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みんながロックスターになれるわけじゃないから

――もともとシティ・ポップって都市の幻想みたいな音楽だと思うんですけど、YONA YONAの場合はとても日常的というか、きらびやかなサウンドに乗せて人々の悲哀を歌っているところがユニークですよね。

「生活感があふれてますよね(笑)。まあ、俺らはオシャレでも何でもない30代のおじさんたちですから、そこはどっちかというと、スタイリッシュさよりも親しみやすさで行きたいなと(笑)。

それで前作は〈夜〉をコンセプトに居酒屋での出来事を歌ったりしたんですけど、今回の『街を泳いで』はもっと明るい時間帯のイメージというか、より生活感がありつつ、野外フェスでも映えるような曲にしたかったんです。実際、今回の作品は僕自身のある日の休日をそのまま歌っているといっても過言ではないので(笑)」

――今作には磯野くんの実生活がダイレクトに反映されてると。つまり、サラリーマンとしての生活とバンドの音楽性が結びついてるわけですね。

「以前にメロコアをやってたときは、メッセージとかよりも楽曲の楽しさや勢いが重要だったんですけど、こうしていま社会人として生きていると、自分と同じような境遇にいる人たちってたくさんいるし、そういうことをちゃんと歌にしたいなって。みんながロックスターになれるわけじゃないし、そこは無理したくないんです」

――『街を泳いで』のなかでもっとも磯野くんが手ごたえを感じている曲は?

「“遊泳”ですね。もともと〈野外フェスに映える様な曲を……〉と作った曲なんです。ゆったりしたビートのもと、キイチの浮遊感のあるギター・フレーズに軽快なカッティングを重ねることで、日中公園の芝生にビニールシートを広げて昼寝してるみたいな感じを出すことができたと思います」

『街を泳いで』収録曲“遊泳”
 

――なるほど。“遊泳”のMVも公園がロケーションになっていますもんね。

「4月に“遊泳”を先行配信したときは緊急事態宣言真っ只中で、いまのタイミングにリリースして受け入れてもらえるのか……という不安も少しありました。だけど、〈家にいながらも外の陽気を感じられる〉というリスナーのコメントを目にしたとき、すごく救われた気持ちになったし、このタイミングでリリースして良かったと感じることができたんです」

 

いつか〈サラリーマンの磯野くん、さようなら〉と歌いたい

――昼間の公園が舞台の“遊泳”と、渋谷の夜をドローン撮影した“東京ミッドナイトクルージングクラブ”という2つの楽曲のMVは、世界観がまったく異なっているのがおもしろいなと思いました。磯野くんとしては、どっちの世界の住人でありたい?

「“遊泳”ですかね。MVは自分のアイデアだけではないですが、“遊泳”は日常だったり生活感だったりを表現しようとしたもので、逆に“東京ミッドナイトクルージングクラブ”は都会の幻想とか、従来のシティ・ポップで歌われているようなことを自分たちなりに捉えた曲で、MVでもそういった部分をうまく表現できていると思います。

『街を泳いで』収録曲“東京ミッドナイトクルージングクラブ”
 

自分自身、岡山から音楽での成功を夢見て上京したし、都会への憧れって言うのは東京に住んで10年経ったいまも持ち続けていて。シティ・ポップを始めたのも、〈中目黒結成!〉と打ち出しているのもそういう背景が大きいと思う。ただ、憧れは憧れのままだからこそ尊くて輝いて見えるものだと思うし、住むとすれば単純に昼からのんびり酒を飲めるような“遊泳”の世界がいいですね(笑)」

――では、最後にソングライターとしては今後どのような音楽をつくろうと考えてますか。

「シティ・ポップと謳ってますけど、僕らはそれ以外にも個々にいろんな音楽を聴いてるバンドなので、それぞれのメンバーがやりたいことはどんどん取り入れていきたいですね。あと、いつか〈サラリーマンの磯野くん、さようなら〉みたいな視点から曲が書けたらいいね、みたいな話もちょっと前にしてました(笑)。音楽でそこそこ稼げるようになったときや、売れまくって都落ちするところまで、すべてこのバンドの曲に出来たらいいねって(笑)」