
あんなに気持ちいいグルーヴを出せる人は、福森康しかいない
――その二人は渋い音楽もうまくやるんですよね。もう一人のリズム・セクションである福森さんはどうですか?
井上「あんなに気持ちいいグルーヴを出せる人は、自分の周りには康くんしかいないなと思います。スネアの〈パキ!〉って音がすごいポケットにハマってるというか。一聴してすぐ康くんの音だってわかりますし」
山本「特殊だと思います」
渡辺「身体が反応しちゃうドラムですよね」
井上「8ビートがホントに気持ちよくて。ジャズ系のドラマーでも8ビートが上手い人はいるけど、あんな感じの人はいないですね。だから、康くんとやるんだったらこういう曲が作りたいっていうのも出てきやすいんです。“To The Light”とかではジャズ的なドラムを叩いてもらってるんですけど、康くんは20代の頃にジャズの人たちとたくさんセッションしてきているので、そういうドラミングももちろん理解が深いですし」
――セッティングもジャズっぽくはないですよね。
井上「康くんはセッティングを3か月に一回くらい変えている印象なんですよ。いろいろ実験してて、いきなりタムがなくなったり、フロアとスネアだけになってたりとかしてますね。スネアの音がパキッと高音なイメージがあったんですけど、今作では全体的に低い音にチューニングしていて。スネアの低い音がアンサンブルの中でいい締まり方をしていて、それでかなり重心が締まった気がします」
――銘くん的に〈こうやってほしい〉とかはないんですか?
井上「音色に関しては……自分がイヤなんですよね、言われるのが(苦笑)」
山本「銘くんは基本好きにやらせてくれて、気になったら言うって感じですね」
井上「どういう音色にするのかはそれぞれの考えがあるので、そこは尊重するところかなと思ってるんです。自分は曲の大元のところでだいぶ縛ってるから、それ以外では自分の知らない世界を見せてもらおうというか。だから演奏に関する細かい指示もしていないんです」
渡辺「STEREO CHAMPで初めてスタジオ入ったとき、そこに一番ビックリしたかもしれないです。銘くんがめっちゃ委ねてくれるから。サポートの現場に行ったときに、自分のアイデアとかやりたいことって普通はできないじゃないですか。でも、STEREO CHAMPでは自分のやりたい音色でまず試してみることができるんですよね」

井上「そう言ってもらえるのは嬉しいですね」
渡辺「それからは、自分のリーダーでやるときにもあまりメンバーを縛らないようにしていて。それはSTEREO CHAMPから学んだことですね」
井上「いやいやいや。そんな大それたことではないです。単純にそういう細かい話をするのが苦手なんだよね(笑)」
――井上さんのそういうところが、昭和っぽくてすごくおもしろいと思うんですよ。
井上「記事に〈昭和のギタリスト〉って見出しが入ってしまう(笑)」
天才・渡辺翔太
――井上さんから見て、渡辺さんはどういう印象ですか?
井上「天才だと思ってます。中でも一番すごいと思ってるのは、リズム感。驚異的にリズム感が良くて、めちゃくちゃタイトなんです。康くんも連くんもすごいタイトなプレイヤーなんですけど、翔太くんはその二人が作ったグルーヴをさらに正確にみじん切りするようなプレイ。一緒に演奏してて驚異的に思うことはしょっちゅうありますね。あと、いろんなものをすごく研究していて、それを全部自分のものに昇華してるところ。……めっちゃ尊敬してますよ。前作の“Heliotrope”での翔太くんのソロ、俺あの後コピーしてますからね」
――なぜコピーしたんですか。
井上「翔太くんの弾くフレーズとか全部、好きだからです。昨日も翔太くんのライヴを観に行ってたんですけど、ソロが始まると〈どんな景色を見せてくれるんだろう〉っていつもワクワクするんですよね。目をつぶって、段々ヒートアップしていく演奏を〈おお~〉って思いながら聴くんです。翔太くんはモテるピアノですよね」
山本「わかる。全然音楽を知らない人も心を持って行かれるようなプレイ。コアな攻めたプレイをしていても、キャッチーに聴こえるんだよね」
井上「その秘密はリズムなんじゃないかなと思ってるんですよ」

