
メロディー復権とシティ・ポップ再評価
――ただ、1983もそうなんですが、現代の日本のインディー・ミュージシャンの難しさは、スタジオを使える時間が限られていることなんです。とはいえ、そんな状況でもシンプルな音楽には行かず、テクニカルで込み入ったシティ・ポップのような音楽に向かっていることも、現代的なおもしろさですね。
南「なるほどね。いまの音楽は全体的に、メロディーよりも言葉のほうに重点を置いているような気もするけどね。僕はメロディー人間だからさ、良いメロディーにサウンドも言葉も溶け合った感じだといいなあと思っている人間なんだけど、どうも言葉が先に行っているような気がして」
新間「そうですね。海外のチャートに入っている音楽を聴いても、メロディーを口ずさめないよね、って関と話すんです。でも、揺り戻しは絶対にあると思います」
南「心強いこと言ってくれるね!」

新間「いま、メロディーがある音楽を聴きたいっていう気持ちがみんなのなかにあるから、南さんが作ってきたような音楽の再評価にも繋がっているんじゃないかなって思います」
南「この間も言われたよ。小原礼の友だちで、40年間ロサンゼルスに住んでいるっていう夫婦の人が〈日本のシティ・ミュージック、流行ってるんですよ〉って言っていたって。〈ええっ!?〉って(笑)」
新間「南さんが日本のシティ・ミュージックを作ってきた、っていうところはすごくあると思うんですけど……」
南「そんなことはないですよ(笑)」
新間「いま、日本のシティ・ミュージックが評価されていることを受けて、またそういうサウンドをやってみようって思ったりはしないんですか?」
南「(きっぱりと)しないです。したってしょうがないじゃん? 僕、いま自宅録音にすごくハマっているんです(笑)」
新間「へ~!」
南「この間もNEVE※のいっちゃん良いやつを買って(笑)」

錆びるんだよ、作っていないと
新間「アルバムのクレジットを拝見すると、ほぼ全曲作曲は南さんですよね。それはやっぱり、自作曲を歌うことにこだわっているからなんですか?」
南「もちろんです。茂の“ソバカスのある少女”(75年)と、あともう1曲、大野雄二さんに書いてもらったの(“朝もやの中を”、77年)と、2曲しかありません。でも、ひどい曲もあるんだよ、ほんっとに(笑)」
新間「あはは(笑)。同世代のミュージシャンには休んでいる期間がある方も多いと思うんですけど、南さんはコンスタントに曲を作っていますよね。(関に)そんなにできないよね(笑)?」
関「そうだね(笑)。湧いてこないから」

南「湧かないよねえ。ユーミンも一時期〈錆びる錆びる〉なんて言っていたけど、錆びるんだよ、作っていないと。(アイデアが)出てこなくてもやる。俺も最近サボっててさ、もう出ないのかなあってちょっと不安なんだけど。
それでも、とりあえず浮かんだら即録って。で、後で聴いてみると、ほとんどダメなの(笑)。でも、一曲良いのがあったりするんだよね。そういうのを拾ってやっていくしかない」
名曲“プールサイド”誕生秘話
――先ほど、南さんは宅録にハマっているとおっしゃっていましたが、DAWで制作されるんですか?
南「そうですね」
新間「ソフトは何を使ってるんですか?」
南「PreSonusのStudio Oneです」
新間「あっ、同じです!」
南「2016年に友だちがPreSonusの人を連れてきてくれて。これくらいのちっちゃいやつ(オーディオ・インターフェイス)あるじゃん? それを〈タダで差し上げますから。セッティングします!〉って全部やってくれたの。最初は〈なんか、めんどくせえなあ〉とか思ってたんだけど、そっからずーっとハマっていて(笑)」
――やっぱり、いまも作曲がお好きなんですね。
新間「南さんが、いままで何百曲って作ってこられたなかで、〈これだ!〉っていう手応えが本当にある曲は何曲あるんですか?」
南「わかんないなあ……。“プールサイド”(78年)は友だちんちで作ったんだよね。かんせつかず(菅節和)の家が青山にあって、遊びに行ったときで。(曲の)頭だけが出来てて、〈サビが出来ねえんだよなあ〉って言ってたら……出来ちゃったの。〈ああ、これだこれだ!〉って。
ギルバート・オサリヴァンっていうのが昔いたんだけど、そいつの“Alone Again (Naturally)”(72年)を聴いててさ。あれでm7-5(マイナー・セヴンス・フラット・ファイヴ)ってコードを使ってるの。m7-5自体は、もちろん前からジャズにはあったんだけど、この使い方、上手いなあって思って。それを“プールサイド”のサビで使ったら、〈バッチリだ!〉ってなったんです」
新間「うわ~、めちゃくちゃいい話! 自分は南さんの曲だったら、“プールサイド”がいちばん好きなので……」
――というわけで、1983もこれから何百曲と作っていかなきゃいけないわけですが(笑)。
南「そうだね。頑張ってもらわないと!」
新間「〈下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる〉ですね(笑)」
南「それは僕のフレーズ※です(笑)」
新間「使わせていただきました(笑)」
南「矢野さんにそれを言ったら、〈そのとおり!〉って言われたよ」

