©DAVE MEYERS

強さも弱さもさらけ出して成長し、シーンに不動のポジションを築き上げた彼女。センシュアルで愛に溢れたエモーショナルな話題作が表現する現在の想いとは?

彼女の〈立ち位置〉

 もとよりデビューから破竹の快進撃を続けてきたアリアナ・グランデだが、辛い過去に別れを告げる傑作『thank u, next』(19年)の絶大な成功によって、そのポップスターとしての評価軸は明らかにより現代的でアーティスティックなものへと移行したのは間違いないだろう。その2019年からはライヴやフェス出演を通じて若い来場者たちに有権者登録を促す団体〈ヘッドカウント〉の活動にも貢献し、高い影響力を活かして若い世代に社会参加を呼びかけていくことになる。かねてから選挙権を通して意思表示することの重要性を訴えてきた彼女だけに、その動きは2020年を見据えたものだったのかもしれない。

 そんな今年に入ってからは、5月にジャスティン・ビーバーとのコラボ“Stuck With U”と、レディ・ガガとの“Rain On Me”がいずれも全米チャートで初登場No.1を獲得。10月に入ると〈今月中にニュー・アルバムをみんなに届けるのが待ち遠しい〉との予告をツイートしたうえで、満を持して新作からの先行シングル“Positions”をリリースしている。同時に公開されたMVでは、ホワイトハウスを舞台に彼女自身が女性大統領に扮し、パワフルな女性リーダーのオンとオフを通じて現代を生きる女性の社会的な〈立ち位置〉を表現。60年代テイストのレトロなスタイリングも話題になった。

ARIANA GRANDE 『Positions』 Republic/ユニバーサル(2020)

 それから予告通りに10月末にリリースされたのがニュー・アルバム『Positions』だ。大統領選の投票直前を狙ったようなタイミングでもあり、“positions”のMVにおける力強い姿の印象もあって、より社会派の作風になるのではとも思われたが、実際の中身はそうした予想とは真逆。いままでになくセックスについて率直かつ直截的に表現していることも含め、今回も自身の恋愛観や人生観が表現された極めてパーソナルかつエモーショナルな内容に仕上がってきた。

 なかでも目立つのはやはり“34+35”だろう。〈Positions〉には〈体位〉という意味もあるわけで……34+35=69、つまりここではシックスナインについて歌われている。〈近所の人たちが「地震だ!」って叫んでる/私がベッドを揺らすマグニチュードは4.5〉なんて往年のトレイ・ソングズばりの馬鹿馬鹿しいフレーズも交えた作りはアリアナ自身も〈笑える曲〉とも説明する通りだが、流麗なストリングスの流れる音空間にあえてダーティーな歌詞を重ねる試みは、他にも“nasty”に顕著だ。近作と同じくトミー“TBヒッツ”ブラウンをブレーンに据えて多彩なクリエイター陣が関与したサウンドも全体的にセンシュアルなアンビエンスで満たされたもの。マライア・キャリーから継承したようなコーラスの麗しいレイヤーなど、アリアナらしい圧倒的なヴォーカリゼーションが堪能できるのは言うまでもない。