より自由な表現にトライできる環境に触発され、ポジティヴに弾けたマインド。
ハッとした輝きに彩られた新作に映る彼女の新境地とは……?

ポジティヴなマインドで

 陰影に富んだ心象風景をありのままに描き出した前作『Shade』から約1年。同作の収録曲“Won­der­land”のMVが980万回を超える再生回数を記録するなど、しなやかなグルーヴと共にその深い歌声が広く浸透し続けているiri。取り巻く状況の変化がもたらした冒険心と大胆さを糧に制作を行った新作『Sparkle』は、文字通り明るい音と言葉が弾ける会心のアルバムとなった。

iri Sparkle Colourful(2020)

 「何が弾けているかというと、それは間違いなく自分のマインドですね。リスナーの方がだんだん増えてきて、新しく出す曲を認めてくれるようになってきた状況が今の自分に大きな影響を及ぼしているというか。万人受けを意識せずに曲を作れるようになりましたし、人目を気にせず自分のことを表現できるようになりました」。

 〈納得がいかないことを自分でクリアにしていきたい〉という思いが込められているという“Clear color”で幕開ける本作は、Tokyo RecordingsのYaffleが紡ぐビートと、その予想外の展開が示唆するように、冒頭から次々に繰り出されるクリエイティヴな発想が既存のイメージを鮮やかに塗り替え、瑞々しいなサウンドスケープを浮かび上がらせる。

 「3曲目の“Sparkle”でサウンド・プロデュースをお願いしたKan Sanoさんとはこれまでに“飛行”や“mirror”のようなゆったりした曲を作ってきたので、逆に今回はアップテンポな曲を作ってみたかったんです。そして、この曲は、生音の比重を増した今作を象徴するアルバム・タイトル曲なので、Kan Sanoさんが得意とする生音と電子音のハイブリッドなアレンジをお願いしました」。

 スペーシーなシンセサイザーとファンク・ビートが溶け合った“Sp­arkle”は、夜のメランコリックなムードを残しつつも、これからまさに一日が始まろうとしている真っさらな早朝の心象風景を描き出してゆく。

 「このアルバムにおける私のマインドは、基本的にポジティヴだと思います。曲を書く時は夜の景色がイメージしやすいし、実際、夜に曲を書くことが多かったりするんですけど、夜は悩みや不安がどうしても頭をよぎったりする。だから、私の曲にはどうしても抜けきらないネガティヴさがあったりするんですけど、夜に書いたこの曲では間もなくやってくる早朝の色彩やムードをイメージしました」。