©Jimmy Fontaine

デヴィッド・ボウイから学んだこと~過去の自分に決別することを恐れずに進む!

 デヴィッド・ボウイの遺作となった『★(Blackstar)』に全面参加し、時代を先取りした音楽性で常にシーンの注目を集めるジャズメン、ダニー・マッキャスリン。前作から2年の時を経て届けられたアルバムは、新境地ともいうべきヴォーカルをフィーチャーした意欲作だ。そこで前作『Beyond Now』と『★』を発表した2016年から今までの活動と心理的変遷、そして本作への想いを存分に語ってもらった。

 「この2年間、自分としてはこれまでにないくらいに世界中で演奏をしたよ。その過程で、新しい方向性が自分の中で芽生えるのを感じたんだ。始めはそれほど明確じゃなかったし、それが示した方向に少し驚いたよ。そこで、本作に参加してもらった素晴らしいプロデューサーであるスティーヴ・ウォールと一緒に、目指すべき方向性や聴くべき音楽、新しい可能性について色々な話をしたんだ。その結果、今までと全く違うアプローチ、様々なソングライターたちと共作するという、よりコラボレーションに基づいた創作方法になったんだ」

DONNY McCASLIN Blow. motema music/ソニー(2018)

 本作のリード・トラック“What About The Body”は、長年のバンド・メンバーでもあるティム・ルフェーブルのアイディアを元に、ダニーや旧知のドラマー、ザック・ダンジガーが手を加え、ヴォーカルのライアン・ダールが新たなメロディを加えつつ作詞も行うという手法をとった。

 「様々な共作者たちとのやりとりを通して音楽が出来上がっていく。この新しいやり方を凄く気に入っている。毎回その過程が違うことも面白いし、参加してくれたソングライターたちを尊敬しているよ」

 ヴォーカリストを大幅に起用したきっかけについては、このように振り返る。

 「『Beyond Now』にもヴォーカルナンバーは収録されている。デヴィッド・ボウイのカヴァー曲“A Small Plot Of Land”だ。あの曲が自分の行きたい方向を示していると感じたんだ。ヴォーカルを取り入れるという点でね。でも、完全なヴォーカル・アルバムにしようとまでは当初思っていなかった。時系列にすると、去年の9月くらいかな。その辺りからアルバムの全体像が見えてきて、ヴォーカル曲の割合がどんどん増えていった。自分に聴こえてくるものがそうだったし、自然とそうなったんだ」

 しかし、新しい方法論、領域に踏み出すことへ躊躇が無かったわけではない。

 「僕のアコースティック演奏を聴き慣れているジャズファンはどう思うだろうってね。でも、そういう不安を帳消しにしたのは、何事にも恐れず感じるままに表現するという気持ちだった。デヴィッド・ボウイが実証してくれたことは、音楽の垣根を壊すことを恐れず、自分が過去にやったことと決別することを恐れないことだったんだ」

 多岐にジャンルを網羅する音楽性に関しては、それぞれのメンバーからの影響も大きいと、ダニーは語る。

 「バンド・メンバーからはいつもいい刺激をもらっている。例えば、ベースのティムやキーボードのジェイソン・リンドナーからは、それぞれのサウンドを加工する手法のヒントをもらうことがある。みんな才能に溢れたミュージシャンばかりで、色々な技を持っているから、学ぶことは多いんだ。曲のたたき台は僕が持ち込むけど、それを彼らと一緒に形にしていく。その過程で、彼らから刺激をもらうことも沢山あるよ」

 そして最後に本作の音楽性ついてこう総括する。

 「この2年間で起きたことのお陰で、明確なヴィジョンが見えてきたんだと思う。10年前の自分は想像できなかったことだ。僕はこれを〈シリアス・プログレッシヴ・ミュージック〉だと思っている。僕たちがやっているのはまさにジャンルにこだわらない音楽だ。シリアスな音楽だけど、型に嵌った音楽ではない。つまりその瞬間瞬間、感じたままを演奏するアートなんだ!」

 自らの殻を破り続け、常に新しい創作を志すアーティストだからこそ、制作できた作品だと言える。ジャズファンのみならずロック、エレクトロニカファンにもぜひ聴いてもらいたいアルバムだ。彼の新風を感じられる傑作だと断言する。

 


ダニー・マッキャスリン(Donny McCaslin)
66年アメリカ生まれのテナー・サックス奏者。バークリーで学び90年代から様々なアーティストたちのサイドマンとして活躍を始める。2000年代になるとマリア・シュナイダー・オーケストラでも活動し、その人脈で知り合ったデヴィッド・ボウイと『★』で共演、世界的な注目を集めた。ジャズシーンの最前線にいながらクロス・ジャンルで新たな地平を目指す鬼才。

 


LIVE INFORMATION

DONNY McCASLIN JAPAN LIVE TOUR 2018

○2019/2/5(火)
会場:名古屋ブルーノート
www.nagoya-bluenote.com/

○2019/2/7(木) 2/8 (金)2/9 (土)
会場:ブルーノート東京
出演:ダニー・マッキャスリン(sax)
ジェフ・テイラー(vo, g)
ザック・ダンジガー(ds)
ティム・ルフェーヴル(b)
ジェイソン・リンドナー(key)
www.bluenote.co.jp/jp/