どこからともなく沸き上がった〈楽しい〉
マスクが日常の一部になってから、1年半以上の月日が流れた。我慢を強いられる状況のなか、〈こんな毎日でも楽しい〉と思いこもうとひとりひとりが努力をしていたのではないだろうか。〈楽しいと思いこんだら楽しくなる〉という考えかたも否定しない。しかし、そもそも〈楽しい〉という気持ちはどこからともなく沸き上がってきて、自分に流れこみ広がっていくものだったはずだ。そんな単純で大切なことを、2021年10月16日に東京・代官山UNITにて開催されたYONA YONA WEEKENDERS(以下、YYW) の自主企画〈BUREIKO TOKYO vol.01〉は、思い出させてくれた。客演に盟友のSOMETIME’Sを招き、温かい気持ちが呼び起こされる時間を作りあげたのだ。
夕方から明け方までを描いたセットリスト
今回のYYWのセットリストは、夕方前に集合し終電を超えて朝を迎えるような時の流れを感じさせる構成で展開されていた。ドラムの合図を受け一斉に音が放たれると、歯切れのいいカッティングが“君とdrive”を連れてくる。心地よく回転するベースのグルーヴと優しく重なる歌声は、オーディエンスの心の糸をゆるりゆるりとほどいていく。メンバーが描いていく音が潮の満ち引きのように波及し、自然とフロアを揺蕩わせていた。ライブタイトルに用いられている“BUREIKO”を早々に投下し日暮れを彷彿させると、“夜のgroovin’”で最高のナイトパーティーへとなだれこんでいく。
磯野くん(ボーカル/ギター)の歌いだしが、スーッと観客を引き込んだのは“終電で帰ります”だ。変則的かつスピード感のあるビートは、終電を気にしてソワソワしてしまう心境を表しているよう。中間部に設けられたアンサンブルでは、ガッタンゴットンとリズムが踊りまるで電車に揺られる心地だった。言葉少なくサウンドで包みこんでいく“リルバズ”、子守唄のように語り掛ける“Good bye”と続け、次第に夜は深くなっていく。
YYWの〈無礼講〉な空間
“R.M.T.T”はセッションで音を重ねる形でスタート。ドラム、ベース、ギター、キーボードと楽器がひとつ増えるたび、水面に絵具を垂らすように音が混ざりあいながら広がっていった。西恵利香(サポートコーラス)に煽られる形で観客もハンズアップし、ライブはいよいよラストスパートといったところ。〈なんと無礼講な空間なんだろう〉、そう思わずにはいられない空気である。
そもそも〈無礼講〉とは〈身分・地位の差や、礼儀作法を無視して行う宴会〉を指す。その根源にあるのは、壁を取り払いすべての人が心の底から楽しもうという想いだ。会社の飲み会で適当に放りこまれる〈無礼講だから好きにしていいよ〉なんていう、〈楽しめよ?〉という押しつけではない。自分は自分で楽しむから、あなたもあなたらしく楽しんでくれたら嬉しい。そんな自由を伴った温かい心遣いこそ、本当の意味での無礼講。YYWが作り出した時間には、間違いなくその思いが宿っていた。