歪さや異分子を含めたコミュニティー・ミュージック

――いま話してくれた〈P A L A C E(β)〉のありかたは、アルバム『HEX』の下敷きにもなっていそうですね。

「アルバムに内包するテーマとして、〈人と人との繋がり〉みたいなものが出発点ではあるんです。日本もいま移民を増やすのか/増やさないのかというのが問われていると思うんですけど、すでにこのタワーレコードのオフィスの隣にあるローソンには外国人の店員しかいないですよね? そういう現状があるなかで、なんていうのかな……それをちゃんと音楽に内包していくというか、いろんな人種がいて、いろんなコミュニティーがあって、いろんなフォークスがあるという、バンドの活動としてそれらを表現したいとは思っています」

――それは、物事を二極化でジャッジしない、多様な価値観や〈正しさ〉を許容するという態度でもある?

「〈正しいことであることが正しいことではない〉という考えに基づいているとは思うんですよね。ようやくLGBTって言われるようになったけど、 LGBTのなかにもすごくグラデーションがあるじゃないですか。好きな色が違うとか、服装のセンスが違うとか、そういうのと同じ。一人一人の人間をiPhoneに喩えると、同じ器に見えても、その中に入っているアプリは全然違うし、バックグラウンド画面も違う。だからこう、ウォーホールの〈キャンベルスープ〉に近いっていうか、複製だけどちょっと違う感じ、その圧倒的な個性。70億人の違いを一個一個考えたら気が狂うほどで、明確に〈これがこうです〉というのはまったく通用しないと思うんです」

――“VENOM~天国と地獄”の歪んだ音や“Innocence”のインダストリアルなビートなど、今作は意識的にノイズを採り入れている印象です。それは生物学的な集団が、存続していくために一定の異分子を自動的にそなえていることに近いのかなと。アリの集団のなかにも、働かないアリが必ずいるみたいな。

「うん、そういう秘密はアルバム内にいっぱい散りばめられていますね。ノイズであったりバグであったりとか、グリッドに合わせて人間が演奏するという行為自体もHEX (=六角形)っていうタイトルに関係している。蜂は六角形という人工的な形を自然に作り出して、それを巣として住んでいるけれど、いまは人間も当たり前のようにオンラインに繋がっていて、ボタンを2個くらい押したら、すぐにご飯が届くという世界に暮らしている。そのハイブリッドさのなかに生きている自分たちと、ナチュラルに人工的なものを作り出す蜂は近いんじゃないかなと感じています。

今回、僕のヴォーカルもわざとバツバツに加工していて、よく聴くとすごく変なんですよ、まったくナチュラルじゃなくて。すごく歪な形の人間が透けて見える。ただ、いまの僕たちのサウンドトラックを作るとしたら、そういった表現にしなきゃなって思ったんですよね」

――「マトリックス」や〈エヴァ〉的な個人が世界と一体化している状態ではなく、歪さを含めた違い、多様性も含めて映し出したかったということでしょうか?

「歪さや異物感と向き合わざるをえなかったんでしょうね。日本の社会だと、〈よーっ〉と一本締めをやったとき、みんなが手を叩くタイミングが合うけれど、それをNYでやろうとしても無理でしょう。だってイスラムもいてクリスチャンもいてジューイッシュもいて中国人もいて、それが当たり前なコミュニティーになってるから。そして、日本もさっきも言ったけど、いずれはそうなるんじゃないかなと思うし、その流れはもう止まらないと思う。

だから、その歪な形をどれだけ、好きにならなくてもいいけど、いるよねって認識できるかが大事。無視をしないでほしいし、無視がいちばん怖いですよ。嫌いになってもいいし、好きになってもいい、だけど何も感じなくなるようにはなりたくない」

――異端やマイノリティーの眼差しをどう作品に落とし込むかというのは、ここ数年のアートにとっても基準点のように思います。

「作っている途中にいろんな映画を観たけど、『君の名前で僕を呼んで』(2017年)とかも超マイノリティーの話だったし、『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)とかもそうじゃないですか? みんな表現しようとすることは近いんだなって励まされたりもしました」

 

頭が開いて、いくつもの光線が出ていくような超越的な音楽体験がほしい

――今作における三船さんの歌詞は、〈僕ら〉という一人称が多いじゃないですか? 表現が作り手のものであるという価値観も、越えていこうとしている印象だったんです。

「最近すごく思うんですけど、自分の体の外側は自分じゃないのかっていうと、たぶん違うんじゃないかなって。いま亮太さんと話している三船は、亮太さんのなかに存在してる三船かもしれないし、実際、いまいる三船は亮太さんと話すときだけの三船ですよね。逆に田中亮太っていう人間は、俺にとっては別の人として生きているようだけど、でもそれは俺のなかにもいるぞって、なんかシェアし合っている感じ。そうすると他人事じゃなくなるっていうか……急に自分に全部関係があることなんじゃないかと思えてくる。考えすぎると頭がおかしくなっちゃうので、突き詰めないようにしてますけど(笑)」

