
シンセ・ポップのパイオニアとして知られるベルギーのトリオ、テレックス。78年のデビュー以降、先進的かつポップな電子音楽と独特のユーモアで後世に影響を与えつづけており、ここ日本でも深く愛されているバンドだ。
そんなテレックスの新たなコンピレーション・アルバム『This Is Telex』が、ミュート/Trafficから登場した。再評価著しい彼らの再入門に最適なベスト盤にして、初出のマテリアルを収録した一枚で、テレックスのリイシュー・シリーズの幕開けを飾る第1弾だ。
細野晴臣と砂原良徳から愛あるコメントが寄せられるなど、リリース前から話題を呼んでいる本作。今回は、『This Is Telex』から見るテレックスの魅力、そして彼らの音楽にいま耳を傾けるべき理由などに、音楽評論家/ディレクターの柴崎祐二が迫った。 *Mikiki編集部

酸いも甘いも噛み分けたオトナたちの捻れたユーモア
〈ベルギーのクラフトワーク〉と称され、ダフト・パンクやジェフ・ミルズらへ影響を与えた伝説的シンセ・ポップ・バンド〈テレックス〉の新装ベスト盤『This Is Telex』が登場した。79年のデビュー盤から2006年の作品まで代表曲をよりすぐり、メンバー自身がミックスとリマスタリングを手掛け、さらには2曲の蔵出しレア音源を収録した本作。ビギナー/マニアともに強くオススメしたい優れたコンピレーションだ。
テレックスとは何者か。彼らの名に初めて触れる読者のために簡単な経歴を紹介しよう。まずは、最年長のマーク・ムーラン。彼は元々60年代初頭から現地シーンでジャズ・ピアニストとして活動していたベテランだ(70年代に率いていたプログレッシヴ・ジャズ・ロック・バンド〈プラシーボ〉はレア・グルーヴ系のファンからも人気が高いので、そちらの方面でご存じの方も多いだろう)。音響技術者兼シンセサイザー奏者のダン・ラックスマンもテレックスの前はライブラリー・ミュージック等の世界でキャリアを積んでいた人物。もう一人がギタリストでデザイナーのミッシェル・ムアースで、彼もまたそれ以前に演奏経験がある。
つまり3人とも、生粋のパンク/ニューウェイヴ世代でなく、その1〜2世代前の〈オトナ〉たちだったのだ。この点からしても、彼らとよく比較されるテクノ・ポップの先駆者たち、クラフトワークや日本のYMOとの共通項があるようだ。実際その音楽性はパンク的な初期衝動とは距離があり、酸いも甘いも噛み分けたオトナならではの捻れたユーモアを湛えたものだ。一方で、YMOほどには構築的ではなく、クラフトワークほどには透徹していない朴訥としたサウンド・プロダクションも魅力で、あの時代のシンセ・ポップを愛するものの鼻孔をくすぐるキッチュな色香を漂わせてもいる。

