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SNSのある時代ならモリッシーはボカロPになっていたかも

――この映画では、70年代末のマンチェスターそのものも大きな役割を果たしていますよね。当時の英国の社会事情を象徴しているかのように、暗くてさびれていて、いつも雨が降っていて。マンチェスターはスミス以外にも同時期に多くの偉大なバンドを輩出しているわけですが、みなさんの目にはどんなふうに映りましたか?

KENT「あそこまで多くのバンドが登場したのは、ちゃんとコミュニティーが確立されていたからなんじゃないかなって、感じました。だってモリッシーみたいなタイプの若者でも、クラブに行っているわけじゃないですか。そこで女の子に声をかけるわけでもなく、音楽を聴きに来ているだけで。コミュニティーがないと行かないだろうし、みんなが集まる場所があって、お互いに影響されたんだろうな」

Natsuki「あと、アメリカ出身のバンドとイギリス出身のバンドが同じジャンルの音楽をプレイしたとき、イギリスのバンドの音楽は、どうしても闇がある感じに仕上がる。そこが僕には大きな魅力で、気候とかああいう暗くて閉鎖的な感じも関係しているんですよね。政治に不満を抱える若者がスミスに熱狂したのも理解できるし」

小林「うん、アメリカと違って、憂いや陰りがおのずと音楽に表れる。でも町そのものもそうなんですけど、イケてる男性像・女性像みたいなものが、そもそも全然違うからなのかなってあらためて思いました。アメリカだともっとマッチョな思想がマジョリティーだし、KENTくんが言ったコミュニティーの話にもつながるけど、自分たちの流儀みたいなものが醸造されやすい場所だったんじゃないかな。〈こういうふうに振る舞うのがクールでカッコいい〉というのは、狭ければ狭いほど蔓延するし、NYみたいにいろんな人がいていいっていう町だったら、あんなことは起きないような気がする。だから当時はSNSがなくて良かったなと思います。SNSがあったら、モリッシーはボカロPとかになっていたかも(笑)」

 

映画のメッセージは〈詩を書け、家を出ろ〉

――同じマンチェスターが舞台でイアン・カーティス(ジョイ・ディヴィジョン)の半生を描いた「コントロール」(2007年)ほか、ミュージシャンの伝記映画は過去にも多数作られてきました。それらと比較して〈イングランド・イズ・マイン〉のおもしろさとは?

Natsuki「例えば『コントロール』ではジョイ・ディヴィジョンの曲がガンガンかかりますけど、〈イングランド・イズ・マイン〉にはスミスの曲が一切かからない。そこが逆に良かったのかも。僕は映画を観終わって、帰り道ですぐにスミスの曲を聴きました。それくらい聴きたくなるんです。『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)のクライマックスで、ライヴ・エイドのシーンが全部持っていく……という感覚に近くて、観終わったあとですぐ聴きたくなる作り方が、巧いと思いましたね」

小林「一般的に映画のテーマとして、〈そろそろ家を出ろよ〉というモチーフって結構あるじゃないですか。〈行動を起こせ〉とか〈お前が始めるんだ〉とか。この映画でも、挫折して落ち込んでいるモリッシーを観ていて、僕らは〈家を出てそろそろ何かちゃんとやれよ〉って悶々とする。〈このグズ!〉とかって思うんだけど(笑)、ジョニーがモリッシーの家の呼び鈴を押したことで、スミスが始まるわけで、きっかけはほんのちょっとしたことなんですよね。あのときモリッシーがドアに出なかったらバンドは始まらなかったんだから、〈今日はどういうふうに手を動かそうかな〉とか〈どこに足を運ぼうかな〉っていう行動が未来を変える。

それは結局のところ、僕らが自分自身に対して思っていることだったりするんですよ。〈僕はこのままでいいのか?〉とか〈僕は変わりたい〉とか。だからこの映画のメッセージは、〈詩を書け、家を出ろ〉みたいな感じかな(笑)。モリッシーは超落ち込んでいたけど、ずっと何かを書いていた。世界を呪うような言葉だったり、自分の表現だったり。それを持っていたというのは大きいですよね」

KENT「寺山修司の〈書を捨てよ、町へ出よう〉みたいだね(笑)」

Natsuki「確かに音楽って、華やかな姿になるまでにいろんなきっかけがすごく重要だと、バンドをやっていてすごく感じます。周りに偶然いた友達が言ってくれた一言だとか」

――ちなみにNatsukiさんは、帰り道でどの曲を聴いたんですか?