――(笑)。

「それは、自分が歌う人間だから、いっそう感じたことかもしれないですね。何百人、何千人の前で歌うという環境をもらったときに、その人たちが自分とどこまでセパレートしているかどうかっていうことを考えるようになった」

――さっきiPhoneが喩えに出ましたけど、自分とこの机にある僕のiPhoneと、どっちが本物の自分なのかわからなくなる感じってあるじゃないですか? スマホのほうが世界と繋がっている気がして(笑)。

三船「わかります(笑)」

――それは SNS 以降の感覚だと思うんですけど、その状態は人間の死生観にもすごく影響を与えている気がする。というのも自分が死んだあとでも Twitter アカウントや Facebook アカウントは残っているから、それははたして本当に死んだことになるのかなと。“Homecoming”の歌詞にも〈永遠に僕ら生きてしまおう〉っていうラインがあるけれど、それが願望でなく、ある種のリアリティーを帯びて響いている。

三船「自分が考えてる断片みたいなものをネット上にちょっとずつコピーして置いておくようになって、自分の残り香みたいなものがオンラインにパックされるようになりましたよね。それが100%コピーできるようになったときに、死が乗り越えられるのかはわからないけれど、自分の不在が認識されないという世界はもう来ていますよね。そこは怖いです。もう死ねないんですよ、僕ら」

――いなくなることも不可能という時代において、ロットの音楽がかえりみると、三船さんは壮大なカタストロフを期待している面があるんじゃないかなと思っているんです。

三船「ハハハ(笑)。期待っていうか、カタストロフが起きたときにも楽しめる自分でいたいとは思っていますね。台風の夜でも〈わーい!〉って外に出られる自分でいたい」

――その圧倒的な、ある種の宗教的な諸相さえ帯びた体験というのは、三船さんがロットの、特にライヴで喚起したいものだったりしませんか?

「僕は音楽に死ぬほど感動させられてしまった――雷に打たれたような、全身の毛穴が開くような、頭の後ろがパカっと開いてしまって光の光線がいくつもブワーッと出てくるような体験に何度もやられてしまった人間なので、聴いている人を感動させたいし、自分が感動したいっていうのを大前提として音楽に求めてるんですよね。感動があって泣き崩れるくらいのものでないと何か物足りない。僕は年に1回くらいはそういうやられ方をしたいというか、人生の大事なときにはそうなりたい。自分でそれをやりたいと思って音楽を始めたんです」

――ちょうどツアーの序盤がスタートしたところですが、12月9日(日)には東京のWWWでワンマンが開催されます。この日はフルの7人編成で、VJもいるとか。いま言われたような、すさまじい感動を期待してしまいます。

「トランペットの竹内悠馬、トロンボーンの須賀裕之と大田垣正信に加えて、岡田拓郎にギターで入ってもらいます。で、レギュラーの西池さんがシンセサイザーでいて、あとは僕と中原。自分たちのやりたいことは、『HEX』 を通した目線で、いままでの曲やバンドっていうものを 2018年〜2019年の目線で捉え直す、アップデートしていくってことですね。ライヴはすごくフィジカルなものだけど、そのうえで機械をどうコントロールするのか、あるいは自分たちがどうコントロールされるのか、テクノロジーを使いつつ何を表現するかというハイブリッド感みたいなところが主題になっています」

――『ATOM』時に〈BEAR NIGHT〉 でやられた10人編成のときよりは、サイバー感やデジタル感が強まっているとイメージすればいいでしょうか?

「そうですね。『ATOM』のときは、もっと人間の力で抗おうとしていたけれど、『HEX』ではもっと許容するというか、新しい扉が開いた感じ。映像チームとも曲ごとにミーティングを重ねながら、WWWの大きなスクリーンの良さを生かすライヴ作りにトライしています。音の色彩感的にはソリッドだし、前ほどガチャガチャしてないときもあるかな。そこのスペースに、いかに音を聴くかが観どころだと思う。いまのロットのライヴは、僕ら史上、ものすごくエネルギーに満ち溢れているっていうことを実感していますね」

 


Live Information
〈ROTH BART BARON "HEX" TOUR 2018-2019〉
2018年12月8日(土)京都 木屋町 UrBANGUILD
2018年12月9日(日)東京・渋谷WWW ※ワンマン
2018年12月22日(土)石川 金沢puddle/social
2018年12月23日(日)富山・高岡 若蔵酒造"大正蔵"
2019年1月12日(土)熊本 蔦屋書店熊本三年坂 ※アコースティック・ライヴ
2019年1月13日(日)福岡・薬院 UTERO ※ワンマン
2019年1月14日(月・祝)山口・岩国 ロックカントリー
2019年1月18日(金)名古屋 伏見 JAMMIN' ※ワンマン
2019年1月19日(土)大阪・心斎橋 Clapper ※ワンマン
2019年1月20日(日)広島・福山Cable
2019年2月2日(土)北海道・札幌Sound Crue
2019年2月3日(日)北海道・札幌Curtain Call
2019年2月10日(日) 静岡・浜名湖 舘山寺

保護者同伴に限り2名まで小学生以下入場無料
会場により学生割引あり

★各公演の詳細やその他のライヴ情報はこちら