なぜ彼なのか、なぜ彼じゃいけないのか——なぜなら、それは彼がリアム・ギャラガーだからだ。あの栄光から繋がる王道の上で、自信に溢れたロックンロール・スターはいまも仁王立ちしている!

前作で得た自信

 2017年10月のソロ・デビュー・アルバム『As You Were』で見事にカムバックを果たしたリアム・ギャラガー。オアシスとの比較を前提とされざるを得なかったビーディ・アイでの日々を経て、彼が選んだのはもはや〈オアシスらしさ〉を厭わない、何の衒いもヒネリもなく〈あの声〉で堂々と歌うリアム・ギャラガーとしての姿だったわけだが、結果はご存知の通り。同作は初登場で全英No.1を獲得して初週でゴールド認定を受け、ビーディ・アイのアルバム2枚の合計を上回るセールスを叩き出した。そういった商業的な成功も輝かしい門出を彩るものだろうが、自身の提示するソロ・アーティスト像がリスナーたちに支持されたことそのものが、リアム本人にとっての大きな自信となったのは疑いない。アルバムに伴う世界ツアーは各国で盛況となり、半数以上がオアシス時代の楽曲となるセットリストや、それを力強く披露する姿もポジティヴな評価を得た。

LIAM GALLAGHER Why Me? Why Not. Warner UK/ワーナー(2019)

 そうした流れを踏まえてみれば、2年ぶりとなるセカンド・アルバムが『Why Me? Why Not.』と題されているのも納得だろう。〈なぜ俺なのか? なぜ俺じゃいけないのか〉という言葉は、資料によると彼が敬愛して止まないジョン・レノンのドローイングから来た言葉だそうだが、過去も含めた自身の足取りに肯定感を得たいまのリアムにとって、これ以上の表現はなかったのかもしれない。

 そんなアルバムの制作はまだツアー中だった昨年4月のLAで、前作でもプロデュースの核となったグレッグ・カースティン&アンドリュー・ワイアットとスタジオ入りして始まったという。年末には他のメンツも交えて再度LAでレコーディング。その後ロンドンでの作業を経て完成させたそうだ。グレッグとアンドリューの活躍ぶりは『As You Were』で起用した頃から変わらないものの、特にグレッグはその間にポール・マッカートニー『Egypt Station』の共同プロデューサーに起用されてもいて、各人が成熟した形で制作に臨んだとも言えるだろう。特徴的なのは、前作ではリアムが単独で書いたナンバー中心だったのに対し、今回はグレッグとアンドリューも初期段階からコライトに関わり、前作にも名を連ねたマイケル・タイ(かつてアンドリューとAMを組んでいたNY出身のソングライター)らも交え、全曲がリアムと彼らの共作という体裁になっていること。アンドリューとグレッグの共作でも曲ごとのプロデューシングは分け合っているのも興味深いが、いずれにせよリアムの持ち味を理解した敏腕たちのサポートを得て、前作を凌ぐ逸曲揃いのアルバムが生まれた。

 

スケールを大きくした傑作

 収録された11曲+ボートラ3曲のうち、グレッグ・カースティンが制作したのは、先行カットの“Shockwave”を筆頭に、夜をぶっとばしたくなるピアノが印象的な“Halo”と骨太なロックンロールの“Be Still”、さらには苺味のオルガンが効いた幻惑的な“Meadow”の4曲で、これらはグレッグが独力で演奏を構築したこともあってか、今風の端正な耳触りとなっている。

 一方のアンドリュー・ワイアットは、ストロング・スタイルな先行曲“The River”も含め、アルバム全体のイメージを決定付ける都合7曲をプロデュース。それらの多くはライヴ・メンバーであるダン・マクドゥーガル(ドラムス)やマイク・ムーア(ギター)、さらにはパーカー・キンドレッド(彼も元AM)やニック・ジナー(ヤー・ヤー・ヤーズ、モア・ペイン他)らも交えてバンド編成で録音されている。なかでもデイモン・マクマホン(アーメン・デューンズ)が助力した“One Of Us”は、壮麗なストリングスとコーラスを従えて軽やかに跳ねたグルーヴ(リアムの息子ジーンのボンゴ演奏も効いている)が懐かしくも素晴らしいドライヴ感を導く名曲。また、どこかレノン風の歌い口が微笑ましいフォークの“Once”、さらにはマッカートニー調のメロディー展開にニヤリとさせられる“Alright Now”と、リアムの喉にフィットする穏やかなナンバーの出来映えも実に好ましい。ボートラでは、ダップトーンのホーマー・スタインワイスとニック・モヴションを迎えた(マーク・ロンソン仕事の多いアンドリューならではの陣容だ)“Glimmer”が、80sギリシャのネオアコ・デュオであるファンタスティック・サムシングの“The Thousand Guitars Of St. Dominiques”を引用した作りも相まって興味深い。

 さらには初の手合わせとなるチェリー・ゴーストのサイモン・アルドレッド(アヴィーチー“Waiting For Love”の歌唱でもお馴染み)が“Now That I've Found You”と表題曲“Why Me? Why Not.”の2曲をプロデュース。疎遠だった(元ガールフレンドとの間の)娘のモリーに捧げたという前者は優しい歌い口にグッとくるパーソナルなナンバーだし、アダム・ノーブルも共同制作にあたった後者はどこか“Kashmir”風の重厚さで迫るストリングスも劇的で、相対的に前作よりもスケールを大きくしたアルバムを象徴する一曲と言えそうだ。こちらの2曲でもライヴ・メンバーから先述のダンとマイクに加えてクリスチャン・マッデン(キーボード)が参加している。

 そのようにシーンの腕利きたちと練り上げた充実の楽曲たちが、深みと逞しさを増した最高の歌声によって最高のロック・アルバムとなる。前作の成功を受け継ぎながらも一歩進んだ傑作『Why Me? Why Not.』は、表題に掲げられた問いかけの最高の答えになることだろう。

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