軽妙さと抑制が絶妙なシンセ・ポップ、知性と諧謔性に満ちたカヴァー
最大のヒットにして代表曲の“Moskow Diskow”(79年)を聴いてみれば、彼ら特有の魅力にたちまち気づくだろう。クラフトワーク“Trans Europe Express”(77年)へのアンサー・ソングとも言えそうな汽車ポッポ系シンセ・ポップの傑作で、汽笛や機関の律動を模したシンセサイザーのサウンドと〈ロボ声〉の融合が愉しい。その実トラック全体としてはなかなかにミニマルである種のストイシズムも目立つ。
こうした軽妙さと抑制の絶妙なバランス感は、80年のシングル“Euro-Vision”を聴いてみてもわかる。タイトル通りこの曲は、ヨーロッパで長年開催されている同名の権威的ポピュラー・ソング・コンテストにテレックスがベルギー代表として何故か出場すること(ハメ?)になった時に書かれたもので、大仰なコンテストのバカバカしさを歌詞と音で揶揄しており、そうした空気を色濃く反映した冷めたポップネスが頼もしい(コンテストでは1位かビリを狙っていたというが、下から数えて4位という微妙な結果に終わった)。
また、カヴァー曲のチョイスとアレンジの妙も彼らの金看板の1つ。今回のベスト盤でも、未発表の2曲(ソニー&シェールの“The Beat Goes On”、ビートルズの“Dear Prudence”)を始め、フランスのロックンロール・バンド、レ・シャ・ソヴァージュの“Twist À Saint Tropez”、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの“Dance To The Music”、リッチー・ヴァレンスの“La Bamba”が収録されており、どれもがオリジナルを大幅に改変しつつも、見落とされがちな原曲のユーモラスなエッセンスを見事前景化したような出来栄えとなっている。このあたり、隣国ドイツのノイエ・ドイチェ・ヴェレ系アーティストとも共振する知性と諧謔性を感じる。
ダンス・ミュージックを先取りした感性、細野晴臣ら日本勢との蜜月
今作をじっくり味わうと、冒頭に述べたような他ジャンルのエレクトロニック・ミュージックに与えた影響の大きさと共振も改めて見えてくる。シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノに通じるクールな電子音の処理、ニュー・ビートやエレクトロ・クラッシュを思わせるキッチュな即物性、ニュー・ディスコやフレンチ・エレクトロにおける醒めた享楽性、そうした要素がテレックスの作り出したトラックには先駆的要素として胚胎している様がわかる。再評価の盛り上がった98年にはカール・クレイグらが参加したリミックス盤『I Don’t Like Music』シリーズ(元々は88年の楽曲名だが、それにしてもスゴいタイトルだ)がリリースされており、後年のフロアと彼らの音楽の繫がりは思いの外強い。
また、ここ日本のアーティストで彼らを敬愛する者も多い。彼らと同じテクノ・ポップ第一世代の細野晴臣は、自らがプロデューサーを務めたコシミハルのアルバム『TUTU』(83年)において、“L’Amour Toujours”の日本語カヴァーを現地ブリュッセルのスタジオでメンバーを交えながら制作している。両者とも、三日間のセッションにおいてほとんど共通の言語で言葉を交わさずとも完璧な音楽的意思疎通ができたというのだから、そのセンス/手法においても深く通じ合うものがあったのだろう。加えて 、94年には日本オンリーのリミックス盤『Is Release A Humour? ~We Love Telex~』もリリースされており、リミキサーとして参加した小西康陽、砂原良徳、戸田誠司、ヤン富田、松前公高らがそれぞれ愛情あふれる仕事を聴かせている。
2021年6月12日(土)、〈RECORD STORE DAY〉にアナログが再発される
2021年、新鮮に響く遊び心に満ちたエレクトロニック・サウンド
それにしても、(有り体な言い方になってしまうが)彼らの音楽がこの2021年においても全く古びていないどころか、ごく新鮮に響くことに改めて驚いてしまう。今回聴き直してみて、個人的には特にフィフス・アルバム『Looney Tunes』(88年)からの2曲“Rendez-Vous Dans L’Espace”と“Beautiful Li(f)e”に最も今日的な魅力を感じた。
評価の高い初期のアルバムに比べるとやや地味な存在かもしれないが、フェアライトCMIを駆使した大胆なサウンプリング音源で作られるサウンドは、アート・オブ・ノイズ等からの影響を感じさせつつも、テレックスならでの遊び心が爆発したもの。こうした方法論は、DTM全盛たる現在でこそ一層強くアピールするだろうし、エレクトロ・ファンク再評価後の耳でダンス・ミュージックとして聴いても面白い。
世代と国境を超えて愛されたテレックス。残念ながらマーク・ムーランは2008年に鬼籍に入っており、3人の勇姿が揃う姿を再び見ることは叶わないが、残された彼らの作品はこうして現在に蘇った。今後は各オリジナル・アルバムのリマスター再発も予定されているというから、まずはこの『This Is Telex』を聴きながら、楽しみに待つこととしよう。
RELEASE INFORMATION

リリース日:2021年4月30日(金)
品番:TRCP-289
定価:2,640円(税込)
配信リンク:https://smarturl.it/telex.jp
新ミックス+リマスター作品
ボーナス・トラック2曲収録/解説:野田努(ele-king)
TRACKLIST
1. The Beat Goes On/Off *
2. Moskow Diskow
3. Twist À Saint-Tropez
4. Euro-Vision
5. Dance To The Music
6. Drama Drama
7. Exercise Is Good For You
8. L’Amour Toujours
9. Radio Radio
10. Rendez-Vous Dans L’Espace
11. Beautiful Li(f)e
12. The Number One Song In Heaven
13. La Bamba
14. Dear Prudence *
15. Moskow Diskow (English Version) **
16. Eurovision (English Version) **
*未発表曲
**日本盤ボーナス・トラック
PROFILE: Telex
78年、ベルギーのブリュッセルで結成されたシンセ・ポップ・トリオで、シンセ・ポップのパイオニア。メンバーはダン・ラックスマン、ミシェル・ムアース、マルク・ムーラン。79年、シングル“Moskow Diskow”とデビュー・アルバム『Looking For St. Tropez(テクノ革命)』をリリース。80年、シングル“Euro-Vision”収録のセカンド・アルバム『Neurovision』を発表。81年、スパークスが参加したサード・アルバム『Sex』を発売。その後も新たなテクノロジーの発展のなか、みずからの本質を見失うことなく、むしろ革新的な作品を次々と発表していった。2006年、カムバック作『How Do You Dance?』をリリース。2008年、マルク・ムーランが逝去。2021年4月、ミュートより再発シリーズの第1弾『This Is Telex』をリリース。