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〈景気の良さ〉はあるけど〈郷愁〉はない

――YMOのアルバムで好きなのは?

大井「僕は『パブリック・プレッシャー』(80年のライブ盤)です」

網守「やっぱお前、根がバンドマンだな!」

大井「(笑)。いま、網守くんが話していたような、この時代特有の熱気や結託感を、このアルバムを聴いていると感じる。世界に侵食していくような大きなエネルギーを持つ音楽を作りたいと思うと、そのための燃料をどこから引っ張ってきたらいいのか、時々僕は分からなくなる時があって。そういう時にこのアルバムを聴くと、単純に元気が出るというか。〈元気が出る〉ってあんまり好きな言葉じゃないけど(笑)。ここには自分の憧れていた世界があるんですよね」

網守「確かに〈景気の良さ〉は感じるね。けど、ここに〈郷愁〉はない。むしろ〈郷愁〉を感じるのは後にヴェイパーウェイヴに繋がる音楽であって、YMOはそれがなく、ヴェイパーにとっての素材になっていないところも興味深いな。“テクノポリス”(79年のファースト・シングル)では 〈TOKIO〉とか歌っているけど(笑)、あまり東京の景色は浮かんでこないんだよな。そこは不思議だし、サスティナビリティがある所以なのかなって思います。

僕はアルバムでいうと、『BGM』と『テクノデリック』(共に81年)ですかね。この2枚はセットで好き。『BGM』収録の“来たるべきもの”は無限音階の曲ですけど、僕も自分のアルバムで同じようなことをやっていて(笑)。ポップスの場であろうと、そういう抑制できない実験精神をサブリミナル的に挟み込むみたいな作風は、顕著に影響を受けているかも知れないです」

――ちなみに、網守さんが坂本さんのソロで一番好きなアルバムを挙げるとしたら?

網守「そうだなあ……リアルタイムで最も影響を受けたアルバムなら『CHASM』(2004年)かな。でも、好みでいうとその前の『ELEPHANTISM』(2002年)のほうですね。アフリカでのフィールドワークが元になってる作品ですけど、遠い外界の音がそもそもパーソナルなものとなって聴こえてくる部分が素晴らしいですね。というのも、自分が一人で音楽を作っているので、一人で全部演奏してレコーディングもしてっていう作品にやはり惹かれるんです。そういう意味では、例えば細野さんは80年代中期~90年代中期の作風が圧倒的に好き。そうやってゲスト・ミュージシャンもエンジニアも入れずにたった一人で仙人のように作る作品を自分も作れたらいいなあって思っていますね。20世紀の作家主義的で古臭いと思われるかもしれないけど」