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Roy Blair “Perfume”(2017年)

ロイ・ブレアはLAのSSW。ケヴィン・アブストラクト(Kevin Abstract)に気に入られて彼のツアーに参加したのち、アルバム『American Boyfriend: A Suburban Love Story』(2016年)で“Runner”“Empty”という2曲に参加した。アブストラクトと彼の〈ボーイバンド〉、ブロックハンプトン(BROCKHAMPTON)についてのTVシリーズである「American Boyband」(2017年)には、ブレアも出演。このあたりのジャンルの壁を越えた交流も、実にイマっぽい感じだ。

この“Perfume”は、ブレアのデビュー・アルバム『Cat Heaven』に収録されている一曲。他にも“Thunder”や“Happy”など、『Cat Heaven』はヒップホップとロックの折衷的なサウンドとキャッチーなメロディーの宝庫である。

 

Cuco “Lo Que Siento”(2017年)

昨年ファースト・アルバム『Para Mi』を上梓したカリフォルニアのメキシコ系SSW、クコ。

スペイン語と英語で歌われるこの“Lo Que Siento”は彼のファースト・シングルで、なんとSpotifyでは1億1,900万回も聴かれている(2020年7月現在)! クレイロが“Pretty Girl”で成し遂げたことと同様の成功を手にした、と言えるだろう。ドリーミーなシンセ・ポップに乗せて切ないメロディーをさらりと歌う彼の個性は、ここですでに確立されている。

 

Steve Lacy “Dark Red”(2017年)

ギタリスト/SSW/プロデューサーのスティーヴ・レイシーは、ジ・インターネット(The Internet)のメンバーとしても知られる。ソランジュ、ケンドリック・ラマー、ブラッド・オレンジ、ヴァンパイア・ウィークエンドといった、現在のシーンにおける重要な音楽家たちの傑作の数々に貢献し、かなり越境的な活躍をしているキーマンだ。

ギターからベース、ヴォーカルまで、すべてをiPhoneのGarageBandで録ってしまうレイシーは、まさに究極のベッドルーム・アーティスト。〈スマホ世代のプリンス〉と呼びたい才能だが、かつてのファンクにあったねちっこさは希薄で、レイシーの音楽は軽さやチルな感覚、ローファイな歪さを携えている。2019年のファースト・アルバム『Apollo XXI』は、多くのリスナーやメディアからその年のベスト・アルバムに選ばれた。

グラミー賞にノミネートされたジ・インターネットの『Ego Death』(2015年)をリリースした際は、弱冠17歳という若さも話題になった。98年生まれの彼はまだ22歳であり、これからどんな音楽家になっていくのか……。前途洋々のレイシーに、ぜひ注目してほしい。

 

girl in red “we fell in love in october”(2018年)

ガール・イン・レッドとして活動するマリー・ウルヴェン(Marie Ulven)は、ノルウェーのホルテン出身のSSW。 どこかベスト・コーストのようなサーフ・ポップ感を漂わせながら、LAのガレージではなく北欧のベッドルームから鳴らされていることが、彼女のサウンドからはたしかに伝わってくる。

〈クィアのティーンエイジャーのためのティーンエイジ・クィア・アイコン〉(The Line Of Best Fit)と呼ばれ、その音楽は〈クィアの恋愛とメンタル・ヘルスについてのベッドルーム・ポップ・アンセム〉と称される。この“we fell in love in october”でもウルヴェンは〈あなたは私の女の子になる〉〈あなたは私の世界になる〉と、自身の同性愛を憂鬱そうに歌っている。

 

Omar Apollo “Ugotme”(2017年)

メキシコ系アメリカ人のオマー・アポロはインディアナ出身で、R&Bやソウル、ファンクからの影響が色濃い音楽を作っている。2018年のEP『Stereo』からカットされた“Ugotme”もその例に漏れず、ジャジーでブルージーなギターが印象的だ。

4月にリリースしたファンク・ナンバー“Imagine U”ドミニク・ファイク(Dominic Fike)との“Hit Me Up”ではヒップホップ・プロデューサーのケニー・ビーツ(Kenny Beats)と組んでおり、越境的なセンスを発揮。今年の2月には初来日公演を行ったことも記憶に新しい。

 

以上、10組による10曲を紹介した。他にもベッドルーム・ポップ語るうえで重要なアーティスト、おもしろい楽曲は、まだまだたくさんある(シーンにかなり詳しいTOWER DOORSの小峯崇嗣からは、厳しいツッコミが入りそうだ)。ただ、本稿は入門編ということで、ここから先は読者の方がそれぞれ掘っていってほしい。

日本でも広がりつつあるベッドルーム・ポップの潮流は、まだまだ退潮の兆しは見えないし、まだ発見されていない才能とサウンドの宝庫だ。一方で“Supalonely”のベニーやドミニク・ファイクなどは、ベッドルーム・ポップの成果を(良くも悪くも)うまく利用して成功した新たなポップ・アイコンだと言えるかもしれない。

これからもベッドルームの中と外からは、新たな才能がどんどん現れることだろう。引き続き〈ベッドルーム・ポップ〉というキーワードに注目していきたい。

ベッドルーム・ポップの楽曲のプレイリスト。選曲は天野龍太郎とTOWER DOORSの小峯崇嗣