2024年、第77回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションである〈ある視点〉部門でオープニング作品として上映されたルーナ・ルーナソン監督の映画「突然、君がいなくなって」。本作が、2025年6月20日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開される。

長編4作目にして日本での本公開が初めてとなるルーナ・ルーナソン監督の作品だが、過去にトーキョー ノーザンライツ フェスティバルでの上映で虜になった観客が続出。SNSでは〈新作が観られる〉と喜びの声が上がった。

それに引けを取らない盛り上がりを見せたのが、〈音楽:ヨハン・ヨハンソン〉への反応だった。2018年に死去したヨハンソンは、生前「博士と彼女のセオリー」(2014年/ジェームズ・マーシュ監督)で各国の映画賞の作曲賞にノミネートされ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「ボーダーライン」(2015年)、「メッセージ」(2016年)などの映画音楽を手掛け続けたアイスランド出身の鬼才である。ミュージシャン、作曲家、プロデューサーとしても活躍し、映画の世界においても彼の名前を追いかけて作品を観るファンは多い。

彼の楽曲“Odi Et Amo”が使われている「突然、君がいなくなって」は、アイスランドの首都・レイキャビクに住む美大生のウナが、周囲に秘密で付き合っていた彼を突然の事故で亡くし、彼のもう一人の恋人と対峙した際の心の葛藤やその先の再生へと向かっていく様子が描かれる。まるでその場にいるかのような臨場感で、ヒリヒリとした感覚がスクリーンのこちら側にも伝わってくる。

本作になぜ今、既成曲であるヨハンソンの楽曲を用いることになったのか。彼の楽曲が映画に及ぼす力とはなんなのか。本作の監督であり、ヨハンソンと知人だったと語るルーナ・ルーナソンに話を聞いた。


 

〈ご近所さん〉から始まった関係性

「これまでの私の作品では、シガー・ロスのキャータン・スヴェインソンが楽曲を手掛けてくれていたんです。ただ、彼はまだ新しいバンドを作ってツアー中だったのでどうしたものか……と思ったときに、この“Odi Et Amo”が浮かんできました。

この曲はずいぶん前から、私の大好きな楽曲です。(ヨハン・ヨハンソンは)2018年に亡くなってしまいましたが、この曲は彼が有名になる前、2000年頃に上演された舞台のために書かれたものだそうです。

初めは、彼は近所に住んでいて、一方的に活躍を応援していた存在でした。2000年代前半に知り合いになりましたが、一緒に仕事をしたことはありませんでした。そこから彼のキャリアが開花していき、アカデミー賞を取った『博士と彼女のセオリー』やドゥニ・ヴィルヌーヴの『メッセージ』『ボーダーライン』といった作品を手掛けていましたね。

彼は素晴らしい作曲家・アーティストであるだけでなく、とてもいい人でした。映画音楽の中で新しいジャンルを作り上げた人だと思います。亡くなった後でも彼の影響を感じる映画楽曲は数多くありますね。反復とサウンドデザインによって、心の動きを音楽に盛り込むということに成功しています」