家族について描き続けた是枝裕和監督、日本映画としては、今村昌平監督『うなぎ』以来21年ぶりにカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞!
これまで何度も家族について描いてきた是枝裕和監督。その名が広く知られるきっかけとなった『誰も知らない』(04)では、育児放棄を題材に崩壊した家族を描き出したが、そこにはテレビマン時代、ドキュメンタリー番組の演出を手掛けていた是枝の社会に対する鋭い眼差しがみてとれた。そして、『歩いても 歩いても』(08)あたりから、是枝は自分の足元を掘り下げるように平凡な家族を描くようになっていく。そんななか、日本映画としては21年ぶりにカンヌ国際映画祭のパルムドールに輝いた『万引き家族』は、改めて家族とは何かと観客に問いかけてくる物語だ。
高層マンションに挟まれた古い平屋に住む5人家族。治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の歳の離れた夫婦。息子の祥太(城桧吏)。信代の妹、亜紀(松岡茉優)。そして、おばあちゃんの初枝(樹木希林)。治は日雇い労働者で生活費は初枝の年金が頼り。足りない時は治と祥太が万引きをして生活の足しにしていた。そんなある日、治が幼い少女を連れて帰る。その子は親から虐待を受けているらしく、それを知った信代は、少女を両親に返さずに娘として育てることを決意する。
格差社会の底辺で生きながら笑いが絶えない一家は、古き良き理想の家族のようにも見える。しかし、物語が進むにつれて、家族が抱えている闇、彼らを結びつけているものが少しずつ浮かび上がってくると、観客の家族に対する見方は変化していくことになる。貧困や虐待など社会的な問題を、当事者の側で描く重い手応えは『誰も知らない』に通じるところがあるが、家族の日常を細やかに描写する手腕は『歩いても 歩いても』以降、是枝監督が磨き上げてきたものだ。社会的なテーマと家族ドラマ、その2つの要素が見事に組み合わされるなか、サントラを担当した細野晴臣の穏やかな音楽が家族の情景を包み込む。
役者の演技にも引き込まれる、リリーが見せる哀しいまでの情けなさ。安藤サクラの悲しみと凄み。城桧吏の鋭い目つきは『誰も知らない』の柳楽優弥を彷彿とさせ、入れ歯を外して老いをさらけだした樹木希林の存在感に圧倒される。樹木の顔同様、リリーや安藤の生々しい裸体も強い印象を与えるが、それは社会で無視されている彼らの“生”を、スクリーンに刻みつけようとしているようだ。
善と悪でしか語られなくなった今の社会で、簡単に裁くことができない罪を描いた本作は、震災以降、何度も気安く使われてきた“絆”について考えさせられる。家族も共同体も崩壊して、行き場のない孤独が蔓延する社会のなかで、どうしたら孤独から逃れられる絆を得ることができるのか。思えば彼らは誰ひとりネットもラインもやっていなかったが、そこには脆くても切実な絆があった。絶望的な状況のなかで一瞬光る希望を、この映画は見せてくれた気がする。
映画『万引き家族』
原案・監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:細野晴臣
出演:リリー・フランキー 安藤サクラ/松岡茉優 池松壮亮 城桧吏 佐々木みゆ/緒形直人 森口瑤子 山田裕貴 片山萌美 ・ 柄本明/高良健吾 池脇千鶴 ・ 樹木希林
配給:ギャガ(2018年 日本 120分)
◎TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開中
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