今年の1月、セルフ・タイトルのファースト・アルバムで、シューゲイザー〜ギター・ポップ・シーンに鮮烈な爪痕を残したLuby Sparksが、早くもニューEP『(I'm)Lost in Sadness』をリリースした。

今作は、イギリス人と日本人のハーフであるErika Murphyを新ヴォーカルに迎えての初音源。これまでのポップでキュートな要素は後退し、80年代中期〜90年代初期の4ADレーベルが持っていた耽美で退廃的な世界観を、21世紀の感性で鳴らした意欲作に仕上がった。7分を超える壮大な表題曲をはじめ、マジー・スターのカヴァーなど聴きどころも盛りだくさんだ。

緻密にデザインされたサウンドスケープや、ライヴにおける演奏力の高さなど、デビュー間もないバンドとは思えぬ実力と、アートワークの細部にまでこだわり抜いた〈鉄壁の美学〉を兼ね備えたLuby Sparks。彼らのその並外れたクリエイティヴィティーは、いったいどこから来ているのだろうか。

Luby Sparks (I'm)Lost in Sadness AWDR/LR2(2018)

 

僕らみたいなサウンドのバンドって、実はあまりいないんじゃないかな

――新ヴォーカルのErikaさんが加入してから初の作品となる今作『(I'm) Lost in Sadness』が、第2期Luby Sparksの幕開けだと思うのですが、昨年のファースト・アルバム『Luby Sparks』については、いまどんなふうに思っていますか?

Natsuki Kato(ベース/ヴォーカル)「いまとなっては、ちょっと照れくさいですね(笑)。もちろん、よく出来た作品だとは思ってるんですけど、当時はまだLogic Proとかそういうソフトが使えず、iPhoneを2台使ってボイスメモにバッキングとリード・ギターを重ねて、それをバンドメンバーに聴かせながら〈リズムはこんな感じで〉って口頭で伝えていたんです。それをふまえて、各メンバーの演奏をまとめ上げるみたいな作業で。今作に比べるとトラック数も少ないし、音もスカスカだったんですよ。もちろん、あえてそうした部分もあったんですが。あのアルバムを出してから、またやりたいことも増えてきて、ちゃんとLogic Proも覚えた。デモをしっかり作り込めるようになって、曲作りの仕方も変わったと思います」

『Luby Sparks』収録曲“Thursday”
 

――やりたいことは、どう変わってきましたか?

Natsuki「ファースト・アルバムって後々重要になるから、〈ファーストっぽいファーストを出したい〉と思っていたんです。で、〈アルバム1枚出せたら、いったんバンドはいいかな〉とも思ってたんですよね。それだけ出して終わりというのでも」

――え、そうだったんですか?

Natsuki「ただ、反応も良くて嬉しかったし、もう少し続けてもいいかなと思うようになってきて(笑)。いま話したように、ファーストは音数も少なくてわかりやすいというか。めざしたのはヤックの『Yuck』(2011年)やスーパーカーの『スリーアウトチェンジ』(98年)でした。僕らもまだ10代だったし、若々しさを意図的に盛り込もうと思って作っていて」

――意図的に(笑)!

Natsuki「僕、好きなバンドとか徹底的に調べちゃうクセがあって(笑)、みんないろいろと試行錯誤しながら成功したり失敗したりしてるじゃないですか。そのうえで〈そりゃそうなるだろ〉って言いたくなるバンドもいれば、〈あ、ここからそう行くなんて凄いな!!〉と思うバンドもいたりする。でも、とにかくバンドは賛否両論を浴びながら前に進んでいくんだなということがわかったんですね」

――確かにそうですね。

Natsuki「なので、ファーストを出したあと、新ヴォーカルになり、Erikaは、前の子と雰囲気も違うし、声質は似ているんだけど、もう少し大人っぽい声というか。彼女のちょっとゴスっぽいニュアンスも取り入れたらおもしろいんじゃないかと思って。もう少しダークに作ったり、音を重ねる数も圧倒的に増やしたり。今回、大人っぽい雰囲気にしたので〈以前のようなポップさがなくなった〉と言う人がいても僕は全然構わないし、ファーストがずっと好きと思う人がいてもいいし。とにかくそうやって前に進んでいくのがバンドだと思うんです」

――そういう、達観した発想ってどこから来てるんですかね?

