インタビュー

冨田ラボ 『M-P-C “Mentality, Physicality, Computer”』 冨田恵一が語る〈いまポップスで起きていること〉

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デモだけでOKテイクを録ってくる七尾旅人、キーを四~五度上げてる長岡亮介

――そんなお話を聞きつつ、Reiをフィーチャリングした“POOLSIDELIC”という曲は、まさに冨田ラボの縛りのすごさとおもしろさを感じる曲でした。これも、びっくりしました。

「たぶん、これは3曲目に作ったかな。とにかくアッパーにしようとは思っていたんですよ。アレンジは結構二転三転して、いろいろやってるうちにエレクトロ+ドラムライン+吹奏楽みたいになってやっと落ち着いていったんです」

――イルリメ(鴨田潤)の歌詞は前作の藤原さくらさんの曲“Bite My Nails”でも素晴らしかったですけど、今回も良くて。なにより、Reiさんってこんなにアイドルっぽいというかノンセックスというか、J-Popっぽい歌がハマるんだ、というのが発見でした。

「僕もそれは仮歌を歌ってもらってる時に気がついて。Reiさんも英語と日本語で歌う時の感じが違うなと思っていて。英語ではロックっぽいけど、日本語では結構J-Popっぽい。そこが引き金になったかな」

――長岡亮介“パスワード”、七尾旅人“rain on you”というあたりは、二人とも歌モノでありつつ、ラップ的な言葉の選び方や置き方を持ってる人でもあります。

「七尾さんとは、僕はまだ直接お会いしてないんです。データのやりとりだけ。ちょうど彼もアルバムの制作中で多忙だったんですよ。でも、七尾さんには入ってほしくてね。もちろん七尾さんの魅力もあるし、それまでに僕が今回のアルバムで作っていた曲がストリート寄りだったり、アッパーな曲が多かったので、わりとメロウな、昔からの冨田ラボ的なものも入れたくなっていて、そういうのを七尾さんに歌ってもらいたくなった。それでデモを送ったら、数日で歌詞もついたほぼ完成形に近いものを送ってきてくれて。そこから電話やメールでやりとりをしてて、そろそろ〈歌録りをするからこの日までにオケをください〉って連絡が七尾さんから来ると思ってたら、ある日、まだツーミックスのデモしか送ってなかったのに、〈もう歌録りました〉ってOKテイクが送られてきたんです」

――彼らしいエピソードですね(笑)。

「〈あ、もう録っちゃったのか〉って思ったけど、そこからは七尾さんの歌を聴きながらアレンジをしていきました。この曲のアレンジができたのが、アルバムの最後の最後でした」

――僕には、歌の声の感じが、いい意味でちょっとラジオっぽく聴こえたんです。

「たぶん、七尾さんが自分で録った歌だから、七尾さんが使ってるダイナミック・マイクの感じじゃないですか?」

――そうか、声だけ“部屋鳴り”というか。

「そう。部屋鳴りとマイクの違い。でも、七尾さんのスタイルにはすごく合ってるなと思った。そういうのもあって、おもしろいですよね」

――冨田ラボの音楽で、いままで若者が普段暮らしてる部屋という感覚は、あんまり感じたことなかったんです。でも、この曲ではそれを感じましたし、それがラップが入ってるこのアルバムの全体ともすごくリンクするように思えて。

「あー、わかります。質感がね。確かにね、七尾さんが録ってきた歌は、いい意味での宅録の要素がある。それは感じましたね」

――いっぽう、長岡亮介との“パスワード”は“OCEAN”とのカップリングで先行シングルになった曲です。

「これは〈歌ってもらえますか?〉と長岡さんに打診してから書き始めた曲なので、完全に宛て書きでした。アルバムの制作では中盤くらいですね。ミディアム・テンポでビートがあって、でもメロウで、というのが長岡さんの唱法には合うなと思って書きましたね。長岡さんの歌い方ってセクシーだと思うんだけど、それでいてピュアネスも醸すっていうさ(笑)。今回は作詞もお願いしたんで、言葉と声の両方で彼の絶妙なバランスを表現できたと思う。そこがすごくよかったですね。

あと、長岡さんにはペトロールズの動画とかを見て、ばっちりのキーで曲を渡したんですよ。そしたら、長岡さんから〈もっとキーを上げたい〉って連絡が来て。リクエストは四度か五度くらいで、結構上げたんですよ。〈待てよ、そんな高いキーで歌ってる長岡さん、聴いたことないけど〉って思ったけど、〈この曲調ならそうしてみるのがいいんじゃないか〉って判断だったらしくて。歌録りの時には、なるほどなと思いましたね」

――冨田さんはこう思ったけど、自分のパスワードはこっちだった、みたいな意味もあるのかも。

「そういうことかもしれないですね。でも、長岡さんと七尾さんがこのアルバムのなかではキャリアがある人たちなのでね、初対面だったけど音楽的にも人間的にもやりやすかったですね」

