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ターニング・ポイントとなる重要作

 ここまで〈格が上がる〉ことを誰が予想できただろう? 悲劇やゴシップなどの荒波に対する誠実かつスマートな振る舞いが、彼女を可愛らしいポップスターから、時代のヒーローへと押し上げた。その決定打となったのが、しなやかでしたたかな女性の強さを歌う“thank u, next”だ。前向きな鼓舞ソングとして社会現象化した同曲が初の全米1位にも輝いた勢いのなか、続く“7 rings”ではトラップ調のビートに似合うフロウでラッパー並にボーストし、畳み掛けるように全米制覇。そんな過去最大の追い風に乗せて、半年ぶりという短いスパンで5枚目のアルバムが放たれた。

 前述のヒット曲を手掛けたトミー・ブラウンや、馴染みのマックス・マーティン一派らにより急造された本作だが、ファレル主導の前作『Sweetener』にもあった00年代R&Bムードを、現行トレンドでアップデートしたといえる内容は完璧だ。ホイッスル・ヴォイスを久々に披露しているのも話題の、亡き元彼マック・ミラーへ捧げた“imagine”をはじめ、ドリーミーで低温なミディアムが全体の基調。そんななか、往時のブリトニー風の性急なガール・ポップにワルそうな重厚ベースとアンビエント感を差し込む“bad idea”や、レゲエ味の“bloodline”や“make up”もアクセントになっている。だがやはり、90年代風のキュートなR&Bに、00年代オマージュなMVを合わせ、10年代後半のアンセム化……どころか未来のクラシック化も睨める表題曲が最強すぎる。アリアナにとってのターニング・ポイントとなる重要作。 *池谷瑛子