J-サブカルチャーの心臓としてのYMO

田中雄二 『シン・YMO イエロー・マジック・オーケストラ・クロニクル1978~1993』 DU BOOKS(2022)

 表紙帯に刻まれた〈すべてのYMO本よ、サヨウナラ〉なる強気のコピーにもうなずかざるを得ない、3段組み700ページ、ド迫力の大著である。「電子音楽 in JAPAN」や「TR-808〈ヤオヤ〉を作った神々」など数々の名著によって、電子音楽を中心に日本のポップ・ミュージック史を具に検証してきた著者の、まさに渾身の一撃と言っていい。98年に出た「電子音楽 in JAPAN」でもYMO関係にはかなりのページが割かれていたが、そのパート(結成から散開まで)を土台に、メンバー3人への長時間取材やたくさんの関連書籍からの引用で大幅増補したのが本書だ。扱われているのは結成前の3人の足跡(そこだけでも100ページ超)から93年の再生まで。ほぼ時代順に3人及び関係者の発言を並べ、その合間に著者の解説が入るという至極シンプルな構成だが、引用元資料(書籍、雑誌、ライナー、パンフ、放送など)の数の膨大さにまずは仰天させられる。これだけ大量の資料を調べ、その中から重要な発言をピックアップして足跡を紡いでゆくという作業は、3人のキャリアの全貌や音楽性を十分に理解した上で、編集者的能力もなければ不可能だ。ファクト中心の構成も相俟って、〈決定版!〉という著者の自信のほどが伝わってくる。

 私はYMOの音楽の熱心なリスナーではないしファンだったこともない。しかし、彼らは日本のポップ・ミュージック史において最も巨大かつ重要な存在であるとずっと認識してきた。それは、YMOがただの音楽家ではなく、ファッションやデザイン、映画、文学、哲学、ゲームなど様々な領域が有機的に絡み合った70~80年代日本のサブカルチャーの心臓だったからであり、彼らを戦後日本の黄金時代の象徴とみなしてきたからである。私自身、30年前には〈YMO環境〉なるコンセプトで雑誌の特集を組んだこともあった。本書では、テクノロジーの進化と音楽表現の変化の関連など、ハード面にも強い著者ならではの視点が随所に盛り込まれていることもうれしいが、それ以上に、近年改めて海外から注目されているJ-サブカルチャーにおけるYMOという視点が全体を貫いていることこそが評価されるべきだろう。なんなら、周辺の文化事象に関する記述をもっと増やしても良かったとも思う。著者なら、それも可能だったはずだし。誤植や校正ミス、事実誤認などの訂正と共に、今後、版元のサイトなどで更に肉付けしてくれれば言うことない。我々が誇るべき日本文化遺産のために。