1985年2月11日のリリースから40年が経ったザ・スミスの2ndアルバム『Meat Is Murder』。これまでより政治的イシューに切り込んだ歌詞や研ぎ澄まされたサウンドが評価され、当時UKチャート1位を獲得、現在もロック史に刻まれる名盤として知られている。そんな本作を2025年の今聴く意義について、音楽ライター油納将志に綴ってもらった。 *Mikiki編集部
個人と社会の葛藤を鋭く描き出したアルバム
ザ・スミスの『Meat Is Murder』が2025年2月11日に40周年を迎えた。エミール・デ・アントニオ監督のベトナム反戦映画「In The Year Of The Pig」に登場する兵士がアートワークに使用されており、ヘルメットに記された〈MAKE WAR NOT LOVE〉を〈MEAT IS MURDER〉と書き換えている。発売当時の日本盤の帯には〈肉喰うな!〉というセンセーショナルなコピーがあり、このアルバムでベジタリアンという存在を知った人もいたはずだ。
1985年当時、英国はサッチャー政権下で経済格差や社会的不安が広がり、多くの若者が疎外感を抱えていた。そんな中でザ・スミスは、このアルバムを通じて個人と社会との葛藤を鋭く描き出した。『Meat Is Murder』は彼ら初のセルフプロデュース作品であり、新たにエンジニアとして参加したスティーヴン・ストリートとのコラボレーションによって音楽的にも進化を遂げている。ジョニー・マーはギターサウンドにさらなる多様性を持ち込み、モリッシーは個人的な感情表現から一歩踏み出し、社会的、政治的メッセージへと踏み込んだ。
“The Headmaster Ritual”は教育制度における暴力、“Rusholme Ruffians”は地元マンチェスターでの暗い暴力、“Barbarism Begins At Home”は家庭内暴力というテーマを扱い、それぞれ異なる角度から〈暴力〉という普遍的問題に切り込んでいる。一方で個人の孤独や苦悩も同時に描かれ、人間存在そのものへの洞察が光る。特筆すべきはタイトル曲“Meat Is Murder”だ。この曲は動物愛護と菜食主義というテーマを掲げ、その直接的な歌詞と重厚なサウンドで聴く者に強烈な印象を与える。〈理由なき死、それは殺人だ〉というフレーズは単なるキャッチコピーではなく、肉食の発端を強く意識させ、多くのリスナーに菜食主義を知らしめた。
風化せず現在とシンクロし続けるモリッシーのメッセージ
このアルバムの楽曲が今もなお風化していないのは歌詞で描かれた社会が、現在とシンクロし続けているからにほかならない。例えば、“Barbarism Begins At Home”のテーマは家庭内暴力だけでなく、個人の自由や多様性が抑圧される現代社会全体への警鐘としても拡大解釈できる。また、“Meat Is Murder”のメッセージは気候変動やサステナビリティといったグローバルな課題とも結びついており、新たな文脈で語られる機会が増えている。発表当時、その過激なメッセージ性ゆえに物議も醸したが、今となっては日常の出来事として表面化していて、衝撃は薄れた。しかし、モリッシーが突きつけたメッセージに対して、40年後の今も答えを出せていないままである。
今改めて『Meat Is Murder』を聴く意義とは何か。それは〈当たり前〉とされてきた価値観への挑戦である。40年前と形こそ変われど、社会的不平等や暴力、環境破壊といった問題は依然として存在している。このアルバムは、それらに対する疑問符を投げかけ続けており、その声は今なお鮮烈だ。ザ・スミスという不世出のバンドが残したこの2作目は、これからも世代を超えて新しい意味を持ち続けるだろう。