とにかくメロディー! 1983はスタンダード・ナンバーを作るべし
――では、南さんから1983に助言があれば……。
南「(即答で)メロディーです」
新間&関「メロディー!」
南「ずーっと耳の中で鳴っている、忘れられないメロディーってあるじゃん? 昔はそれがたっくさんあった気がするんだ。映画を観終わって、映画館を出て歩いていると、ふっと浮かんでくる。〈ああそうか、最後のテーマ曲か〉って。そういうメロディーに良い歌詞が付くと、40年も50年も長持ちすると思うんだよね。それがスタンダード・ナンバーって言われるようになる。
僕は、ガキの頃から“My Funny Valentine”とか〈酒とバラの日々〉とかをずーっと聴いてたから。そういうのを一曲でも書きたいと思って、この世界に入ったの。だから……それを作ってください、マスターピースを!」
関「頑張ります(笑)!」
新間「そうですね。スタンダード・ナンバーを」
南「まあ、死ぬほど曲を書くんだよ~。自慢するわけじゃないけど……自慢するけどさ(笑)、俺は分割睡眠法をやってたの。2時間寝て、2時間起きて、みたいな。それで曲を書いてたもん。毎年アルバムを出さなきゃいけなかったからさ。
いつも高久さんと2人で、俺が書いてきた曲を聴きながら〈ダメ〉〈あっ、これは良いよ〉〈ダメ〉〈これ良いじゃん!〉〈ダメダメ〉なんてやってさ。だからね、誰か一人〈つうかあ〉で話せる人がいたほうがいいね」
関「客観的に意見を言ってくれる人ですか?」
南「そう! 冷めててさ。後押ししてくれるときは、死ぬほどしてくれる。で、ダメ出しするときは、最悪にダメ出しする。〈またパクってんじゃん!〉って(笑)。そういう人がいてくれるのが、すっごく大事。
でも、好きなことをやってください。結局、最後は一人だから。おもしろいのが一番いいじゃないですか」

南佳孝のバックを1983が務める?
――では逆に、1983からも南さんに何か伝えたいことがあれば。質問でも相談でもいいと思いますよ。
新間「ぜひ、自分たちがバックで演奏するので……っていうのは、どうですか!?」
南「あはは(笑)! ありがとうございます」
新間「南さんからしたら、僕たちの音楽は過去の焼き直しだって感じるところもあると思うんですが」
南「でもやっぱり、ちゃんと埃ははたいているんでしょ?」
新間「はい。それでも、自分たちの世代は過去の音楽をまた違った解釈で捉えているので。だから、何か一緒におもしろいことができるんじゃないかなあって思っています」

南「そっか。わかりました。やりましょう、何か。フルートの練習をしておきます!」
新間「あれは僕、結構痺れましたね。〈あれっ、フルート吹いてる!?※〉って(笑)」
――じゃあ、1983は“プールサイド”を死ぬほど練習するということで(笑)!
関「“モンローウォーク”もね」
新間「そうだね。小さい頃からの夢だったので」

LIVE INFORMATION
■1983「渚にきこえて」ツアー
8月31日(土)東京・青山 月見ル君想フ
9月7日(土)兵庫・神戸 旧グッゲンハイム邸
9月8日(日)京都・木屋町 UrBANGUILD
9月28日(土)愛知・名古屋 K.Dハポン
http://www.the1983band.com/#live_link
■南佳孝
7月20日(土)香川・琴平 カフェ&レストラン 神椿
7月21日(日)高知 ホール ラ・ヴィータ
8月3日(土)神奈川・相模原 メイプルホール
8月4日(日)埼玉・所沢 MOJO
8月31日(土)神奈川・逗子 surfers ZUSHI
9月14日(土)山梨・甲府 桜座
9月21日(土)東京・永福町 sonorium
9月28日(土)奈良県・天川村 洞川温泉〈えんがわ音楽祭〜水の音コンサート〜〉
10月13日(日)神奈川・鎌倉 歐林同ギャラリーサロン〈湘南SPECIAL LIVE2019~笹りんどうと秋の空Vol.8~〉
11月27日(水)東京・有楽町 東京国際フォーラムホールA〈「徹子の部屋」コンサート〉
12月1日(日)大阪 フェスティバルホール〈「徹子の部屋」コンサート〉
https://minamiyoshitaka.com/live_info/