(C)Takehiko Tokiwa
 

多彩な音楽をブレンドし、新たな地平を切り拓く

 ストレート・アヘッド系のプレイヤーとして、キャリアの初期からロイ・ヘインズ(ds)らと共演して、その実力を広く知られたマーカス・ストリックランド(ts,as,ss,b- cl)が、ヒップホップ・オリエンテッドな作品を発表した。タイトルの “Nihil Novi”とは、ラテン語で“Nothing New”という意味で、何か新しい音楽を創造したとしても、それは必ず過去の作品からの影響から逃れられないという、ストリックランドの信念をタイトルに 冠した。数年前から、ニューヨーク・タイムス紙などでも、ストリックランドやルブーフ・ブラザースが、ファイル交換をしてビート・ミュージックを制作しているのが、ポスト・グラスパーのムーヴメントの萌芽であると指摘されていた。

MARCUS STRICKLAND'S TWI-LIFE Nihil Novi Revive/Blue Note(2016)

 ストリックランドは、ストレート・アヘッド系と並行して活動していたエレクトリック・ユニット、Twi Lifeでの活動も繰り広げていたが、遂にその全貌が本作品に結実した。ミッシェル・ンデゲオチェロ(el-b,vo)をプロデューサーに迎え、彼女のミニマリズムなプロデュースにより、シェイプを研ぎ澄ました音楽となった。特筆すべきは、その多彩なアイディアの源泉であろう。バルトークの東欧音楽とヒップホップの J・ディラのビートを融合させた《Talking Loud》、マリの民族楽器、21弦ハープ奏者バゾウアナ・シソッコにインスパイアされた《Sissoko's Voyage》、ミンガス・ビッグ・バンドでの演奏から亡きチャールス・ミンガス(b)をトリビュートした《Mingus》と、ジャズ、ヒップホップ、R&B、民族音楽をブレンドし、壮大な音楽ストーリーを描く。

 4月12日のニューヨーク、ル・ポアゾン・ルージュでのリリース・ギグには、Twi Life のレギュラー・メンバーに加えて、アルバムにもゲスト参加しているクリス・デイヴ(ds)が参戦。グルーヴの嵐の中、マーカス・ストリックランドのホーンが咆哮し、新たな地平を切り拓いた。