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「キッズ・リターン」は、北野武監督による通算6作目。金子賢&安藤政信演じる落ちこぼれ高校生ふたりが、とある理由でボクシングと出会って青春を捧げるも、才能の違いによって別の道を歩んでいく姿を描いた青春映画の傑作です。

北野監督は94年にバイク事故を起こしており、今作は復帰後初の監督作品。「その男、凶暴につき」(89年)や「ソナチネ」(93年)などのような〈ヴァイオレンス〉系でないことや、前作「みんな~やってるか!」(95年)があまりにもハチャメチャなコメディー映画だったこともあり、観る前はあまり期待していなかったことをよく覚えています。

僕は、5つ離れた兄と一緒に東京・テアトル新宿で鑑賞、青春映画としての爽やかさとほろ苦さは「あの夏、いちばん静かな海。」(91年)に近いような感じがしたけど、何かが決定的に違う。そう、主人公に〈死〉が与えられなかったことがとっても印象に残ったのです。あぁ、たけちゃんは生まれ変わったんだ。ファンとしてこんなに嬉しいことはなかった。

主人公が最後に放つ〈バカヤロウまだ始まっちゃいねえよ〉という一言は、監督自身が〈生きていく〉ことを選択した証明でもあったのです。だって、「ソナチネ」で〈あんまり死ぬの怖がってるとな、死にたくなっちゃうんだよ〉なんてセリフを聞いた1年後に、実際に事故って死にかけてるんだもん。ファンの不安っぷりたらなかったですよ。