『North Marine Drive』があればジョン・レノンもボブ・ディランもいらない
――曽我部さんが初めてベン・ワットの音楽に触れたのはいつ頃ですか?
「中2の頃ですね。『ポッパーズMTV』っていうピーター・バラカンさんが司会をやってたテレビ番組で、エヴリシング・バット・ザ・ガールの曲がかかったんですよ。それを聴いて好きになりました。曲名は忘れたけど、『Love Not Money』(85年に発表したセカンド・アルバム)からのシングル曲だったと思います。アコギと8ビートのドラムが気持ち良かった。
『Love Not Money』って、結構アコースティック・ロックなアルバムなんですよね。キラキラしたアコギのサウンドがすごく良いなあと思った。その回はビデオに録って後で何回も見直しましたね。
あと、僕はトレイシーの顔はすごく好きなんですよ。細面で目が大きくて、可愛いなと思ってた」
――歌もルックスも良いぞ、と(笑)。
「うん。それでトレイシー・ソーンのソロとか、彼女がやっていたバンドのマリン・ガールズも聴いてみたんです。チェリー・レッド(エヴリシング・バット・ザ・ガールが所属していたレーベル)のコンピレーション・ビデオがあって、それを通販で買ってマリン・ガールズのミュージック・ビデオ(“A Place In The Sun”)を観たんですけど、遊園地みたいなところでメンバーが遊んでいる様子を8ミリ・フィルムで撮った映像で、それもすごく良いんですよ。
当時はYouTubeなんてないから、ビデオを通販で買ってたんですよね。エヴリシング・バット・ザ・ガールのビデオも買ったし、アイレス・イン・ギャザとかも」
――チェリー・レッドのアーティストもいろいろ聴いてみたりして。
「その時期に80年代のネオアコをいっきに聴いたんですよ。ウィークエンドとかヤング・マーブル・ジャイアンツとかも好きだったな。
そんななかで、ベン・ワットの『North Marine Drive』は究極でしたね。ネオアコの究極だし、自分が聴いてきたアルバムのなかでも究極。これ一枚あったら、ジョン・レノンもボブ・ディランもいらない」
――『North Marine Drive』はベン・ワットがエヴリシング・バット・ザ・ガール結成前、83年に発表したファースト・ソロ・アルバムです。このアルバムのどんなところに惹かれたのでしょうか。
「ジャケットがすべてを物語ってるというか。曇ったイギリスのビーチ、アメリカの西海岸とは違う海の感じ。裏ジャケでツイードの、たぶん古着のコートを着て、海を見ているベン・ワットの佇まいも良い。そういう雰囲気が曲や音色からも感じられるんですよね。
少年が語り部の作品という点でも究極って気がしますね。『ライ麦畑でつかまえて』とか『ブライトン・ロック』とか、少年が語り部の小説の音楽版っていう感じもする」