聴き手の心を癒し、潤してきた歌声。前作から2か月という短いタームで届けられたニュー・シングル“プロローグ”で始まるUruの冬は、いつもより切なくて……。

危うさと純粋さの狭間で

 2018年の、とても暑かった夏。Uruは、京都での初ワンマン・ライヴを2日間に渡って開催した。彼女がこれまでステージに立ったのは、大盛況だったその2日間を含めても両手に余る数。ヴェールに包まれた部分がまだまだ多い彼女だが、それでも何らかの形でUruの歌を耳にした人たちの心を、確実に揺らし、掴んできたに違いない。そんななか9月の“remember”に続くニュー・シングル“プロローグ”が早くも届けられた。

Uru プロローグ ソニー(2018)

 彼女にとって前作から2か月余りともっとも短いスパンでのリリースとなった“プロローグ”は、10月から放映されているTVドラマ「中学聖日記」の主題歌になっている曲で、第1回放送のサブタイトル〈教師と生徒...許されない禁断の純愛ラブストーリー〉からも明確なテーマのもと、彼女自身が詞と曲を書き下ろしたものだ。

 「禁断の恋……というか、まっすぐに気持ちを向けられるものではなく、どうしてもブレーキをかけてしまう恋愛というのは、難しいテーマではありましたね。でも、たぶん、みなさん何かしら一度は……友達の恋人をかっこいいなって思ったり、それ以上の行動はしなくても、そういう経験がないとは言えないと思うんです。なので、脚本を読ませていただいてから、〈私だったら……〉っていう妄想を膨らませつつ、曲を書きました。危ういところとすごく純粋なところを行ったり来たりする繊細なストーリーなので、そこは外しすぎないように。歌詞についてはドラマの制作の方ともやりとりさせてただいたんですけど、ドラマが放送される前だったので、最初はなかなか映像を想像しきれなかったんですけど、もう一回脚本を読んだり、原作を読ませていただいたりしながら何回かやりとりを繰り返して、ドラマの雰囲気にも沿うものができました」。

 “プロローグ”のアレンジは、“remember”に引き続いてのトオミヨウ。詞とメロディーに練り込まれていったデリケートな情感が、表情豊かなバンド・サウンドによってドラマティックに引き立てられている。

 「これは制作ディレクターと話していたことなんですけど、トオミさんのアレンジはすごく綺麗で整っているんだけれど、一個一個の音をよく聴くと〈こんなことをしてたのか!〉っていうような遊び心がある。ちゃんとひとつひとつの音に役割を持たせてくれてるんです」。

 

この先に向けての〈思いきり〉

 カップリングに収められているのは、昨年開催された大阪、福岡、仙台でのワンマン公演でも披露されていた情熱的なナンバー“PUZZLE”。ファースト・アルバム『モノクローム』の冒頭を飾った“追憶のふたり”以来となるKan Sanoのアレンジで、ピアノを軸とした流麗なサウンドに乗せて歌われる切ないラヴソングだ。もはや〈Uruらしい〉と言ってもいい、ノスタルジアを喚起するメロディーがまた、美しい。

 「聴いた方の多くが〈この曲、好きです〉って言ってくださったので、出せるのを楽しみにしてたんです。この曲も、“プロローグ”のように切ない世界観ですが、もう少し大人の世界の〈禁断〉な感じというか、そういうものを書いてみたいなと思っていて、メロディーが先にできたんですけど、それが夜の繁華街っぽいイメージだったんです。たしかに、私が作る曲にはどこかにノスタルジーというか、歌謡曲のような匂いが染み込んでいると思います。親の聴いていたものを自然と耳にしていて、それが反映されているのかもしれないですね」。

 さらにもう1曲。デビュー前にYouTubeを通じて100曲に及ぶ邦楽カヴァーを発信してきた彼女だが、その原点を確かめるかのように、“remember”での山崎まさよし“One more time, One more chance”に続き、今回は中島美嘉の代表曲となる冬の名曲“雪の華”を取り上げている。もちろんYouTubeでもステージでも披露したことがないカヴァーながら、逆にいままで取り上げていなかったことが不思議なぐらい、自然にこの歌の世界に融け込んでいる。

 「実は、YouTubeをやっていた時も、カヴァーしようと思ってピアノまで弾いていたんですけど、歌ってみたら……中島さんってファルセットがすごく綺麗で、あの綺麗なファルセットと切ない歌い方──私はこの感じを出すことはできないなって、その時は諦めて、デビューしてからもライヴのセットリストの候補に挙げることもなく、しばらく遠ざけていたんです。それで、今回のシングルのカヴァー曲を考えたときに、リリースが12月=冬なので、冬の名曲といえば……といってやっぱり思いついたのが“雪の華”で。名曲だし、みんなが知っている曲だし、ここはもう一回挑戦してみたいなと思って、今回は歌わせていただきました。いま考えると、以前は中島さんみたいに歌おうとするからできなかったと思うんですね。なので今回は、中島さんみたい歌うんじゃなくて、自分の声で、自分のなかのせつない感じを素直に出して歌いました」。

 以上の3曲に、昨年リリースした“奇蹟”の〈ピアノと歌〉だけによるセルフ・カヴァーを加えて構成されたシングル“プロローグ”の全体像は、いつになく〈切なさ〉モードに振り切ったもの、という印象がある。次作に向けての曲作りもすこぶる順調な様子の彼女だけに、今作での〈思いきり〉を、この先に待っている未知なるUruへの期待を募らせるもの、と捉えても、あながち間違いではなさそう。

 「いろんな歌を歌いたいなって思っているので、アップテンポもバラードもミディアムも、もともと好きだったR&B的なものも最近はちょっと作ってみたりしていて。ただ、私の曲を聴いてくださっている方のなかにはバラードを求めている方も多いと思うので、アップテンポでもR&Bでも〈これもやっぱりUruだよね〉って言ってもらえるには、という部分を常に探っています。いま作っている曲のなかには、早く聴いてほしいなっていうものがいくつかあって。自信作というよりは、自分が好きなんですね、その曲を。大体の場合、短い時間でスッと生まれてきた曲のほうが、そのときの気持ち良さだったりも一緒に憶えているからなのか、自分でも好んで聴きがちなんですけど、そういう曲がいくつか出来上がっているので、早くお届けしたいですね」。

Uruの作品を一部紹介。

 

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