Natsuki「どこからだろう……。でも、〈自分たちがどう見えるか?〉はすごく気にしますね。僕と(ギターの)Sunaoは大学でブラック・ミュージック専門のサークルにいたんですよ。そこではブラック・ミュージックしかやっちゃいけなかったんだけど、ほかの人たちみたいにソウルやファンクの古典をやるのはつまんないから、僕らはブラッド・オレンジとかをやっていた。そのほうが目立つしおもしろいだろうと思ったんです。そうやって、常に客観的に物事を見るタイプではありますね」

――Luby Sparksを最初にライヴで観たとき、その演奏力に驚いたのは、そういう素地があったからなのだなと、いま納得しました。きっと、〈自分たちはこれしかできない〉と思ってLuby Sparksのような音楽をやっているのではなく、いろんな選択肢があるなかから主体的に選んで鳴らしているんでしょうね?

Natsuki「そうですね。いまのシーンのなかで、僕らみたいなサウンドを鳴らしてるバンドって、実はあまりいないんじゃないかと思っていて。まんまシューゲイズでもないし、かといってギター・ポップという感じでもない。ちゃんとヴィジュアルも決めて、結果を出しているバンドがいないから、意外と穴場なんじゃないかと」

――末恐ろしいですね(笑)。きっと曲名からこだわってますよね。

Natsuki「そうですね。歌詞よりも先にタイトルを考えます。文字数的に見たバランスはどうかなとか、このワードを使うのはベタ過ぎるなとか。いや、もちろんこういうサウンドが好きというのは大前提ですよ(笑)? そのうえで、いざやってみたらいろんなことが見えてきたというか。〈あ、自分がやっている音楽、実はそんなにやっている人いないな、これはいける!〉と思ったんですよね」

 

参照元があるって、全然悪いことだと思ってないんです

――今作で、曲作りの方法も変わりましたか?

Natsuki「ファーストのときは、コード進行もわかりやすかったと思います。〈このコードの次は、こっちに行けば気持ちいいだろう〉みたいな。でも、今回はそこでいったん立ち止まるというか。〈あれ、これじゃあいつも通りだな〉〈これ、よく聴くやつじゃん〉って思ったら、ちょっと違うコードに進んだらどうなるだろう?と試してみて、〈これはいままでやってなかった動きだな〉と思えるまで試行錯誤しました。僕、コードをまったく理解してないというか、1つも知らないので、かなり適当なんですけど。手が小さいのでコードも押さえられなくて、3音とか4音が限界なんですよ(笑)。それを、ギターの2人に手直ししてもらって、よりスケール感のあるコード展開にしてもらっています」

Sunao Hiwatari(ギター)「今回は、よりシューゲイザー的なコードの乗せ方を、前回よりもしていますね。カポを使って開放弦もたくさん鳴らしているし、マイブラもよく使っているような、アド9thや13th、11th、メジャー7thあたりのテンション・ノートもよく使っていて。コード進行の浮遊感はそれっぽいけど、シューゲイズほど歪ませないのがポイントというか。それって(ギターの)Tamioがファーストの頃からやっていたことですが、僕も今回は真似しています」

Natsuki「あと、前作ではバッキング・ギターとリード・ギターを明確に分けていたんですが、今回はリード・ギターをなるべくなくそうと思いました。〈あれ、どっちがどのギターを弾いてるんだろう?〉ってなるようなアンサンブルをめざしたというか」

――今回、特に新鮮だったのは7分超えの“(I'm) Lost in Sadness”でした。

Natsuki「今作で最初に出来たのがこの曲でした。〈壮大な曲を作りたい〉と思って作っているうちに止まらなくなっちゃって、展開が増えた結果、7分半に。でもこういう曲はいままでになかったし、この曲ができたことで今作のコンセプトも決まっていきました」

