世代も分野も異なる二人の魔法――子供も大人も素直な心で楽しめるアルバム
「魔女の宅急便」などの名作を生み出し、齢88にして、毎日を新鮮に、無邪気に暮らす児童文学作家・角野栄子。彼女に密着したドキュメンタリー映画「カラフルな魔女」の音楽を、国際的に活躍する作曲家・藤倉大が制作した。
藤倉は、本作の音楽に関わるすべて――作曲、演奏、録音、ミックスからマスタリング――を、たったひとりで手がけた。オペラやコンチェルトといった壮大な作品、演奏者の技巧を引き出す独奏曲の印象も強い藤倉だが、今回はきわめてチャーミングな〈映画音楽〉を聴かせてくれる。
メイン・テーマである“ドキドキ”は、童話の舞台になりそうな、不思議な森に迷い込んだ気分。ポップな電子音のビートと、はるか彼方から響いてくるようなピアノの対比が楽しい“トラベリング”。“魔法のフライパン”はユニークな料理を生み出す角野のフライパンか、はたまたなんでも作り出してしまう文字通り“魔法の”道具か……いずれの楽曲も、スクリーンで描かれた素敵な魔女の日常を、色鮮やかに思い起こさせる。
かといって、藤倉の音楽は情景描写に徹しているわけではない。そこには作曲者自身の個性が静かに、確かに息づいている。シンプルなメロディに、浮遊感のあるリズム。カリンバなどを用いた小規模かつユニークな編成。リアルな質感で録音されたパーカッションは、目の前で打ち鳴らされているかのように迫ってくる。これらすべてが、藤倉ひとりの手で成り立っているというのだから驚きだ。
藤倉は「TVで流そうがスクリーンで上映しようが見劣りしない音楽を書いた」という。実際、彼の音楽は、映画の前身であるTV番組「カラフルな魔女」を生み出す、重要なファクターとなった。カメラの前でも無邪気に、天真爛漫な振る舞いを見せる角野と、ジャンルや先入観に囚われず、自分自身に素直な音作りを行う藤倉。世代も分野も異なる2人の才能がコラボレーションしたかのような、魅力あふれる1枚だ。