――以前、僕が渡辺さんのアルバム(2018年作『Awareness』)のインタヴューをしたときも、リズムの話をたくさんしましたよね。
渡辺「リズム感というか、タイムは元々好きなのはありますね。変拍子とか複雑なのも、同じグルーヴの中でファンクみたいにやるのも。リズムっていう概念が好きなんです。特にピアニストだからソロを弾くときに、このドラムをグルーヴがある中でどう割っていこうかとか、ジャズのアンサンブルだったらドラムが流動的になったときに、こっちも流動的にどうカマしていくかとか。ハーモニーで考えることもあるんですけど、それをリズムだけで考えていた時期があって。
同じ形式や同じメロディーのパターンで、リズムだけを変えて、歌を変えていくようなやり方というか……けっこう現代的だとは思うんですけど。ポリリズムとかそういうやり方が好きなんです」
――以前のインタヴューではラテン系のリズムを研究してたエピソードを話してくれて、パナマのダニーロ・ペレスから始まって、ベネズエラのエドワード・サイモンの話もしましたよね。
井上・山本「へー!」
井上「翔太くんのお父さんって渡辺のりおさんというめっちゃかっこいいギタリストなんですけど、一度名古屋で翔太くんと翔太くんのお父さんと、森山威男さんのセッションを観に行ったんです。
そのときに、翔太くんとお父さんは根本的なリズム感が似てるなと思ったんです。アンサンブルで翔太くんが盛り上げるときのピークの達し方とか、グルーヴの大きいプレイでバーッと持っていくまでの細かいタイトさとか。親子を感じましたね」
渡辺「たしかに小っちゃい頃にリズムの話はよくされましたね。小学校2~3年の頃に急に〈お前コレできるか?〉ってドラムのパターンを教えられて。すごい練習して〈できるようになった!〉って家でずっとやって、〈食事中はやめろ〉と言われたりしましたね(笑)」
類家心平はロバート・プラント?
――類家(心平)さんはどんな印象ですか?
井上「類家さんに関しては、トランペットとやりたいんじゃなくて、類家さんとやりたいって感じなんですよね。圧倒的な存在なんです。自分の中で、レッド・ツェッぺリンのロバート・プラントみたいなポジションなんですよ」
――どういうことですか(笑)。
井上「ツェッぺリンって、ジミー・ペイジの20分くらいの長いギター・ソロの間、ロバート・プラントが歌わないで隣でタンバリン叩いてたりするんです。それでもかっこいいんですよね。で、同じように類家さんも存在だけで締まるんです。だってここ(STEREO CHAMPのアー写を指して)にいなかったらけっこう違くない?」
山本「ああ、青い感じはするね(笑)」

