サントラ制作は奇妙なゲームのよう
牛尾「僕の世代にとってあなたはヒーローというか、エレクトロニック・ミュージックにおいて革命を起こした人だと思っています」
ロパティン「ありがとう(笑)」
牛尾「あなたのような人でも、監督にはときどきムカついたりしますか?」
ロパティン「イエス」
牛尾「(笑)」
ロパティン「僕はラッキーだけどね。全員が一緒に仕事をする相手を選べるわけじゃないが、いまのところ僕はそういう立場にいる。他にもいろいろやってることもあり、スコアを書くときは〈普通の意味〉で怒らなくて済む相手と組むことにしてるんだ。情熱を持ってやってると、そのせいで怒るときはどうしたってあるから。でも、たいていはムカつく相手とはやらないようにしてる。短気だからね」
牛尾「自分の作品では好きなことができるじゃないですか? たとえば32小節、64小節ずっとキックやドローンのサウンドを続けたいと思ったら、それができますよね。でも、映画音楽を作るときは、その場面をどこでカットするかは監督が決めるし、タイムラインは映画にコントロールされる。最初はそれにすごくフラストレーションがあったんですが、これはコラボレーションなんだって思うようになってからおもしろく感じられたんです」
ロパティン「その難しさには同意するし、興味深いと思う。でも同時に、パズルみたいなのが楽しいんだよね。映画だと目的地は見えてるし、その途中でやらなきゃいけないことや障害があるのもわかってる。で、いかにしてそこにたどり着くかってことなんだ。映画音楽は奇妙な音楽の奇妙なゲームみたいに僕は思ってる」
スコアとオリジナル楽曲、制作の違い
――映画「アンカット・ダイヤモンド」はどういった内容なんですか?
ロパティン「ハワードという男の話だ。彼は宝石商の仕事をしてるけど、強迫的なギャンブラーでもあって、スポーツ賭博に取り憑かれている。そのせいで厄介ごとに巻き込まれてしまう。舞台は2012年のNYで、だからちょっと変な時代物でもある。過去ではあるんだけど、〈昔〉ではないみたいな。
それでも2012年的で、当時のNBAの試合がストーリーに組み込まれていたりする。あの時代に対する興味深い考察にもなってるんだ。基本的にはスリラーだけど、人間味や温かみもある。アダム・サンドラーの演技のおかげだね。すごくオリジナルでおもしろい。笑えるし、変だし」
――サフディ兄弟とは2度目の仕事ですが、彼らと仲良くなったきっかけは?
ロパティン「サフディ兄弟のことは、映画『神様なんかくそくらえ』(2014年)で知ったんだ。彼らは僕のことをレコードで知っていた。でも、初めて会ったのは2015年くらいかな? 彼らは『グッド・タイム』のスコアを書く人を探していた。それで、〈会いたい〉と言われて彼らのオフィスに行ったんだけど、すぐに古い友人みたいな関係になった。
オフィスに入ったら、壁に『AKIRA』の巨大なポスターと、その隣にアベル・フェラーラの映画『キング・オブ・ニューヨーク』(90年)のポスターがかけられてた。〈この組み合わせはすごく変だぞ〉と思ったね。しかも、プロデューサーが全身黄色のジャンプスーツを着ていた。上も下も黄色で、黄色い箱のアメリカンスピリットを吸ってた。それで〈こいつら最高だ〉と思ったね(笑)」
――スコアとオリジナル作品で創作のアプローチを使い分けることはありますか?
ロパティン「僕が自分1人で作業するときは、音楽に対するもっとも私的なアイデアに浸れるし、それを使える。でも、ある意味そのことにうんざりもするんだ。あまりに個人的だから、それが他の人たちにとって意味することの視点を見失ってしまうからね。だから僕は、コラボレーションのプロジェクトと自分の作品の間で揺れていたい。じゃないと精神が自家中毒的になってしまうから。
とはいえ、ほかの人のために働くのは結婚とかと同じで、妥協だらけにもなる。それがすごく辛いこともあるよ。コラボレーションのプロジェクトのあとは、たいてい嬉しくて自分のスタジオに駆け戻るんだ(笑)。ほかの人と組むときは、そんなに好き勝手はやらない。話を聞こうとするし、相手のアイデアのために働くという意味で気を配る。サフディ兄弟とはそのバランスがうまくいくんだ。彼らは僕らしくあることを求めてくるからね」
牛尾「僕はたぶん、Netflixも含めて10~15作くらい映画やTVシリーズをやってきたんですね。でも、いつも締め切りがすごくタイトで」
ロパティン「特にTVはそうだろうね。Netflixはなんていう作品?」
牛尾「アニメの『DEVILMAN crybaby』(2018)ですね。2020年は『日本沈没2020』をやるんですけど」
ロパティン「クールだね。全部観ないと!」
牛尾「締め切りがタイトなうえに、2018年頃はたぶん8作品くらいやったと思う。だからほんとにクレイジーで。1年で200トラックくらい作りました。だいたい1日1トラックのペースで作らないといけなかったんですけど、それでかなり落ち込んでしまって(笑)。
でも、自分のプロジェクトだったら、1つの作品に5年かけることだってできる。僕は自分の作品のサンプリングをスコアに使ったりするんです。だからよく言うんですが、自分の作品はMac Proみたいなものだと。スコアはiPhone。自分の作品は革新的なプロダクトを作るための実験的なラボで、それは自分に必要なもの。一方でスコアはもっと時間やスケジュールに制約されてる。ただ最近、僕は武満徹に影響を受けていて……武満徹は知ってますか?」
ロパティン「もちろん」
牛尾「武満徹といえば、和楽器を使ったオーケストラ作品『ノヴェンバー・ステップス』(67年)なんかが有名だけど、その前に手がけたスコアが素晴らしくて。小林正樹監督の映画『切腹』(62年)とか。そういう仕事が武満徹にとっては音楽のラボとなって、より幅広いサウンドに向かっていった。それがすごくクールだと思ったんです。
なので最近は、自分の作品とスコアの違いがなくなってきました。唯一の違いはスケジュールだけです。この対談のあともすぐスタジオに行ってスコアを作らなきゃいけない。本当にキツい(笑)。日本のアニメは見ますか?」
ロパティン「うん。大ファンっていうほどじゃないけど」
牛尾「今回のスコアには『AKIRA』のフィーリングもありますよね」
ロパティン「“Windows”は特にね。あの曲は、『AKIRA』の金田に対する僕らからのラヴレターみたいなもの。『グッド・タイム』のスコアでも太鼓を使ったし、ずっと前から芸能山城組は引用してるんだよ。僕らの神様みたいな存在だから」