Photo by Frank Uyttenhove

シンセ・ポップのパイオニアとして知られるベルギーのトリオ、テレックス。78年のデビュー以降、先進的かつポップな電子音楽と独特のユーモアで後世に影響を与えつづけており、ここ日本でも深く愛されているバンドだ。

そんなテレックスの新たなコンピレーション・アルバム『This Is Telex』が、ミュート/Trafficから登場した。再評価著しい彼らの再入門に最適なベスト盤にして、初出のマテリアルを収録した一枚で、テレックスのリイシュー・シリーズの幕開けを飾る第1弾だ。

細野晴臣砂原良徳から愛あるコメントが寄せられるなど、リリース前から話題を呼んでいる本作。今回は、『This Is Telex』から見るテレックスの魅力、そして彼らの音楽にいま耳を傾けるべき理由などに、音楽評論家/ディレクターの柴崎祐二が迫った。 *Mikiki編集部

TELEX 『This Is Telex』 Mute/Traffic(2021)

 

酸いも甘いも噛み分けたオトナたちの捻れたユーモア

〈ベルギーのクラフトワーク〉と称され、ダフト・パンクやジェフ・ミルズらへ影響を与えた伝説的シンセ・ポップ・バンド〈テレックス〉の新装ベスト盤『This Is Telex』が登場した。79年のデビュー盤から2006年の作品まで代表曲をよりすぐり、メンバー自身がミックスとリマスタリングを手掛け、さらには2曲の蔵出しレア音源を収録した本作。ビギナー/マニアともに強くオススメしたい優れたコンピレーションだ。

『This Is Telex』収録曲“The Beat Goes On/Off”

テレックスとは何者か。彼らの名に初めて触れる読者のために簡単な経歴を紹介しよう。まずは、最年長のマーク・ムーラン。彼は元々60年代初頭から現地シーンでジャズ・ピアニストとして活動していたベテランだ(70年代に率いていたプログレッシヴ・ジャズ・ロック・バンド〈プラシーボ〉はレア・グルーヴ系のファンからも人気が高いので、そちらの方面でご存じの方も多いだろう)。音響技術者兼シンセサイザー奏者のダン・ラックスマンもテレックスの前はライブラリー・ミュージック等の世界でキャリアを積んでいた人物。もう一人がギタリストでデザイナーのミッシェル・ムアースで、彼もまたそれ以前に演奏経験がある。

つまり3人とも、生粋のパンク/ニューウェイヴ世代でなく、その1〜2世代前の〈オトナ〉たちだったのだ。この点からしても、彼らとよく比較されるテクノ・ポップの先駆者たち、クラフトワークや日本のYMOとの共通項があるようだ。実際その音楽性はパンク的な初期衝動とは距離があり、酸いも甘いも噛み分けたオトナならではの捻れたユーモアを湛えたものだ。一方で、YMOほどには構築的ではなく、クラフトワークほどには透徹していない朴訥としたサウンド・プロダクションも魅力で、あの時代のシンセ・ポップを愛するものの鼻孔をくすぐるキッチュな色香を漂わせてもいる。