コモン、カルリーニョス・ブラウンらとのオーガニックなコラボレーション

――そういうオーガニックな出会いがたくさん起きている新作の収録曲について、いくつか訊かせてください。まずはコモンが参加した“Sabor Do Rio”。

「まず、このアルバムはすべてオリジナルの新曲にすると決めていた。カヴァー曲は入れない。“Sabor Do Rio”は友人のミカ・ムチ、私のバンドのサックス・プレイヤー、スコット・メイヨと作った曲だ。自宅で私がメロディーを思いつき、スタジオに入って仕上げ、さらにブラジルに飛んで、たくさんのブラジリアン・パーカッションを入れた。

そこまでやって、ゲストを入れたいなと思ったんだ。すぐに思いついたのが、コモンだった。彼は世界中でリスペクトされている偉大なアーティストだからね。彼もYESと言ってくれたのでスタジオに来てもらった。

コモンは私に〈この曲はどういうことを表してる?〉と訊いてきた。私は〈ブラジル、祝祭、喜びさ〉と答えた。彼は〈OK〉と言って、スタジオに入ってあっという間に即興であの素晴らしいリリックを作り上げたんだ。コモンはブラジルのメロディーとリズムをしっかりとらえていた」

『In The Key Of Joy』収録曲“Sabor Do Rio (Feat. Common)”

――SKY-HIが参加したリミックス・ヴァージョンは、どうでした?

「彼は日本語のリリックを書き、アレンジも少し変えたよね。同じ曲だけど違うヴァージョンになった。とてもユニークで大好きだよ」

――そうした異なるカルチャーとの融合への興味は、もともとセルジオさんの資質にあったものですか?

「そう。最初からそうだった。たとえば、私が音楽を始めた頃はボサノヴァの時代だった。アントニオ・カルロス・ジョビンやバーデン・パウエルといった素晴らしい作曲家がいたよ。だけど、ほとんどのボサノヴァの曲はギターと歌だけで作られている、とてもミニマルなものだった。

私はボサ・リオというバンドを組んで、トロンボーン2人、テナー・サックス1人、ベース、ドラムス、ピアノで自分の曲をレコーディングしたんだ。みんな〈わお!〉って驚いていたよ。私はそういうアイデアが好きだったんだ」

――そういう試みはこの新作でも起きていますよね。たとえばカルリーニョス・ブラウンと共作した“La Noche Entera”という曲はレゲトンみたいなリズムです。

「その通り! カルリーニョスがメロディーを書いてくれてね。そこにレコーディングでブラジリアン・パーカッションを足していったんだが、私たちはこの曲をブラジル風レゲトンにしようと決めた。レゲトンはプエルトリコ発祥の音楽だけど、私たちはそこにビリンバウやクイーカといったパーカッションでブラジルの要素を足した。

それから、コロンビア出身の若い兄弟ミュージシャン、カリ・イ・エル・ダンディーにお願いしてスペイン語の歌詞を書いてもらったんだ。私がスペイン語の曲は作ったのはこの曲が初めてなんだよ。他にはない曲になった」

『In The Key Of Joy』収録曲“La Noche Entera (Feat. Cali Y El Dandee)”

 

ジョアン・ドナートとエルメート・パスコアールは私の〈アニキ〉

――そうした新しい才能との出会いがあるいっぽうで、セルジオさんにとっては旧友とも言えるブラジルのレジェンド、ジョアン・ドナート提供の“Muganga”や、エルメート・パスコアール提供の“This Is It (É Isso)”も目を引きます。

「ドナートとは長いね。彼は私の〈アニキ〉だよ(笑)! 私より5歳上だからね。ブラジルにレコーディングで行ったときに、彼に〈新しい曲はあるかい?〉って訊いたんだ。そしたら、彼が〈あるよ〉と言ってこの“Muganga”を弾いてくれた。即決だったね。

エルメートも、もう1人の〈アニキ〉だ(笑)。彼は自然なアイデアに溢れた人間だよ。〈メロディーに合わせてラップしてくれないか?〉ってお願いしたら、素敵なスキャットをしてくれた。彼は頭で考えて音楽をやってない、心から自然と音楽が出てくるんだ。すごくブラジル的でハートフルな曲になったよ」

『In The Key Of Joy』収録曲“Muganga (Feat. Gracinha Leporace)”

『In The Key Of Joy』収録曲“La Noche Entera (Feat. Cali Y El Dandee)”

――アルバム・タイトルにある〈ジョイ〉については先ほどから話に出ていますが、〈キー〉という単語を選んだ理由はなんですか?

「私がいつも使うピアノのキーにちなんでいるからだね。Cメジャー、Fシャープ、Aマイナー……。どんな曲にもキーがある。そのキーが喜びを産むというのが〈キー・オブ・ジョイ〉なんだ。もうひとつ、キーには喜びのドアを開ける鍵という意味もある」