――突然歌を送ってきたり、キーを上げたりとかも、イレギュラーなことに思えても経験のなかで飲み込めることというか。

「そうそう。何か考えがあるんだろうと思うから、聴いてみて判断すればいいなと。楽しい作業でした」

 

いつも〈いまこの時代〉が気になる音楽家・冨田恵一

――そして、最後に“緩やかな毒”。歌が吉田沙良、歌詞は角田隆太なので、実質的には、ものんくるとの仕事とも言えます。

「僕はT.O.C.バンドっていうジャズ・バンドを最近やってるんですけど、そのベーシストが角田さんなの。そのバンドで今年やったイヴェントで、沙良さんが別のバンドのゲストに出て歌ってたんですよ。そのライヴで歌ってた沙良さんが、ものんくるでの歌い方と違ってて。その時に聴いた印象がすごく残ってて。アルバムで最後に完成させたのは“rain on you”だったけど、作曲順でいうとアルバムで最後だったのがこの曲だったんです。あの時の沙良さんの歌を思い出して打診した時に、自動的に歌詞は角田さんにお願いすることが浮かびましたね。角田さんの歌詞ってすごくいいと思ってたんで」

――ものんくるをやってるけど、今回のオファーとしては別というのは、彼ら二人にとっても新鮮な作業だったかもしれませんね。

「もちろん、音楽自体も全然違うしね。やっぱり沙良さんはスキルが高い人だから、アプローチはいくつでも用意できる。彼女が言ってたことは〈曲による〉ということ。〈自分のスタイルがこう〉ではなく、〈その曲はどう歌えばベストなのか〉を考えて、“緩やかな毒”にはこれが合うと判断したんでしょうね」

――この曲は歌詞がドラマチックですけど、これもオファーの段階では何も伝えてないんですか?

「歌詞については、何も言ってないと思いますね。覚えてるのは〈かわいいとかより、全体的にはオーセンティックな感じになると思う〉と伝えたくらい。あとは僕が最後に書いた曲だから、アルバムのヴァリエーションの中にないタイプを意識したと思う」

――そして、最後に“Outroduction”に至るという構成で、トータルでもそんなに長い時間のアルバムではないんですけど、どこに行くかわからないスリルがいつも以上にあって、濃密な時間でした。ライヴは『SUPERFINE』の時以上に大変でしょうけど。

「ライヴも決まってますからね、これからいろいろ考えなくちゃいけないから大変です。そういえば、松永さんが以前、僕のライヴのことで何かツイートしてくれてましたよね」

「僕もわりといつもそういうことを考えてるんです。昔は7分の曲でも最初から最後まで聴かせることが僕の価値観だったけど、最近は〈すげえ満足した!〉と思ったけど、タイムを見てみたら3分50秒しかなかった、みたいなことのほうがいまの僕の価値観になってる。だから、時間は絶対的なものだけど、印象としての時間は全然違う。音楽で重要なのはそこだろうなと思ってるんです。そのことをツイートされていたので、すごく印象に残ってます」

――今回もインタールードがそういう役割を果たしていて、それぞれは1分半くらいで短くフェードアウトしたりしてるんですけど、不思議とそうは思えないんですよ。

「そう思わせるために何をどう配置したらいいか、いつやったらいいのか、どれくらいの分量でやったらいいのかを考えるのが、音楽家だと思うんです」

――そうですね。でも、総体的に言うと、冨田ラボは、いつも〈いまこの時代〉が気になっている。それが最高だなと思います。

「もちろん気にはなってるんでしょうね、ポップスをやっている人間ですから。ただ、最先端を追っかけるのは大変だと思うんですよ。僕にはそれはできない。でも、幸か不幸か、リアルタイムの音楽で〈これは本当にかっこいい〉と思うものに出会っちゃったわけだから。そうなったら音楽家は、というか僕は、自分の音楽とうまく結びつけようと考えます。あと、年齢を重ねてくると〈時代は関係ないよ〉みたいに思ってやっていた頃のことも、結局は時代の影響を受けていたんだと、俯瞰して見ることができるようになりましたね」

 


Live Information
冨田ラボ 15th Anniversary LIVE 〈M-P-C “Mentality, Physicality, Computer”〉2018年11月2日(金)東京・マイナビBLITZ赤坂
開場/開演:18:00/19:00
出演:冨田ラボ
ゲストシンガー:AKIO、安部勇磨(never young beach)、城戸あき子(CICADA)、Kento NAGATSUKA(WONK)、坂本真綾、髙城晶平(cero)、chelmico、長岡亮介(ペトロールズ)、Naz、七尾旅人、bird、堀込泰行、吉田沙良(ものんくる)、Ryohu(KANDYTOWN)

 

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