〈最初あのトラックどう思いました?〉〈むず!〉

――今回のインタヴューでは、それぞれの曲についてもいろいろ聞いていこうと思ってるんですが、収録順というより、ラップの話題から入ったので、次はchelmicoをフィーチャリングしたラップ曲“アルペジオ”にしましょうか。

「“アルペジオ”は、今回のレコーディングで一番最初に作った曲なんです。シンガーのレコーディングとしても最初だったかな。ラッパーをフィーチャリングしようと思って、一番最初に決めたのもchelmicoでした。今回は歌モノより先にラップのトラックを作ることから始まっていたから」

――そうなんですか!

「男女二組はラッパーを入れようと思ってたんです。chelmicoはさ、想像以上にちゃんとラップに軸足を置いてる人たちなんですよ。あんなユルい感じだから、ちょっと違うと思われてるかもしれないけど(笑)。彼女たちの雰囲気やふるまいって、完全にポップ・フィールドにいる人たちに見えたりしてると思うんですよ。でも、そこも僕には重要でしたね。

なにせ冨田ラボでラップを入れるのは初めてだったし、ラップ・ミュージックをポップスと区別してしまうリスナーに対しても、彼女たちのスタンスであれば間口を広げられると思ったんです。もちろんchelmicoのフロウやリリックが良いという前提あっての話ですが。でも、トラックを作るにあたっては、最初はちょっと戸惑いましたけどね。僕はビートメイカーではないから構図として真ん中に歌があって〈よし!〉って思うほうなんですよ。だから、実際に僕がトラックを作って、chelmicoがどうするかっていうのは想像しかできない。その状態ではなかなかできないと思ったんで、〈なんでもいいから仮ラップして〉ってお願いしてスタジオに呼んだんです」

――仮歌じゃなく、仮ラップ。

「そう。最初にトラックが出来て送った時に、フリースタイルでいいからとにかくこれに何かラップを乗せてみてくれないかとお願いして。それで、他の曲のリリックを使ってやってみてくれたんです。そしたら、それが良くて、そこでもう一気に安心した。アルバムの最初の作業でもあったんで、結構慎重になってもいたから」

――そこがうまく決まらないと始まらないわけですからね。あと、いまのラッパーの人たちは、ビートに対する感覚もはるかに柔軟になっていますよね。

「そうなんですよ。”アルペジオ”のトラックだって、特にやりやすいものではないでしょ? でも、二人とも最初からすごくスムースにやれてた。Rachelさんに〈最初あのトラックどう思いました?〉って聞いたら、〈むず!〉って言ってたけど(笑)。

Ryohuさんの”M-P-C”にしたって、1拍半のポリリズムが絡んで区切りが9小節になったり、4分の5拍子があったりするんだけど、難なくラップしてたからね。そういうのって、もしかしたら5、6年前だと本当に難しかったかもしれない。いまは、ちょっと変則的なビートでも、そこにどうラップを乗せていくかをみんな直感的にできてるんじゃないかなと感じました」

――それをおもしろさととらえられて、なおかつその不規則性を言葉にも還元できてるんですよね。

「フロウのおもしろさだけじゃなく、リリック自体にもちゃんと意味があってスピード感もあって。それはRyohuさんもchelmicoもそうだったな」

――そう感じてる人は多いと思いますけど、chelmicoには出て来た当時のPUFFYとかを思い出しますよね。あの二人も、当時は“やる気なさそうに見える”キャラだったけど、音楽的な咀嚼力はすごく高かったわけで。

「すごく思い出しますよね。アルバムのキックスタートとしては正解だったし、〈よし!〉って気分になりました。いつもそうなんですけど、1曲目はやっぱり慎重になりますから。それがうまくいってよかった」