Page 2 / 4 1ページ目から読む

ツイストで夜をぶっとばせ

渡辺「続いてはヴォーカルもので、サム・クック。これは日本でのサム・クックの評価を変えたアルバムなんです。これがリリースされる前までは、ちょっとポピュラー寄りのイメージがあり、ファンキー・サイドの間では〈サム・クックは上品すぎる〉という声が多かったけど、これで評価がガラッと覆ったんです。やっぱ現場ではこうだったのか!って。お客さんもほぼ黒人しかいない状況で歌ったライブ・アルバムから曲は“Twistin' The Night Away”。邦題は〈ツイストで踊りあかそう〉。オリジナル・ラブ的にいえば〈ツイストで夜をぶっとばせ〉というね(笑)」

(会場拍手)

田島「別に拍手はいらない(笑)」

渡辺「『笑点』じゃないんだから(笑)」

Sam Cooke『Live At The Harlem Square Club,1963』(63年)
“Twistin' The Night Away”

田島「ソウル・ミュージックが好きなヴォーカリストでサム・クックに影響を受けていない人はいない。コンテンポラリーなヴォーカル・スタイルの礎を築いた人ですよね。このアルバムと趣が違う『Sam Cooke At The Copa』(64年)ってライブ・アルバムもあって……」

渡辺「そっちはお客さんがお金持ちの白人ばかりのライブ」

田島「かなり上品な歌唱法なんですが、いま聴くとアレも良いんですよね。昔はソウルフルなサム・クックが大好きだったけど、50を超えてあの上品な味もわかったという」

渡辺「そういう意味でいうと、坂本九さんがすごくサム・クックに似ているんです。さらに名前も似ているんですよ、サム・クックに坂本九ですよ……これは拍手するところですから(笑)。九さんはもともとジャズ寄りの人ですけど、語尾をこねている感じとかそっくり」

 

マーヴィン・ゲイになりたい!

Marvin Gaye『Live At The London Palladium 』(77年)
“Let's Get It On”

渡辺「続いて、田島さんが持ってきたヴォーカリストのアルバム。これまたジャケットが良い」

田島「ヤバいっす。これ見たとき、こういうふうになりたい!と思いましたから」

渡辺「股間の辺りを強調している感じで」

田島「何の悩みもない感じがする。でもこの頃、彼はというと……」

渡辺「人生悩みまくっている時期」

田島「レコードが大ヒットしてからいろんなことが起こり、不調に陥ってアルバムが出せない状態だった。このライブ盤は“Trouble Man”とかちょっと病み気味の暗い感じの曲をやっていて、それがレア。時折垣間見せる泣きのフレーズがまたいい。それにしても、めちゃくちゃ歌がうまい。この当時のPAシステムは貧弱で、ステージ上では音もあまりよく聴こえないはず。なのに、このピッチとリズムの正確さ。バックとの合い具合も、ひょっとしたらテレパシーで通じ合っていたんじゃないか、というぐらいにすごい」

渡辺「マーヴィン・ゲイさんは自分で作詞・作曲を行うようになって、なにかとプライヴェートを出しすぎる傾向になり、離婚したときも〈離婚伝説〉(79年)っていう別れた奥さんへの恨み節が詰まったアルバムを作ったりして。こんな邦題を付けたレコード会社の担当者のセンスもどうかと思うんですが(笑)、そんな内容のアルバムを作るぐらいに弱っていた。では、ここからちょっと趣向を変えてサルサを聴いてみようかなと」

 

熱狂のサルサ

Fania All Stars『Live At The Cheetah 1』(71年)
“Anacaona”

渡辺「NYのラテン専門レーベル、ファニアに在籍するミュージシャンが一堂に会したライブ盤です。チーターっていうクラブでのライブが収められていて、この模様は映画にもなっています。ラテンのお客さんの熱い感じもレコードで聴くといいんです。これは高校生の頃、リアルタイムで買った1枚で、サルサって言葉もこれで初めて知りました。ボブ・マーリーの『Live』(75年)もほぼ同時期だったな」

田島「ミュージシャンのパワーが最高の時期。最高にいい音楽が生まれていた時代ですよ。でも高校生でこういうのを聴いていたってだいぶオシャレですよね」

渡辺「そのかわり、みんなが好きだった真ん中のものをぜんぜん聴いていなかった(笑)。で、こちらはかなりホーンがフィーチャーされたアルバムですが、続いて田島さんの選んだアルバムもホーンつながりで……」

 

アース・ウインド&ファイアーをシティー・ポップ的解釈で聴き直す

Earth,Wind & Fire『Gratitude』(75年)
“Shining Star”

田島「このアルバム、聴き直すとすごくイマっぽくて、シティー・ポップ的解釈もできる。アースって“Boogie Wonderland”などのいわゆる〈ディスコです!〉みたいな曲が有名ですけど、もともとはジャズとファンクが混じり合ったフュージョン音楽を真面目にやっていた人たち」

渡辺「次第に売れ線に向かっていったのは、モーリス・ホワイトが天才で、コマーシャルな楽曲が書けちゃったからなんですよね」

田島「エンターテイメントの方向に進んでいっちゃった」

渡辺「ちなみにメンバーが空中をクルクル回ったり、突然消えたり、そういうマジックショーみたいなこともしていたんです、この人たち。代々木第一体育館で観てますよ」

田島「うらやましい~」

渡辺「モーリス・ホワイトは年代を追うごとにアフロがどんどん後ろに下がっていく(笑)」

田島「あれが最高。アレをこないだやった〈ひとりソウルショウ〉で再現しようとしたんですよ。ガイコツの仮面にアフロのカツラを被って、それがこうだんだんと後ろに……(笑)」