星は黒く光った――
ジャズ・ミュージシャンたちが照らす新しいデヴィッド・ボウイ

 69歳の誕生日にリリースとなる新作は、9分57秒のアルバム・タイトル曲『★』から始まる。まるで予言者のように歌い語っていく歌は、ヨハン・レンク監督の依頼を受けて、TV番組『ザ・ラスト・パンサーズ』のために書いたテーマ曲でもある。番組のコンセプトがデヴィッド・ボウイを刺激したのか、監督と意気投合したことで、20年ぶりに映像作品に音楽を提供することになった。

 アルバムは、「何か新しいものをやってみよう」という動機から制作が始まったが、“ヨーロッパの闇を深く描いた犯罪スリラー”という同番組が創作のインスピレーションに入り込んだのは間違いないだろう。世界大戦はないが、見えない威力に脅かされる時代の政治、経済、宗教、倫理観の崩壊などの狂乱がポエティカルに描かれていて、文化の違いから理解しきれないものもあるが、深読みしたくなる、考えることを求められる内容の歌が続く。

 しかもそれを煽るかのように、2曲目の『ティズ・ア・ピティ・シー・ワズ・ア・ホア』は、荒々しい息遣いから始まるが、アルバムを通して曲間がないことが多く、休息することを許さないかのごとく、次の曲が続けて始まる構成になっている。さらに、これは何を意味するのだろうか、という境地にミュージシャンの演奏が促す。

DAVID BOWIE ソニー(2016)

 前作に続きプロデュースを担ったのは、70年代のボウイを作った男と言われるトニー・ヴィスコンティ。彼によれば、「前作でも新しいことをやろうと試みたけれど、何かしら昔の要素が忍び込んでいた。それを防ぐためにデヴィッドは、今回意図的にダニー・マッキャスリンを起用した。ジャズ・ミュージシャンにロックを演奏してもらうことで、昔の要素が入り込むのを防いだ」という。その期待にマッキャスリンのサックス、フルート、木管楽器が見事に応えている。間奏のソロパートをはじめ、随所でフィーチャーされるスピリチュアルな演奏は、心に潜在する暗闇を揺り動かし、憂いや不穏といった感情を引き摺り出そうとする。でも、それがネガティヴで逃げ出したくなるのではなく、その中に埋もれる心地好さのようなものを与えてくれる。他にドラム&パーカッションのマーク・ジュリアナ、ピアノのジェイソン・リンドナーら辣腕ジャズ・ミュージシャンが参加している。

 楽曲単位ではなく、アルバムでしか出来ないことが作品になった『★』。それを知り尽くした世代ではあるが、アルバムというフォーマットの芸術性をまた堪能させてくれる。