Galileo Galileiの元メンバー3人(尾崎雄貴、尾崎和樹、佐孝仁司)とサポート・メンバー(DAIKI)によって結成され、昨年9月にファースト・アルバム『Moon Boots』を発表したBird Bear Hare and Fish。初のツアーを終えて以来しばし沈黙していた彼らが、BBHFに改名し、新たなEPを送り出す。
今後の道筋の青写真を示し、バンドの野心とポテンシャルの大きさを仄めかす第一弾として作られた『Mirror Mirror』は、タイトル通り〈鏡〉をモチーフに、デジタル・コミュニケーション・ツールが中心にある現代の風景を描写。サウンドもデジタルにシフトし、トラディショナルなロック・バンドのフォーマットを一旦解体して、ヒップホップやダンス・ミュージック、R&Bにインスピレーションを求めた、ミニマルな表現を導入している。それはつまり、2010年代とその先の時代における〈バンド〉の在り方を模索するThe 1975やバスティル、レイニーといった海外の面々に、同時代人として共鳴するような試みと言えよう。
シャイニーな画面をタップするリズム、着信音や通知音のクリーンな響きにシンクロするモダン・ポップ集に託した目論見を、フロントマンの尾崎雄貴に訊いた。
描きたかったのはデジタルな繋がりが普通になった現在
――今回、配信限定のEPという形で作品をリリースするに至った経緯を教えてください。
「まず『Mirror Mirror』があって、そのあとでもう1枚制作し、結果的には対になるようなふたつのEPを発表するという企画なんです。もう1枚はまだレコーディングしていないんですが、『Mirror Mirror』がデジタルとするならば、もう1枚はカロリーが高くて、肉体的な感じですね。両極端なことをやってみたくて」
――曲作りをしているうちに、自然にふたつの方向性に別れていったんですか?
「自分たちのなかでふたつに別れたというより、ふたつ異なるものを出すことで、より大きい全体像をバンドで表現できるかもしれないという発想からスタートしました。ライヴも例えば、セットリストの前半は1枚目、後半は2枚目に分けるとか、あるいはライヴごとにモードを変えるとかをやってみたい。それに、ふたつの方向性を混ぜて1枚のアルバムに収めると、アレンジも含めて方向性がくっついてしまう。あえて分けることで、1枚の大きい絵として聴き手に伝えて、自分たち自身もバンドのポテンシャルを感じることができて楽しい。そういう挑戦です」
――そんな意欲的な企画が生まれたのは、クリエイティヴな意味でバンドがいい状態にあることの表れ?
「そうですね。いまはやることなすこと、みんな楽しんでやれていて、ステージに立って人に歌を歌って伝えることが、単純に楽しい。普段の生活のなかにある瞬間の想い、〈あれってどうだったんだろうな〉と思うような体験を作品に落とし込んで、歌って問いかけて、人の目を通して答えをもらう。そして作品を自分で聴いてみて、自分自身からも答えをもらえるという行為が、楽しくてしょうがないんです。これができること自体がありがたいし、その楽しさが、2枚のEPを作るという挑戦に踏み切るパワーをくれたというか」
――実際『Mirror Mirror』の収録曲は、積極的にコミュニケートしたがっている楽曲ですよね。これまでは、聴き手にそういう答えを求めていなかったんですか?
「いままではわりと、自分たちのなかだけにある言葉や情景やストーリーをただ形にして、それを〈どうですか〉と差し出す感じだったと思うんですけど、今回は違って。『Mirror Mirror』 では、スマホというものに目を向けています。ポチポチ打ってメッセージを送るということを誰もがやっていて、メンバーもみんなずっとケータイを持っているし、手紙とか電話とか肉体でやるものではなく、データで送ることでコミュニケーションをとっている。いま生きている人たちはみんなその過渡期にいて、おもしろい時代だと思うんですよ。それに対して、気持ち悪いなと思いながら過ごしている人もいれば、当たり前だと思って楽しく過ごしている人もいて。僕自身はどちらかというと、当たり前になったとギリギリ思っているか思っていないかの線かな。
あと、電源を切ったときに、スクリーンに顔が写るじゃないですか。それを見ているというのがちょっとおもしろい図だなと思うんです。結局みんな同じ黒い画面を見つめていて。そういったことを言葉として説明しようと思ったわけじゃなくて、自分が感じるいまの時代のコミュニケーションの感覚を、冷たいものとしてではなく、楽曲に取り入れてみたかった。例えば昔の音楽には、手紙も電話も出てくるし、見つめ合って話すことも出てくる。それと同じように、デジタルでの繋がりを当たり前のものとして、何かを問いかけることができたらおもしろいと思ったんです。だからこそ盤にはせず、まずは配信で。そしてもう1枚のEPはフィジカルを作って、そこも対比させたい。それで〈どう感じる?〉と聴き手に訊いてみたいし、自分たち自身もどう思うのか、実験したかった」
――世代的に、デジタル化のビフォーとアフターを知っているからこそ取り上げたテーマとも言えますよね。ビフォーを知らなければ、そこまで関心を抱かなかったかもしれないですし。
「そうですね。いまやゲーム機もネットに繋がるのが当たり前だけど、僕らの時代はギリギリ、ゲームボーイとか白黒の世界だった。こうなるっていうことは誰一人予想していなかったと思うし、それをギリギリ感じられる世代かな。それをいまだからこそ描きたいなと思った。この先はさらにテクノロジーが進んで、AIだのなんだのって言っているじゃないですか。そうなると、いま歌いたいことは歌えなくなっちゃうかもしれないし、いまの時代の歌として落とし込みたかったんです」
――すると、明確なテーマがあったうえで曲を作りはじめたということですね。
「はい。でも結構前から、〈鏡〉というものを自分の音楽性におもしろい形で取り入れられないかなと思っていたんです。今回は、メロディーも歌詞もなるべく鏡みたいに反復させていて。歌も、メロディーに対してメロディーをぶつけるとか、〈反射〉を意識したりして、曲を作っています。〈乱反射だからこんな感じなんだよな〉と思いながらアレンジしたりとか。いままでは、テーマはあとで立ち上がってくるものだったんですけど、今回は、ひとつのテーマに向けて曲を作ると、こういう楽しさがあるんだなと実感しながらやっていて、作品を作っているんだという感覚が強かったですね。言い方はあれだけど、ちょっとナルシシスティックな面もありました。
でも、それもこのテーマに関係していて、みんな人とコミュニケーションをとっているつもりでも、結局自分を映しているだけに過ぎないんですよね(笑)。みんなずっと自我と向き合っていて、自我ばかりが強大になっていって。僕は、それもいまの時代のおもしろさとして捉えています。日本人はテクノロジーに心が広いというか、昔からあまり深く考えずに取り入れるところがあるじゃないですか。僕もそうなんですよ。だからこそ現代の世界観を、〈冷静に〉と言うよりは、〈大雑把に〉自分のなかに落とし込めるのが、日本人であることのおもしろさなんじゃないかと思っていて。今回のテーマがあまりダークな方向に行かなかった理由は、そこにあるのかな」