オリジナル・アルバムを元に振り返る七尾旅人の足跡
〈disc2〉とあるが、正真正銘1枚モノの初作。特異な歌唱法に型破りなポップスの雨アラレ状態で、ジャズやドラムンベースなど雑多なスタイルを駆使しつつ濃密な世界を構築していく様に、目に見えぬ〈disc1〉にはいったい全体どれほどのポテンシャルが隠れているのか?と脅威を感じたほど。
21世紀を迎えても天才はやはり天才のままだった、という事実を証明した2作目。アコギのみで歌われるラヴソングやエクスペリメンタルなヴォイス・コラージュなどカードの切り方がより大胆さを増して、音世界が著しくスケールアップ。とにかく才能の渋滞ぶりが甚だしい、34曲入りの2枚組。
煌びやかかつエキセントリックなサウンド・アプローチを封印してギター演奏に焦点を絞り、念を入れて歌と物語を提示してみせた3作目。三味線をフィーチャーした“ぎやまん”、空気公団の山崎ゆかりをデュエット相手に迎えた“まほろば”の美しさと雄弁さが際立っている。
〈9.11〉の出来事、それに端を発するイラク戦争がモチーフとなった圧倒的な音楽叙事詩。軸は子どもらを交えた朗読劇だが、歪でダークなエレクトロニカやアシッド感満点なバラードなど楽曲の多彩さも見逃せない。歌モノにおける七尾のストーリーテラーとしての成熟ぶりも聴きどころだ。
やけのはらとのコラボ曲“Rollin' Rollin'”を含む5作目。メロウな“どんどん季節は流れて”などブラック・ミュージックへの傾倒を感じる楽曲が目を惹くが、先鋭的でありつつ開かれた音作りが随所で実践されている点に注目したい。清らかな空気に包まれた“私の赤ちゃん”はUAがカヴァー。
時を重ねるごとに重みが増している“圏内の歌”がそびえ立つ6作目。怒りや悲しみの心が散りばめられているが、“湘南が遠くなっていく”や“サーカスナイト”などマジカルな旋律を持つ曲が特別な存在感を放ち、素直に泣けてしまう。歌い手としての才能を余すことなく発揮した名作。

一人目の戦死自衛官に扮した七尾が100年間の物語を紡ぐ音楽劇を収めた映像作品。トータル3時間、“Fly Me To The Moon”や“赤とんぼ”のカヴァーを交えながら語られるのは〈戦争〉という悲惨な暴力を前にしてただただ無力な人々の叫び。嘆きの咆哮というべき梅津和時のサックスも胸を打つ。