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「蜜蜂と遠雷」のキャラクター別演奏CD4点、異例の3社共同制作キャンペーン

 金子三勇士のマサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)がユニバーサルミュージック、河村尚子の栄伝亜夜(松岡茉優)がソニーミュージック、福間洸太朗の高島明石(松阪桃李)と藤田真央の風間塵(鈴鹿央士)がナクソス・ジャパンと、発売は3社にわたる。上段に「映画蜜蜂と遠雷」と入れ、左右に分割した下段左に演奏ピアニスト、右にキャラクターを演じた俳優の写真を配したジャケットの装丁もそろえ、映画の話題作りにも貢献している。

 それにしても錚々たる顔ぶれを選んだものだ。河村と藤田はスイスのクララ・ハスキル国際ピアノコンクール優勝の先輩と後輩、藤田は今年のチャイコフスキー国際音楽コンクール・ピアノ部門2位、福間は20歳で米国のクリーヴランド国際ピアノコンクールに優勝。金子はハンガリーのバルトーク国際ピアノコンクール優勝と、それこそ申し分のないコンクール歴の持ち主そろいである。

 日本とハンガリーの国交が成立して150周年の今年、金子はハンガリーでリストのピアノ協奏曲2曲と「死の舞踏」を一晩で演奏する企画の独奏者に抜擢された。

 4人共通の収録曲は何と、藤倉大への委嘱新作「春と修羅」!  原作小説で架空の日本人作曲家、菱沼忠明がコンクールの第2次予選課題曲として作曲した新作課題曲の題名を踏襲し、藤倉が映画のために書き下ろした。原作には「宮沢賢治の詩《春と修羅》をモチーフにしたものであり、ほぼ無調の曲」とあり、曲の終盤に「自由に、宇宙を感じて」と書かれたカデンツァの挿入を指定している。藤倉は原作に沿って作曲、ピアニストごとに異なる4種類のカデンツァも書いた。この1点をもってしても、制作会社とピアニスト、作曲家の「本気度」が伝わってくる。

 福間を除く3人の盤には藤田がバルトークの第3番、河村がプロコフィエフの第3番、金子がプロコフィエフの第2番と、それぞれのコンテスタントが本選で弾いたピアノ協奏曲の抜粋も収められている。すべて昨年(2018年)8月13日、東京オペラシティコンサートホールで円光寺雅彦指揮東京フィルハーモニー交響楽団と共演したオリジナルのセッション録音というのも贅沢な話だ。 *池田卓夫(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗)