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韓国のクラブ・シーンが育んだ個性的なDJスタイル

――お二人がDJとして活動していくなかで、韓国のクラブ・シーンから受けた影響も大きかった?

「自分にとってもイェジにとっても結構大きい気がします。いまから5~6年前の韓国のクラブ・シーンはちょうど過渡期だったのもあって、何でもアリだったんですよ。ヒップホップでもハウスでもテクノでも何をかけてもよかった。なかでも(影響力の)大きかったクラブがCakeshop。そこで流れているジャンルやサウンドもすごく好きだったし、いち早くUKの最先端の音楽がかかったり、すごく尖った音がランダムで流れていた。私もごちゃ混ぜなプレイをよくするけど、それはCakeshopで培ったものです。自分もそこでプレイしたいと思ったから、尖った音楽を人一倍掘るようになりました」

――YonYonさんがイェジさんを取材したFNMNLのインタビューで、彼女が「実はYonYonちゃんのDJスタイルにもかなり影響を受けたんだよね。数年前、Cakeshopでのプレイを初めて観た時、ボーダーレスに素早く色んなジャンルをミックスするスタイルが当時は新鮮だった」と語っていたのはそんな背景があったんですね。

YonYonのCakeshopでのDJ(2015年)
 

「そうですね。イェジちゃんが私のプレイを観たのは、彼女がDJを始めた頃の話で。彼女曰く、当時のNYのアンダーグラウンド・シーンでは他ジャンルを混ぜてミックスするのがタブーとされる雰囲気が残っていたみたいで、韓国のCakeshop等で流れる最先端な音にずっと興味を持っていたそうなんです。ちょうど彼女が韓国の実家に帰っていたタイミングで、私がCakeshopでプレイする日があったので、一緒に来てもらいました」

――逆にYonYonさんから見て、イェジさんのDJはどんなふうに映ってます?

「アメリカが拠点だからなかなか観る機会がなくて、2年前の渋谷WWWで初めて観たんですけどめっちゃカッコよかったです。基本、BPM130前後でプレイするんですけど、ジャンルレスに四つ打ち以外でもかけるし、選曲の流れにストーリーがあって、DJもかなり上手い。それになおかつ、自分の曲があるというのがすごく強い。彼女はDJしながら歌うんですけど、そうやって歌うのもDJプレイの一環という感じがします。あれは彼女にしかできないことだなって」

イェジのNYでのDJ(2017年)
 

――僕も去年の〈フジロック〉で観たんですけど、もはやDJと呼ぶべきかわからないくらい歌ってました。ああいうスタイルの人は韓国でも珍しいんですか?

「いまはちょいちょい増えてますね。ニューカマーで言うとパク・ヘジン(Park Hye Jin)。彼女はDJ、SSW兼ラッパーという肩書きを持っているんですけど、彼女も若くしてオーストラリア/メルボルンのレコード・レーベル、clipp.artからEPをリリースして、そのあとは活動の拠点をロンドンに移して。確かいまはLAに住んでるんじゃなかったかな。そんなふうに、プロデュースができて歌えるDJの子は韓国国内に留まらず、ワールドワイドに活躍しています。いまはベルリンを拠点に活動しているペギー・グーもそう。彼女はプレイ中は歌わないけど、音源では歌ってますし」

パク・ヘ・ジンの2019年の楽曲“I Don't Care”

 

私たちが韓国語で歌う、それぞれの理由

――イェジさんは“Drink I'm Sippin On”(2017年)で大きくブレイクした印象ですが、あの曲を聴いたときはどう思いました?

「〈クゲアニヤ~〉の曲ですよね。立ち上がって間もない頃の88risingから、早い段階でピックアップされて、アジア人アーティストとして一旗上げましたよね。まさか、あんなビ―トを出してくるとは思わなかった。彼女が過去にリリースしてきた楽曲の流れからみてもっとBPMが早い感じでくるのかなと思ったら、むしろハ―フにしてきたじゃないですか。

これは私の勝手な推測ですけど、ちょうどトラップが流行ってた時期だったし、イェジちゃんはジャンル関係なく音楽を聴いていて、ヒップホップやR&Bも超好きな子なので、それを自分の作品としてアウトプットする(ベストな)タイミングをわかっていたんだと思います」

イェジの2017年の楽曲“Drink I'm Sippin On”
 

――イェジさんが韓国語と英語を自由に行き来するスタイルは、欧米のリスナーにとって新鮮だったと思うんですよね。YonYonさんの場合はさらに日本語も織り交ぜていますけど、言語やカルチャーをミックスさせるというのは自分たちの表現にとって重要だと言えそうですか?

「そうですね。ただ、イェジちゃんと私はちょっと目的が違っていて。FNMNLで私が彼女にインタビューしたとき、なぜ韓国語と英語をミックスするのか質問したら当時は〈歌詞を秘密にしたかったから〉と答えていて」

――「曲を作り始めた時には、内容を他の人に知られるのが恥ずかしかったから、自分だけがわかるように韓国語で詞を書いていた」と話していましたね。

「もともと、パーソナルな表現として韓国語だけで歌詞を書いてるうちに、周りのアメリカ人の友達にも理解できるよう、自然とブレンドするようになったと思うんですよね。でも私の場合は、〈The Link〉という楽曲制作プロジェクトをやるにあたって、自分の音楽を日本のリスナーにも韓国のリスナーにも聴いてほしかったので、最初からわざと混ぜたんですよ。私は歌詞を聴いてほしくて韓国語を混ぜたのに対し、彼女は歌詞の意味を隠すことによって、韓国語の発音の美しさを際立たせ、リズム(楽器)として取り入れたんだと思います」

〈The Link〉の第2弾として発表されたYonYonとSIRUPとの共作曲“Mirror(選択)”