©Monaris

ありそうでなかったビッグネーム同士の組み合わせによる極上のコラボ・アルバムがついに完成! 抜群の好相性と創造性から生まれたソウルフルな表現がレジェンドの現在を鮮やかに更新する!

夢のようなコラボ

 昨年でヒップホップが生誕50周年を迎えたとあって、Q・ティップと組んだLLクールJの新作『The FORCE』やナズとヒット・ボーイの連作、少し遡ればブラックソート&デンジャー・マウスの『Cheat Codes』など、もはや若ぶる必要のないレジェンドたちが高い集中力で自由に創作する作品が目立ってきたように思う。その流れに続くかもしれないのがコモンとピート・ロックのタッグによる『The Auditorium Vol.1』だ。90年代からソウルフルな名作を連発してきた屈指のMCと、いわゆる〈黄金時代〉の音を創造した重要プロデューサーという、ある種のリスナーにとっては夢のような組み合わせだが、そうでなくても本作は多くの受け手の心を揺さぶるに違いない。

COMMON, PETE ROCK 『The Auditorium Vol.1』 Loma Vista(2024)

 70年にNYのブロンクスで生まれたピート・ロックと、72年にシカゴで生まれたコモン。ほぼ同世代で同じ時期にヒップホップに傾倒し、30年以上も現役で同じ時代を生き抜いてきた彼らだが、その接点は意外なほどに少なかった。二人が最初にコラボしたのは、史上最高のディス・ソングのひとつとされる“The Bitch In Yoo”(96年)である。これはコモンの“I Used To Love H.E.R.”(94年)に対して“Westside Slaughterhouse”(95年)で噛み付いてきたアイス・キューブを迎撃した曲で、その辛辣な口撃を支えたのがピートのトラックだったのだ(なお、コモンとキューブはファラカーン師の仲介で和解。2016年には映画『バーバーショップ3 リニューアル!』で共演し、主題歌でコラボもした)。その縁もあってか、98年にはピートの“Verbal Murder 2”にコモンが客演。ただ、以降は相互のネタ使いなどはあっても、『The Auditorium Vol.1』まで実際のコラボが実現することはなかった。

 そんな両者ながら共通点や繋がるポイントはいくつかある。まず、いずれも固有の相棒とのタッグでアルバムを作ってきたことは似ていなくもない点だろう。ピートについてはCLスムースとのデュオは説明不要だとして、近年はラップ・アクトと組んだワン・プロデューサー的なタッグ作を多く残している。コモンについても盟友ノーIDと組んだ90年代のアルバム3枚をはじめ、その後のソウルクエリアンズ時代、ノーIDの弟子にあたるカニエ・ウェストとの名作群、ノーIDと再会した時代の2作、そして『Black America Again』(2016年)のカリーム・リギンス体制……と折々のチームとガッチリ組むスタイルでアルバム作りに臨んできた印象だ。それでいうと、コモンと傑作『Be』(2005年)と『Finding Forever』(2007年)を作ったカニエはもともとピートの影響下にある作風で脚光を浴びたトラックメイカーだし、コモンと縁深いJ・ディラも生前からピートへの憧憬を隠さなかった人だ(その縁から2009年の『Jay Stay Paid』はピートが監修していた)。そう考えれば、コモンのスタイルがピートの編み出すビートに合うことは容易に想像できる。だとしても、本作の成果はその上を行くものになったわけだが。