井上「あと、体力とか気合いもハンパないんです。俺、一昨日まで類家さんと本田珠也さんのTAMAXILLEでツアー回ってたんですけど、このバンド、全然手加減ナシな曲ばっかなんですよ。で、最後に類家さんが10分くらいソロを取り続ける曲があるんですけど、全然疲れた感じを出さないんですよね。黙ってパキッと仕事をする。俺もこういう大人になりたいな、と」
――たしかに、ライヴでの表情とかずっと変わらないですもんね。
井上「あと、今作では特にサブトーンがかっこいいです。ハイトーンも類家さんの必殺技でかっこいいんですけど、息が多くてかすれたサブトーンがセクシーすぎるんですよ!」
――類家さんはペダルを使うのもすごく上手いし、ハイトーンにいかないときのほうが類家さんっぽいことはありますよね。以前、類家さんにトランペットとエフェクターについてを訊く取材※や、ロイ・ハーグローヴについて訊く取材※をやったことがあるけど、昔はmabanuaさんやKan Sanoさんたちとセッションしていた人なわけだし、相当研究してて、すごくわかりやすく説明してくれました。
あと、今回同時リリースとなる井上さんのソロ・アルバム『Solo Guitar』では、アコースティックの曲がありますよね。この作品はどんなモードで?
※柳樂が監修した2016年の書籍「MILES:Reimagined 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド」に収録。intoxicate掲載のレヴューはコチラ
※Mikiki掲載記事:類家心平、ロイ・ハーグローヴの影響力を語る―来日迫る伝説的トランペット奏者が日本の音楽シーンにもたらしたものとは?
井上「4年くらい前から本厚木のCabinというお店でソロ・ギターのライヴをやってて。そこにレーベルの衛藤さんが観に来てくれて、アルバムを作らないかと提案してもらいました。それでせっかくソロをやるんだったらアコギのほうがいいかなと思って、アコギを買って。そのライヴではジャズ・スタンダードばかりやってたんですけど、今回それらはレコーディングはしてないんです。STEREO CHAMPでオリジナルというかやりたいことをやってるので、こっちでは、いつも応援してくれてる人たちへの〈感謝アルバム〉というか、〈温もり系〉な作品にしたいなと」
――いいアルバムですよね。“Sunny”とかあるのが井上銘くんぽくて。
井上「“Sunny”に関しては、パット・マルティーノのライヴ・アルバムのテイクが、ジャズで一番最初にコピーした曲で、その後ジャズにのめり込むようになったきっかけの曲なんですよ」
――“Fireworks”はサックス奏者の井上淑彦さんの曲で。森山威男さんのグループでも知られる名曲“Gratitude”を書かれてる名作曲家でもありますよね。
井上「淑彦さんは亡くなる3年前くらいから一緒にやっていて。“Fireworks”は彼の書いた曲の中でも特に好きな曲で、自分のスタンダードでもあるので入れました。俺がバークリーに留学していた時期、一時帰国したときに淑彦さんはライヴ組んでくれてて。そのときは自分も今より未熟だったので、淑彦さんの曲が難しかったんですよ。今だったらもっとちゃんとできるのになって」
――あと、ボサノヴァをやるイメージはなかったですけど“Chega De Saudade”が入っていたり。
井上「ブラジル音楽にハマってた時期はあったんですけど、あまり表だってはやってないですね」

――井上さんのギターは元々ブルースっぽいんですけど、バークリーから帰ってきた頃はトニーニョ・オルタとかブラジルも好きそうな感じがサウンドにありましたよね。『MONO LIGHT』にもその留学から帰ってきた直後のちょっとクールな感じも微妙に入ってるなと思いました。
STEREO CHAMPは、前作はファーストということもあってとりあえずガツンとやった感じだったけど、今回はトーンも落ち着いて、まとまりが出てるし、クラクラ以降のキャッチーさもある。それにさっき歌の下りでお話されていた〈透明〉な感じもあって、これまでの井上銘が全部詰まってる感じもしますね。
井上「嬉しいですね。……まあ最高なんですよ、メンバーのみんなが」

Live Information
STEREO CHAMP “MONO LIGHT” Release Live
日時:2019年2月12日(火)東京COTTON CLUB
1st 開場 17:00/開演 18:30
2nd 開場 20:00/開演 21:00※2ステージ完全入替制
チケット:
テーブル席/5,000円
指定席/
BOX A (4名席):7,000円
BOX B:6,500円※相席無し
BOX S (2名席):6,500円
SEAT C (2名席):6,000円
一般予約開始日:2018年11月24日(土)11:00
予約受付先:コットンクラブ(03-3215-1555)
WEB予約 ※公演当日の14:00まで
※詳細はコチラ

STEREO CHAMP所属・リボーンウッド主催イヴェント
〈ReBorn Wood Sessions〉がスタート!
ReBorn Wood Sessions Vol.1 Shota Watanabe Trio
feat. Sara Yoshida from ものんくる
日時:2018年12月3日(月)東京・神楽坂TheGLEE
開場/開演:18:30/19:30
前売予約/当日:4,000円/4,500円※ご飲食代別途/予約制/先着順自由席
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ReBorn Wood Sessions Vol.2
May Inoue “Solo Guitar”アルバムリリースライブ!
日時:2019年1月18日(金)東京・神楽坂TheGLEE
開場/開演:18:30/19:30
前売予約/当日:3,000円/3,500円※ご飲食代別途/予約制/先着順自由席
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