
〈けもの〉と〈名前〉が象徴するもの
――今作では、そういう緩衝地帯を、高度な社会化を経る前の世界の姿に求めているような気がします。資料でもモーリス・センダックやA・A・ミルンの名を上げていますが、この世界とは別に存在する、そういう原始的なコミュニティーの姿が浮かんでくるような……。
「そうですね。ある種、人間の根源に戻るというか……。けれど、そういう牧歌的な世界への逃避を歌っているつもりはなくて。現代は、文明の発達によって世界中の人がさまざまなテクノロジーを纏って生きているわけだけど、その〈デジタルな羊毛〉を剥いだら、結局人間の獣性が太古から薄れているわけじゃないんだろうな、ということが顕になってきた。いくら文明が高度化しても、本質的な部分で人間は高次の存在にはなれず、結局は荒々しさを保存している。そういう意味での原始性が蔓延していることは今の社会も変わらないわけで」
――でもその獣性というのは、一方で幼児のような純粋性でもある……?
「そうです。それをアンビバレントな感覚で描きたかったんです」
――まさにそれがアルバム・タイトルにも反映されているわけですね。
「はい。〈けもの〉というものが、そういう脈々と始原からあるプリミティヴさの象徴だとすると、〈名前〉っていうのは人類が発明した概念ですよね。貨幣や社会といった概念と一緒で、ある種の共同幻想。そういう、文明化によって生まれたものの象徴として〈名前〉を据えることで、アルバムのテーマを描きたかったんです」
――それは、幼児性と大人の社会性をきっちりと区切りたがる近代以降の趨勢を、批判的に見据えることにもなっている気がします。〈子供〉という概念の発生もそう古くないという説もありますよね。
「あくまで自分のペースを守りながら、〈けもの〉の側と、社会化された世界の両方を行き来するような目線をアルバムに据えておきたかったんです。動物が見ている世界と我々が見ている世界の同じ部分と差異というか……ある種超自然的な……うーん、いわゆる〈スピってる〉とかじゃないつもりなんですけど」
――いわゆる〈ニュー・エイジ〉とは違う感覚。自己改革によって何か霊的な存在と合一したいとか、社会性やリアリズムからの逃避としてのスピリチュアリズムではない。
「そう。肉体がある限り、この現実世界で生きなければならない。そういう前提から出発している思考だと思います」
逃避せず、ただ歓びを追求
――たしかに、ROTH BART BARONというバンドはその初期からとても現実的な肉体性に基づいてると思うし、逃避主義的にはなりえないのかな、と。
「そうだと思います。まあ、逃避的な音楽をやっている人はたくさんいるし……僕らがやらなくてもいいかな、と思っていて。〈ヨーロッパの音楽もアメリカの音楽もおもしろくない〉ってなった世界の人たちが、その先に見つけた〈本当はありもしない80〜90年代の日本風ノスタルジー〉に浸るという昨今の状況に、僕はどうも〈うーん〉と思ってしまう……。だから僕たちは、彼らが望む〈日本的なイメージ〉をあえて裏切っていきたいっていうか(笑)」
――それはヴェイパーウェイヴやシティ・ポップ・リヴァイヴァルへの批判?
「そうですね。その状況にいろいろと批評性を見出すことは可能かもしれないけど、でも、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を見て、未体験の甘いノスタルジーに耽るのと本質的に何が違うんだろう?と。僕もある時期80年代の音楽に浸って、いいなあと思っていたので、その気持ちもわからないでもないですけど」
――そう考えると、今作に現れているように、ROTH BART BARONの音楽って、逃避主義的趨勢からさらにまた逃避して、結果今までと違う切り口で社会にコミットメントしようとしているようなところがあると感じます。それゆえ音楽自体にすごく〈強度〉を感じる。
「そうかもしれない」
――これまでのキャリアを通してROTH BART BARONならではの美学/黄金比として培ってきた壮大なフォーク・ロック的世界を、今一度じっくりと表現するということは、今話した〈強度〉を実現するにはもっとも適した方法だったのかもしれませんね。
「そうだと思います。パーソナルなことを身近な題材として取り出すってことじゃなく、自分の深い部分、深層心理に潜っていったら、自然とそういった表現になったということなんだと思います。
そこへ潜ることで、人間としての純粋な歓びが見えてきたというか……。それを〈けものになる〉ことでもあると捉えることもできる。その歓びは、イデオロギーの対立とか、肌の色とか性別とかでもなく、音楽のジャンル的区別や知識でもなく、もっと非言語的なものですね。何かをパッと一聴するだけで感動するということが確実にあるし、そこをシンプルに突き詰めていったら、今回のように、いろんな年齢やジェンダーの人と一緒に、自分たちが得意とすることをフィジカルなやり方でとことんまでやってみる、ということだったんです」
――なるほど。
「このアルバムがみなさんへどう届くかは、僕らにはわからないけど、もちろん今日話した以上のものがこの10曲に入っているはずだし、試しにでもぜひ聴いてみてほしい。その瞬間、夜道を突然走り出したくなるかもしれない……もしそう思ってくれたらすごく嬉しいですね」

INFORMATION
ROTH BART BARON ”TOUR 2019-2020~けものたちの名前~”
2019年11月27日(水)東京・渋谷 WWW X - 単独公演 - Opening guest act : 水野蒼生
2019年11月29日(金)宮城・仙台 darwin - 単独公演 -
2019年12月21日(土)台湾・台北 The Wall - 単独公演 -
2020年2月1日(土)富山・高岡 善興寺
2020年2月2日(日)石川・金沢 アートグミ
2020年2月7日(金)福岡・天神 the Voodoo Lounge - 単独公演 -
2020年2月8日(土)鹿児島 SR Hall
2020年2月9日(日)熊本 NAVARO
2020年2月10日(月)山口・岩国 Rock Country - 単独公演 -
2020年2月11日(火)大阪・梅田 Shangri-la - 単独公演 -
2020年2月22日(土)愛知・愛知芸術文化センター 中リハーサル室
2020年2月23日(日)広島・福山 Cable
2020年2月28日(金)北海道・札幌 mole - 単独公演 -
2020年3月7日(土)山形 肘折国際音楽祭
2020年3月8日(日)青森・八戸 Powerstation A7
2020年3月22日(日)京都 磔磔 - 単独公演 -
2020年5月30日(土)東京 めぐろパーシモン大ホール
★ツアーの詳細はこちら
三船雅也 “HOWL SESSION vol.1”
2019年11月24日(日)京都 恵文社 Cottage
開場/開演:17:30/18:00
料金:3,000円
出演者:三船雅也/西池達也
トークゲスト:近藤一弥
★イヴェントの詳細はこちら
タワーレコード インストア・イヴェント
2019年11月24日(日)14:00~タワーレコード京都店
対象店舗:京都店、梅田NU茶屋町店、梅田大阪マルビル店、難波店、あべのHoop店、神戸店
2019年12月6日(金)21:00~タワーレコード新宿店
対象店舗:新宿店、渋谷店、池袋店、秋葉原店、横浜ビブレ店