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Sech feat. Darell “Otro Trago”(2019年)

セッシュはパナマの首都、パナマシティ出身のレゲトン/ラテンR&Bシンガー。太く深みのあるソウルフルな歌声が特徴で、2019年にデビュー・アルバム『Sueños』を、2020年にセカンド・アルバム『1 Of 1』をリリースしている。いずれもアメリカのラテン・チャートで上位に入っており、『1 Of 1』からはシングル“Relación”がヒットしている。

セッシュの名を広めることになったヒット曲“Otro Trago”は、狂おしく歌い上げるセッシュのイントロにダレルの野卑なフロウとレゲトン・ビートが加わっていく構成。R&Bからレゲトンへ、鮮やかな展開を聴かせる。のちにニッキー・ジャム、オスナ、アヌエル・AAを呼んだリミックスもリリースされた。

なお、 〈otro trago〉とは〈もう一杯〉という意味

 

Ozuna “Se Preparó”(2017年)

プエルトリコ、サン・フアン出身のオスナは、〈レゲトンの新たな王〉と呼ばれているシンガー。これまでに『Odisea』(2017年)、『Aura』(2018年)、『Nibiru』(2019年)と3作のアルバムをリリースしており、今年は新作『ENOC』を発表する予定。6月にリリースしたスウィートなレゲトン・ナンバー“Caramelo”はUSラテン・チャートで6位になり、大ヒット中だ。

オスナが南米以外でも知られるようになったのは、冒頭で紹介したDJスネイクの“Taki Taki”(2018年)だろう。このダンス・チューンでオスナは最初のヴァースとコーラス部分を担当しており、クセの強い歌声は実に強烈。楽曲の最初から最後まで存在感を放っている。

“Se Preparó”は『Odisea』からのシングルで、彼の代表曲のひとつ。この曲や先の“Taki Taki”における粘りのあるヴォーカリゼーションは、レゲエ・ディージェイのそれに近い。オスナの音楽からは、レゲエ/ダンスホールからの影響が強く感じられるのだ(“Se Preparó”はベースラインもレゲエ風)。

“Se Preparó”はYouTubeで13億回以上も聴かれている(2020年8月現在)。ちなみに、ロメオ・サントス(Romeo Santos)とのラテン・トラップ“El Farsante (Remix)”の再生回数は14億回。音楽を聴くプラットフォームとしてYouTubeが強い南米ならではの数字だが、人気の高さが窺える。

 

Maluma “Felices Los 4”(2017年)

マルーマは、J・バルヴィンやカロル・Gと同じくコロンビア・メデジン出身のシンガー。10代から活躍しており、『Magia』(2012年)、『Pretty Boy, Dirty Boy』(2015年)、『F.A.M.E.』(2018年)、『11:11』(2019年)と、すでに4作ものアルバムをリリースしている。

マルーマはシャキーラやリッキー・マーティンなど、欧米圏で人気のあるアーティストと共演しており、南米以外での支持も厚い。すでに述べたとおり、マドンナの新作『Madame X』(2019年)でシングル“Medellín”収録曲“Bitch I’m Loca”というラテン路線の2曲に参加したことは大きな話題になった。

“Felices Los 4”はサード・アルバム『F.A.M.E.』からのシングルで、Billboard Hot 100で48位に、Billboardラテン・チャートで2位になったヒット・ソング。

〈これぞラテン音楽!〉といった趣のサウダージ=哀愁あふれるギターとマルーマの甘いヴォーカルによるイントロから引き込まれる。トラップ風のハイハットも聴けるが、サビではレゲトン・ビートになだれ込んでいく。“Despacito”や、スペインのスター、エンリケ・イグレシアスの音楽に似た、エグみを抑えたスムーズでポップなメロディーと洗練されたサウンド・プロダクション。これを聴けば、彼が南米以外でもファンダムを築いている理由がわかるはず。

同じ『F.A.M.E.』からのシングルで、ブラジルのネゴ・ド・ボレルをフィーチャーした“Corazón”もおすすめだ。

 

Paloma Mami “No Te Enamores”(2018年)

残り2曲は、ラテン音楽シーンの新潮流を生んでいる、次世代のアーティストによるもの。バッド・バニーらより一回り下の、いわゆるZ世代のシンガーたちだ。

99年生まれのパロマ・マミは米NYマンハッタン出身だが、両親はチリ人。10代の頃にチリへ帰り、タレント・ショーへの出演を機に芸能活動を始めた。

“No Te Enamores”はソニー・ミュージック・ラテンとサインを交わした後にリリースされたメジャー・デビュー曲で、YouTubeの再生回数は、(本稿を執筆している時点では)なんと1億2千万回以上! スムーズでコンテンポラリーなレゲトン・ビートとマミのセンシュアルな歌声がマリアージュした、見事なサウンドである。

その後も、トラップR&B調の英語+スペイン語による“Don’t Talk About Me”ベースラインが強調されたセクシーな“Mami”(いずれも2019年)など、洗練された楽曲を発表している。いまのところの最新シングルは、今年4月に発表した“Goteo”マミは現在デビュー・アルバムを制作中とのことで、完成がとても楽しみだ。

 

Lunay feat. Chris Jeday & Gaby Music “Soltera”(2019年)

ルナイは2000年生まれの弱冠19歳。2019年にデビュー・アルバム『Épico』を発表しており、〈ラテンのジャスティン・ビーバー〉と呼ぶファンもいるとか。

『Épico』からのシングル“Soltera”は彼の最大のヒット曲のひとつで、YouTubeでは2020年8月現在、1億1千万回聴かれている。のちにダディ・ヤンキーとバッド・バニーをフィーチャーしたリミックスもリリースされた。

彼の音楽も、先行するレゲトンやラテン・トラップにおけるアクの強さや暴力性は抑えられていて、アメリカのR&Bなどを強く意識したスウィートでスムーズなものと言えるだろう。

 

以上、10曲からラテン・ポップ・ミュージックのいまを紹介した。

“Te Boté”の項で少し触れたニオ・ガルシアとカスペル・マヒコ、あるいはファルッコやマイク・タワーズなどなど、バッド・バニーやJ・バルヴィンと同世代のスターは数多い。10曲で紹介しきれなかった彼らの楽曲や他の重要曲も併せて下のプレイリストにまとめたので、ぜひそちらを聴いてみてほしい。

ここまで見てきたように、現在のレゲトン/ラテン・トラップの流行は、“Despacito”のヒットが単独で生んだ状況でもなく、一過性のものでもない。それ以上の深さと広さを持っているのだ。

だからこそ、ラテン・アメリカ発のポップ・ミュージックは、これからも国際的な影響力を高めていくだろう。そして、日本も含めた世界の音楽に、さらに影響を与えるはず。パロマ・マミやルナイのような新たな才能がどんどん現れ、新しい波を引き起こしていることも、とてもおもしろい。

〈ラテン・インヴェイジョン〉は、まだまだ続きそうな予感がしている。この記事をきっかけに、レゲトンとラテン・トラップを中心とするラテン音楽シーンの最前線に興味を持ってもらえれば幸いだ。