和製「架空楽団」の洋画音楽集が面白い理由
澤山博之監修・著「ミュージック・ライフ 東京で1番売れていたレコード 1958~1966」に復刻掲載された1962年10月集計の首位はコレット・テンピア楽団の“太陽はひとりぼっち”。前月5位初登場のこの(伊・仏合作による同名映画の)主題曲は翌年3月までベスト10入りし、50万枚超えを記録した。
が、税関試写から僅か1週間後に吹き込まれたこの大ヒット盤の正体は、当時人気ピアニスト兼編曲家だった寺岡真三の指揮による選抜楽団が奏でた「和製サントラ盤」、直訳造語でコレット(寺)・テンピア(岡)なんだとか……難解で観念的で集客が望めないアントニオーニ監督の〈愛の三部作〉第三弾を観た配給元から〈なんとか売れ線の主題曲で……」と秘策懇願された日本ビクターの宣伝マンが投じた妙案は、「当時流行っていたイタリア風のロッカ・バラードをツイストにアレンジ」し、その仕掛けを「すべてアチラ風の名前で」押し通すことだった。結果、本家の音源は無残にも消去され、突貫制作の寺岡楽団版がフィルム上にダビングされた云々の秘話は、件の辣腕宣伝マン(当時)である小藤武門の自著「S盤アワー わが青春のポップス」で明かされている。
ちなみにWikipediaの概要には「主題曲は、モーリス・ルクレール楽団版とコレット・テンピア楽団とヌーベル・マリーエ楽団、ベンチャーズ版と多くのバージョンがある」と綴られているが、今後は本作のコロムビア・シンフォネット名義も加えていただきたい。(と、前説が長引いたが)日本コロムビアの航跡を刻む膨大な貴重音源から鈴木慶一が選りすぐり、発掘/監修する待望 のアーカイブ・シリーズ第一弾『The Diggers Loves Sound Archives: Spotlight on the Columbia Symphonette』。 デッカのCD40枚組『Phase 4 Stereo』にも並ぶ好企画だ。
1929年結成の社内専属ジャズ・バンド(=コロムビア・ダンス・オーケストラ)を源流とし、時流を伴奏する如く〈日本コロムビア交響楽団〉〈コロムビア・ポップスオーケストラ〉等々と改名しつつ1980年まで存在したという匿名性の強い自在編成楽団――今回は1957~1970年の期間、シンフォネット名義で録音された映画音楽を鈴木慶一/岡田崇の共同選曲で編んだ珠玉揃いの一枚だ。解説対談中の「曲に時代の空気が感じられるし、アレンジも怪しげで面白い」(慶一)、「オリジナルって音が荘厳で何だかエラそうじゃないですか(笑)。小編成のほうが親しみやすい」「モンド感も増す場合もある」(崇)という両氏の卓見が本作の魅力を物語る。で、本盤収録の“太陽は…”の副題にECLISSE TWISTと付されているが、これは小藤案への献辞!?!? 和製盤の歴史は掘れば掘るほど面白い。