〈メンフィス・ソウルの女王〉ことカーラ・トーマスが待望の初来日! 7月30日(月)から8月2日(木)にかけてBillboard Live TOKYO&OSAKAにて行われるライヴを前に、彼女の輝かしき歩みを振り返っておこう。

カーラ・トーマスは42年生まれ。もちろん生誕の地はメンフィス、テネシーだ。トーマス家は父・ルーファスはシンガー、兄マーヴェルは鍵盤奏者、そして今回の来日に帯同するヴァニーズもシンガーという音楽一家。

そんな彼女のデビュー・シングルは、60年、スタックスの前身レーベルであるサテライトからリリースされた“'Cause I Love You”。なんとこの曲、父・ルーファスとのデュエット・ソングなのだ。ちょっぴりラテン風のリズムが特徴的だが、ルーファスのドスのきいた泥臭い歌声に当時17歳のカーラが若干押されているのもおもしろい。ちなみに、その後も〈ルーファス&カーラ〉名義の作品はいくつかリリースされている。仲良し親子なのだ。

カーラ・トーマスの60年の楽曲“Cause I Love You”
 

続くセカンド・シングル“Gee Whiz(Look At His Eyes)”でカーラはいきなりヒットを飛ばす。“Gee Whiz(Look At His Eyes)”はハチロクの典型的で素朴なロッカ・バラードだが、ストリングス、コーラス、そしてカーラの見事な歌唱がばっちりハマった名曲だ。

同曲からは、ジャズやジャンプ・ブルース、ロックンロール、ドゥーワップやゴスペルなどが一緒くたになって生まれたリズム・アンド・ブルースという音楽が、アメリカを代表するポップ・ミュージックとして開花していく60年という時代の豊潤さが聴き取れる。

カーラ・トーマスの60年の楽曲“Gee Whiz(Look At His Eyes)”
 

実はこの曲、カーラが15歳のときに書いた曲で、ルーファスがトーマス家でレコーディングしたものをシカゴのヴィージェイというレーベルに売り込んだが相手にされなかったとか。その後、サテライトからリリースされたものを翌61年にアトランティックが流通させたら大ヒットした、という複雑な経緯があったりする。辛酸をなめたカーラ親子、渾身のシングルなのだ。

カーラの次なるヒットは66年の“B-A-B-Y”。“B-A-B-Y”といえば……そう、あの『ベイビー・ドライバー』(2017年)に使用された曲。主人公のベイビー(アンセル・エルゴート)とヒロインのデボラ(リリー・ジェームズ)が出会うシーンで実に印象的な形で使われていた同曲だが、ロックやR&Bが大好きな重度の音楽オタクであるエドガー・ライトらしい選曲だ。

カーラ・トーマスの66年の楽曲“B-A-B-Y”
 

『ベイビー・ドライバー』によってカーラは、デビューから半世紀以上経った現在、また新しいファンを獲得したと言ってもいいだろう。彼女の代表曲である“B-A-B-Y”は、きっと今回の来日公演でも披露されるはずだし、ライヴでその力強い歌声と魅力的なメロディーを聴けば、きっと〈あっ、あの曲!〉となるはずだ。

スタックスからリリースされた“B-A-B-Y”だが、デビュー直後の60年代前半の〈ティーン〉な楽曲と比べると、カーラの歌唱は表現力を増しているし、よりソウルフルになっている。そして、そのサウンドも進化している。まさしく〈サザン・ソウル〉〈メンフィス・ソウル〉のマナーだし、ホーン・セクションをゴージャスに配した編曲や印象的なギターのカッティング(おそらく、オーティス・レディングの右腕だったスティーヴ・クロッパーだろう)が見事だ。カーラのキャリアを振り返りながら、R&B/ソウル・ミュージックが60年代を通じて急速な進化を遂げていたことに思いを馳せるのもまた一興。

スタックス所属歌手の代表格であるカーラの作品といえば、オーティス・レディングとの共演盤『King & Queen』(67年)を挙げるファンも多いだろう。当時、ノリにノっていたオーティスとカーラの超パワフルなデュエットは、まさに〈王と女王〉の風格。同作からヒット・シングル“Tramp”を聴いてみよう。

オーティス・レディング&カーラ・トーマスの『King & Queen』収録曲“Tramp”
 

これもホーンとギターとが印象的なフレーズを繰り返し、ベースとドラムスが刻むリズムが小気味良い、実に〈サザン・ソウル〉な一品。二人のユーモラスな掛け合いが聴きどころだ。

カーラは『Love Means...』(71年)を吹き込み、スタックスのコンサート〈ワッツタックス〉に出演すると、同レーベルを離れることに。その後はほとんどリリースはなく、散発的なライヴを除いて活動がなかったカーラ・トーマス。近年、再び活動を活発化させた彼女の評価は、先に述べた「ベイビー・ドライバー」などを通して上がっていくばかり。

そんな最高のタイミングで実現する今回の初来日(厳密には、50年前に在日米軍基地で公演を行っているとのこと)。同郷、メンフィス・ソウルの代名詞であるハイ・レコードのサウンドを支えたチャールズ&リロイ・ホッジズ兄弟に加え、妹のヴァニース・トーマスも引き連れての豪華な編成となっている。黄金期のメンフィス・サウンドを2018年に体験できる、貴重なステージとなることは間違いない。これを観逃す手はないだろう。

なお、カーラ・トーマスは〈FUJI ROCK FESTIVAL '18〉にも出演。野外でのカーラの歌唱もぜひ堪能したいところだ。

 


Live Information
カーラ・トーマス & “The Memphis All Star Review” Featuring The Hodges Brothers(Hi Rhythm Section)and Vaneese Thomas

2018年7月30日(月)、31日(火)Billboard Live TOKYO
1stステージ 開場 17:30/開演 19:30
2ndステージ 開場 20:45/開演 21:30
サービスエリア 10,800円/カジュアルエリア 9,800円
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2018年8月2日(木)Billboard Live OSAKA
1stステージ 開場 17:30/開演 18:30
2ndステージ 開場 20:30/開演 21:30
サービスエリア 12,000円/カジュアルエリア 11,000円
★詳細はこちら

■メンバー
カーラ・トーマス(ヴォーカル)
ヴァニーズ・トーマス(ヴォーカル)
ベルネタ・マイルズ(バックグラウンド・ヴォーカル)
アージー・ファイン・マーティン(バックグラウンド・ヴォーカル)
ルイス・バジェ(トランペット)
アンディー・ウルフ(サックス)
チャールズ・ホッジズ(ハモンド・オルガン、キーボード)
スコット・シャラルド(ギター)
リロイ・ホッジズ(ベース)
スティーヴ・ポッツ(ドラムス)