――この曲は、チャプターハウスの“Pearl”を彷彿とさせます。

Natsuki「ははは、やっぱり思いましたか。マズイな(笑)。もちろん、それ以外の曲にも影響を受けていて。例えばスーパーカーの“Sunday People”(99年)とか。あと、今作では打ち込みと生のドラムを組み合わせていますね。“Cherry Red Dress”は曲名のごとく『Heaven Or Las Vegas』(90年)や『Treasure』(84年)あたりのコクトー・ツインズを意識しているんですけど(笑)、ドラムを1ショット・サンプリングして組み合わせたパターンにリズムマシンを混ぜていて。

加えて、今作ではパーカッションを導入しました。意図的に80年代中期から90年代前期の4ADっぽくしようと決めていたんです。あの頃の作品ってトライアングルやボンゴなど、意外とパーカッションが肝になっているんですよね。ラッシュやペイル・セインツもよく使っているし。あれってマッドチェスターの影響から、シューゲイザー勢も取り入れたんたと思うんですけど」

――確かにマイ・ブラッディ・ヴァレンタインも“Swallow”や“Moon Song”などで使っていますし、シューゲイズ・サウンドとも相性がいい。前作もそうでしたが、Luby Sparksって膨大な音ネタを組み合わせたサンプリング・ミュージックのような作り方なんですね。

Natsuki「参照元があるって、全然悪いことだと思ってないんです。前作から引き続きプロデュースをしてくれたマックス・ブルーム(ヤック)も、〈ヤックの“Georgia”という曲は、もろヨ・ラ・テンゴの“Sugarcube”だ〉って教えてくれたし」

 

『(I'm)Lost in Sadness』の路線は4曲で完結している

――リード曲の“Perfect”はどのように生まれましたか?

Natsuki「4曲入りのEPという構成を考えたとき、まずフックになる曲が欲しくて、キャッチーに作ろうと思いました。前作を好きな人が、いきなり7分半の表題曲を聴いても〈おい!〉ってなるだろうし(笑)、前作と今作の繋ぎになる曲をリードに持ってきたんです。あと、これはTamioくんのアイデアだったんですけど、フリーティング・ジョイズの“You Are The Darkness”みたいに、バッキング・ギターと歌で始まったら、新しいヴォーカルを紹介するっていう意味でもいい感じになるかなと。前作で多用していた、バッキング・ギターにリード・ギターが重なって、イントロ、Aメロ、サビって進んでいく構成を、変えたかったのもありましたね」

――今回、Erikaさんの声だけを何本も重ねていますが、それもいままでにない試みですよね。

Natsuki「それもコクトー・ツインズからのインスパイアです。エリザベス・フレイザーの声がたくさん重なっている感じを再現したくて。あちこちから声が降り注ぐ感じや、ずっとハモっている感じ。どちらが主旋律だかわからなくなるくらい、ハモリが重要な曲を作りたかったんです。結果、ライヴで再現するのにいまとても苦労しています(笑)」

――(笑)。ハモリのラインはラッシュあたりにも通じるところがありますよね。あと、個人的にはインポッシブルズも連想しました。

※ケヴィン・シールズがプロデュースしたことで知られる女性2人組のバンド。90年代初頭に数枚のシングルを残す

Natsuki「インポッシブルズ、知らなかったです。聴いてみます。あと、クランベリーズなども意識しましたね。それと、ベースにコーラスのエフェクトをかけて、ハイポジションでコードを弾くとか。80年代のニューウェイヴやドリーム・ポップっぽい感じだと思います」

――それと、今回はE-Bowを結構使ってますよね?

