YMOは〈過渡期の音楽〉だった
――先ほどのクリックの話ですが、実はYMOはバカテク集団だけど、あえてクリックに支配されることで〈テクニック至上主義〉に対してのアンチテーゼを掲げていたのではないですか?
「当時〈音楽はサーカスじゃない〉って思っていたし、テクニックに意味はないと思っていたのですけど、例えば〈速く演奏する〉とか〈手数が多い〉とかではなく、自分のスタイルをちゃんと持っていることが〈テクニック〉であり〈カッコいいこと〉だと思うんですよね。
YMOがやっていたのは、激動する音楽シーンの中の〈過渡期の音楽〉だったんじゃないかなと。これは細野さんもずっと言っていましたね。僕らがデビューしたとき、世間から〈ピコピコ〉〈無機質〉なんて言われてました。でも、〈コンピューターが音楽を作ること〉と〈コンピューターに音楽を演奏させること〉は、全く意味が違うんです。それは僕と教授がずっと力説していたことでしたね。もし音楽の概念が今後変わるとしたら、それはコンピューターが音楽を作るときだと思います」
――まさに去年の大晦日は〈AI美空ひばり〉が登場し、賛否両論となりました。
「あれは相当な情報をインプットさせてますよね。他にもAIにビートルズの曲をたくさんインプットして〈ビートルズっぽい曲〉を書かせたりしてるけど、下手したらジェフ・リンより上手いかもしれない(笑)。でも、それでもやっぱり違うと思う。まだね。本当にそれができるようになったら、それこそ『2001年宇宙の旅』のHALと人間の戦いになっちゃうのかなと。それはそれで、ちょっと楽しい世界ですけどね(笑)。
とにかくこの40年で起きた大きな変化は、シンセサイザーが安価になったことですね。僕らがYMOをやっていた頃は、本当にお金のかかる楽器でした。これは本当にテクノロジーの進歩のおかげだと思う。簡単に〈それっぽいサウンド〉を出せるようになったぶん、今後はコンポーズ能力やプロデュース能力がより重要になってくると思います。まあ、僕はそんなに優秀なプロデューサーでも、コンポーザーでもないけど(笑)」
――最近はシティ・ポップが世界的に評価されたり、細野さんのニューヨーク公演が大盛況だったり、ちょっと前までは予想もしなかったことが起きています。
「一昨年の細野さんのロンドンでの公演は僕も観に行きました。そしたら別の仕事でたまたま教授もいたのでステージに呼ばれてみんなで1曲やりましたが……(笑)。『HOCHONO HOUSE』は、僕が一昨年『サラヴァ!』をリテイクして創った『サラヴァ サラヴァ!』に影響されたのかなと思って細野さんに聞いたら〈そうじゃない〉って(笑)。『HOCHONO HOUSE』では、最新のテクノロジーを用いた『HOSONO HOUSE』はどんなことになるのか、確かめたかったらしいですね。
ともあれ、近年の細野さんのライブでは昨年のLAでのライブが特に素晴らしかったな。特に現地の若い人たち、20代の男女が沢山いたことに驚きました。それで思い出したのだけど、僕はミカ・バンドをやっていたときには、とにかく海外っぽいサウンドにしたくて。トノバン(加藤和彦)と必死で曲を作り、クリス・トーマスにプロデュースを頼んだわけなんですけど、それでもクリスから〈ものすごくオリエンタリズムを感じる〉と言われてしまったんですよね。確かにコピーは上手いんだけど、それでも日本人のアイデンティティーが滲み出ていると。しかも、そのことに気づかせてくれたのは、日本人ではなく外国人だったというのが皮肉だなあと思いました」