5年ぶりに行われたコンサートシリーズ 変わらない佇まいと魅力を増した歌声
大貫妙子のキャリアの中で、もっとも重要な活動のひとつに挙げられる〈Pure Acoustic〉——このコンサートは、87年9月に端を発する。このとき、彼女はサントリーホールで、5日間にわたってコンサートを行なった。ポップス系のアーティストがサントリーホールで公演を行なったのは、このときが初めて。しかも、大貫妙子にとって初めて室内楽的アンサンブルと一緒に行なったコンサートでもあった。
「あのときは、サントリーホール側からお話をいただきました。それまでの私は、いわゆるバンドと一緒のライヴしかやったことがなかったので、弦楽クァルテット中心の編成で歌うことが自分にできるだろうかという思いがあり、最初は躊躇しました。でも、もし私が依頼する立場だったとしたら、まったくできそうにないアーティストにオファーはしないだろう、と。ですから、やってみる価値があるし、期待にお応えしようと思いました。初ステージは、緊張のあまり膝ががくがくしたことしか覚えていませんけど(笑)」
〈Pure Acoustic〉のコンサートは各方面から賞賛され、その後23年間ほぼ毎年行われた。しかし、主要メンバーであるヴァイオリン奏者の金子飛鳥が渡米したことから、09年の公演が最後となった。ところが、今年3月24日に新宿文化センター大ホールで一夜限りの公演が実現。『Pure Acoustic 2018』は、同公演から11曲を選んで収録したライヴ盤だ。
「ストリングス隊をまとめるのにはすごく時間がかかるので、飛鳥さんがいないと、〈Pure Acoustic〉のコンサートは成り立たないんです。でも、彼女が帰国したので、3年ほど前から今回のコンサートの計画を進めていました。最初からライヴ盤を作るつもりではありませんでした。でも、ストリングス隊の演奏も、ピアニストのフェビアン・レザ・パネの演奏も、以前より確実に良くなっているので、形として残そうということになりました」
もちろん、大貫妙子のヴォーカルも以前より魅力を増している。こんなにたおやかな日本語の歌に出会えたのは、久しぶりだ。
「坂本龍一さんと一緒に『UTAU』を作ったことによって、自分の歌が鍛えられたという自覚があります。あと千住明さんと一緒にシンフォニックコンサートをやったことも大きい。私は声量が豊かな歌手ではないので、自分の声をどうやってコンサートホールの最後列のお客さんに届けるのか試行錯誤してきました。でも、ある時点からそのための体の使い方を見つけ、以前より高い声が出せるようになった。だから歌に関しては、今がいちばん良い状態だと思っています」