Natsuki「“Cemetry Gates”と“Bigmouth Strikes Again”を立て続けに聴きました(いずれも『The Queen Is Dead』に収録))。僕はモリッシーが友達のリンダと墓地で話しているシーンがいちばん好きなので、〈これ、“Cemetry Gatesじゃん! 実際にやってたんだ!〉と思って、すーっと入ってきて」

スミスの86年作『The Queen Is Dead』収録曲“Cemetry Gates”

小林「僕も帰りのバスの中で聴いていました。“Hand In Glove”(83年)だったかな」

KENT「映画を観ると、やっぱりスミスの音楽の聴き方が変わりますね。僕はこれまではいつもジョニー側から聴いていたけど、モリッシー側から聴けるようになった。どういう人なのかわかって、モリッシーの視点からスミスを見ることができて。例えば誰でも〈今日は家を出たくないな〉と思う日がありますよね。僕だったら3時間くらい家にいたら、それで気が済んで出かけたりするけど、モリッシーの場合は〈1か月くらい家にいようかな〉みたいな(笑)。そういうレヴェル感が違うだけの人だったんだと思うと、人間としてすごく近くなった気がします」

 


INFORMATION

映画「イングランド・イズ・マイン モリッシー,はじまりの物語」
出演:ジャック・ロウデン/ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ/ジョディ・カマー/シモーヌ・カービー
監督・脚本:マーク・ギル(「ミスター・ヴォーマン」)
プロデューサー:ボールドウィン・リー/オライアン・ウィリアムズ(「コントロール」)
共同脚本:ウィリアム・タッカー
2017年/イギリス映画/英語/カラー/シネスコ/94分
原題:ENGLAND IS MINE
字幕翻訳:柏野文映
配給:パルコ/PG-12
2019年5月31日(金)より東京・渋谷シネクイントほかにてロードショー!
https://eim-movie.jp/

 

タワーレコード渋谷店&Mikikiにて、映画「イングランド・イズ・マイン モリッシー,はじまりの物語」公開記念タイアップ・キャンペーンを開催!
タワレコ渋谷店6F洋楽ROCK/POPコーナーにてTシャツ付ムビチケの先行販売や、上記座談会の登壇者らがオススメしたスミス~モリッシー関連作品を直筆コメント付きで展開。対象商品購入でタワレコ渋谷限定デザインの特典ステッカーをプレゼント! またパネル展示、1Fの電子看板でもトレイラーの放映などを行います。

詳しい展開内容は下記にて。タワレコ渋谷店は、〈イングランド・イズ・マイン〉を上映する映画館、渋谷シネクイントともかなり近い距離ですので、映画を観る前にスミスやモリッシーを聴きたくなったら、あるいは映画を観てスミスやモリッシーを聴きたくなった気分のまま、ぜひともご来店ください!

キャンペーン概要
■トレーラー放映
・場所:タワーレコード渋谷店1Fエントランス
・期間:2019年5月20日(月)~2019年6月10日(月)

■関連商品の展開販売
・場所:タワーレコード渋谷店 6F ROCK/POP売場内
・期間:2019年5月20日(月)~
販売商品
・「イングランド・イズ・マイン モリッシー,はじまりの物語」限定Tシャツ付ムビチケ(税込4,000円)※限定TシャツはLADIES/MENSの2種
・「イングランド・イズ・マイン モリッシー,はじまりの物語」ムビチケ (税込1,400円)
・スミス/モリッシーのCD、レコード各種
・Mikiki座談会参加アーティスト(THE NOVEMBERS、Lillies and Remains、Luby Sparks)のCD
※上記対象商品ご購入で、いずれもタワーレコード限定デザイン特典ステッカーを差し上げます(なくなり次第終了)

■パネル展示〈モノクローム・フォト・エキシビジョン〉
・映画の名シーンやメイキングシーン、未公開フォトを、モノクロ写真でおよそ10点展示
・場所:タワーレコード渋谷店6F「イングランド・イズ・マイン モリッシー, はじまりの物語」展開上部壁面
・期間:2019年5月17日(金)~未定 ※シネクイントでの映画公開中は実施予定

キャンペーン詳細は渋谷店のNEWSページにてご確認ください
http://towershibuya.jp/news/2019/05/20/134079