打ちのめされる。直枝は嵐に向かって自転車を立ちこぎしながら歌っているみたいだ。これは最強でしょう。

Photo by 石田昌隆
 

両日で披露された“The End Of Summer”、“VIVRE”、(もちろん)“夜の煙突”を聴き比べてみると、ストリングスが静で、ホーンズが動とも一概に言えないのがまた面白いところ。二日目に披露された新曲“BABY BABY BABY”は目が覚めるように蒼いラヴ・ソングでびっくりした。ラストに収録された“Great Buddha”の余韻も心地よい。これがライブだよな、という気持ちを一瞬で起動させてくれる『草月ホールのカーネーション』はスタジオ盤とあわせても代表作となるだろう。

この多彩な音楽を〈ロック〉の一言で言い表したくなる乱暴な衝動を許容してくれるカーネーション。ありがとう、いいバンドです。

Photo by 石田昌隆