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さて本来であればクラフトワークから、よりフローリアン・シュナイダー個人にクローズアップしたいのですが、彼らは大衆に向けたインタビューやプロモーションに積極的に参加することをしませんでした。よってメンバーそれぞれのキャラクターが見えることもほとんどありません。いくつかインタビューや評伝、歴史をまとめた書籍を確認できますが、それでもメンバー個々の登場回数は圧倒的に少ないといえるでしょう。
しかし、そうであってもクラフトワークというプロジェクトを始動させ、その中心であったフローリアン・シュナイダー、ラルフ・ヒュッターというふたりの名は電子音楽史の1ページ目に燦然と輝くものです。シュトックハウゼンやシェフェールら先人達が現代音楽として産んだものを、ポップに聴けるものに、あるいはフロアで踊るものに変容させるという先進的な発想は彼らによって成し遂げられたのですから。
この実験的で発展的な精神が、数多の新たな楽曲やアーティスト、ジャンルまでをも生みだしていきました。電子音を(広義の)ポップ・フィールドで使用する、という観点からみれば今日の音楽からクラフトワークの影響を排除することは難しいでしょう。そしてそれは、テクノポップ的な曲調を超え、あらゆる電子的な音を使用する楽曲に波及するはずです。

 

その音楽性と同じく、クラフトワークの姿勢に関しても大きな足跡をみてとれます。
放射能、自転車、特急、コンピュータ……。こうしたコンセプトを、ひとつひとつの作品で頑なに守ったクラフトワークのその姿勢、あるいは大衆に迎合しなかった姿は、アーティストというものの中にあらたな類型を産んだと言っても過言ではないのかもしれません。そして、それはもはや電子音楽に留まらず、音楽に対する普遍的な姿勢として強烈な影響を後進に与えているのではないでしょうか。
驚くべきことに結成から50年を迎えるクラフトワークのこうした影響は、決して過去のものではありません。
フローリアン・シュナイダーは2009年にクラフトワークを正式に脱退していますが、クラフトワーク自体は現在でもラルフ・ヒュッターを中心に活動を続けています。
フローリアン・シュナイダー、ラルフ・ヒュッター、ふたりが産んだこの大きな波は、今日に至ってもあらゆる音楽やそれに向かう姿勢に巨大な影響を与えて続けています。
そして、その波の末端に、私も存在します。

クラフトワークの77年『Trans-Europe Express』収録曲“Europe Endless”

 

私は明日も音楽を作っているのでしょう。
ピアノ演奏のノイズだけを抽出して強調するとき、広帯域マイクで電磁波までを収録するとき、もとの形が見えなくなるまで波形を切り刻むとき。
明日の音楽制作の、あらゆる瞬間でクラフトワークを、フローリアン・シュナイダーを追いかけています。

“Endlos Endlos”

agraph/牛尾憲輔