Natsuki「きた(笑)!!」

Sunao「E-Bowは大活躍しました。レコーディングの前日に買って、最初は試しに“Cherry Red Dress”でワンフレーズだけ使ってみるくらいのつもりだったんですけど、エフェクトをかけるといろんな表現ができることに気がついて。シンセっぽくもなるし、弦楽器っぽくもなるし。アタックがないのがほんとおもしろくて使いまくってしまいました。“Perfect”以外のすべての曲で使いましたね」

――最後に収録されたマジー・スターの“Look On Down From The Bridge”のカヴァーは、Erikaさんの発案だそうですね。

Erika Murphy(ヴォーカル)「自分が上京してきたばかりの頃、ホームシックでめっちゃ落ち込んでたんですけど、そのときにずっと聴いてたんです。落ち込んでいるときに暗い曲を聴くのが好きで。カヴァーの話が出たときに、〈フォーキーな曲がいい〉という話になってたので。〈これしかない〉と。私、映画がすごく好きなんですよ。マジー・スターも『完全犯罪』(99年)という映画のサントラに使われていて知ったんだと思います」

※96年作『Among My Swan』収録曲“Flowers In December”が使われている

――ちなみに、どんな映画を観るんですか?

Erika「いちばん好きなのは『クロウ/飛翔伝説』(94年)です。主演のブランドン・リーが、撮影中に亡くなったいわくつきの映画なんですけど、サントラがヤバすぎて。キュアーやストーン・テンプル・パイロッツ、ナイン・インチ・ネイルズなどが入っているんですよ」

Natsuki「教えてもらって聴いたらめちゃ良かった。メディシンとロビン・ガスリーのコラボ曲も入ってて、それも最高でしたね」

――じゃあ、今作からのゴスっぽい要素はErikaさんの影響なんですね?

Erika「完全にそうですね(笑)」

――新メンバーの影響がちゃんと音楽性に反映されているのって、健全な感じがします。あと、このカヴァーのイントロ部分はちょっとフリート・フォクシーズっぽい感じもありますよね?

Natsuki「わ、またきた(笑)!」

Sunao「大好きなんですよ、フリート・フォクシーズ。ああ、そうか。確かに言われてみればそれっぽいですよね」

Natsuki「個人的にはコクトー・ツインズの“Domino”みたいな、教会っぽいヴァースを意識しました。そこにフリート・フォクシーズの要素も入ったのかもしれないですね。Sunaoは絶対音感があって、なにかというとすぐハモってくるんですよ(笑)。それでハモリをErikaと僕と3人で一緒に考えました」

Tamio Sakuma(ギター)「ちなみに僕にとってこの曲は、カヴァー×カヴァーなんですよ。というのは、スロウダイヴがシド・バレットの“Golden Hair”をカヴァーしているじゃないですか? 僕らはそれを参考にしたうえでマジ―・スターをカヴァーしたから」

Natsuki「スロウダイヴはいつも、“Golden Hair”をライヴの最後にやってるんですけど、YouTubeに上がっているライヴ映像で、この曲を聴きながら青い髪の女の子が号泣しているシーンがあって。それが超エモくて、〈こういうのやりたい!〉って思ってメンバーと共有したんです(笑)」

――ほんと、隅々にまで美学が貫かれたうえに、好きな音楽へのリスペクトがひしひしと感じられる作品でした。今後の展開など、どんなふうに考えていますか?

Natsuki「まだ次の展開とか特に考えていないんですけど、とりあえず今作は4曲で完結するものを作ったつもりです。1つのアルバムくらいの聴き応えはあると思うので、ぜひじっくり聴きこんでほしい。僕らとしては、この方向も突きつめつつ、次はまた新しい要素も取り入れられたらいいなと思っています」


Live Information
The Vaccines 来日公演

2018年11月21日(水)東京・SHIBUYA duo MUSIC EXCHANGE
出演:ヴァクシーンズ/Luby Sparks
開場/開演:18:00/19:00
料金:前売り 6,500円(+1ドリンク)
プレイガイド:e+/ぴあ(P: 125-803)/ローソン(L: 72809)
協力:SONY MUSIC JAPAN INTERNATIONAL
企画制作:SMASH