田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。毎週暗い話題ばかりなので、今週は明るいニュースを紹介しましょうか。米民主党の副大統領候補に、黒人女性であるカマラ・ハリス上院議員が選ばれました」
天野龍太郎「もしジョー・バイデンが大統領選に勝てば、史上初の女性副大統領になるそうですね。ハリスが選ばれる前、音楽の世界ではディディやタイ・ダラー・サインなど、黒人男性100人以上がバイデンに黒人女性を選ぶように公開状を送る、という試みがありました」
田中「ただ、ハリスは両親がインド人とジャマイカ人なので、ブラック・コミュニティーを含めてさまざまな意見があるようですね。バラク・オバマ前大統領についても、彼の祖先はアメリカの奴隷制度を経験していない、という議論がありました」
天野「う~ん……。でも、堂本かおるさんが言うように、そういう〈血〉を重視しすぎる見方はすごくナンセンスで、視野狭窄な気がしますね。このニュースからは、もっと明るい未来を期待したい! それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」
1. Dua Lipa feat. Madonna & Missy Elliott “Levitating (The Blessed Madonna Remix)”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はデュア・リパの“Levitating (The Blessed Madonna Remix)”! 亮太さんが大好きな、腰にクるダンス・ナンバーですよ!!」
田中「う~ん……。まあまあですかね(笑)。この曲は、デュア・リパが3月にリリースしたヒット・アルバム『Future Nostalgia』のリミックス・アルバム『Club Future Nostalgia: The Remix Album』からのシングルです。原曲のBPMを上げ、エレクトロ~ハウスに仕上げていて、太いベースのシーケンスが印象的。ロボ声は、ダフトパンクへのオマージュ感がすごい(笑)」
天野「それよりも、参加しているのがマドンナとミッシー・エリオットっていうことが重要ですよ! この2人の参加はヤバいでしょう。デュア・リパにとって大先輩と先輩であるマドンナとミッシー・エリオットと歌っているだけで、もうパワフルすぎて圧倒されます。こんな3人に〈Come on, dance with me〉なんて歌われたら、誰でも〈承知しました!〉ってなりますよね(笑)。というわけで、今週イチ強力なダンス・チューンでした。『Club Future Nostalgia: The Remix Album』は8月28日(金)にリリースされます!」
2. Nas feat. Hit-Boy “Ultra Black”
天野「2位はナズの新曲“Ultra Black”です。これは来週8月21日(金)にリリースされる新作『King’s Disease』からのシングルです」
田中「ナズはいわずもがな、ヒップホップ/ラップ・ミュージックの世界における神様のような存在のリリシストですね。ヒット・ボーイは、ジェイ・Z&カニエ・ウェストの“Niggas In Paris”(2011年)などで知られる売れっ子プロデューサー。意外にも、2人が組むのは初めてみたいですね」
天野「へー! なんといってもこの曲は、テーマが〈ブラック(Black)〉であることが素晴らしいですよね」
田中「あきらかに、昨今の〈Black Lives Matter〉の流れを受けた曲ですね」
天野「そうなんです。〈俺たちはウルトラ・ブラックでいく/ブラックは美しい〉とナズは歌い上げます。特にぐっときたのは、〈リズム&ブルース、ポップ、ロックからソウル、ジャズへ〉というライン。ポップ・ミュージックの歴史におけるブラックの重要さを訴えかけているようです。グレイス・ジョーンズや『スーパーフライ』など、ブラック・カルチャーの固有名詞もたくさん出てきます。〈堂々としたブラック/ドジャ・キャットとは正反対〉というラインはおそらく、オルタナ右翼が黒人に対して使う差別語をドジャ・キャットが過去に用いたことや、白人至上主義者のチャット・ルームでNワードを使った、といった疑惑に対するレスポンスでしょう。疑惑はドジャ・キャット本人が否定しているのでなんとも言えないのですが、ナズはあくまでもブラック・コミュニティーの側に立つ、とラップしているわけです。とにかく、『King’s Disease』が楽しみですね。早く聴きたいです」
3. The Japanese House feat. Justin Vernon “Dionne”
天野「3位はジャパニーズ・ハウスの“Dionne”。ボン・イヴェール(Bon Iver)のジャスティン・ヴァーノンが客演している曲で、彼女が8月12日にリリースしたニューEP『Chewing Cotton Wool』に収録されています」
田中「ジャパニーズ・ハウスことアンバー・ベイン(Amber Bain)は、英バッキンガムシャー出身のミュージシャン。The 1975やウルフ・アリスからフックアップされた才能で、2019年にリリースしたダーティ・ヒット(Dirlty Hit)からのデビュー・アルバム『Good At Falling』はかなり高い評価を受けていましたよね。今回のEPは、前作に続いてBJ・バートン(BJ Burton)とジョージ・ダニエル(George Daniel)がプロデュースに参加。バートンはボン・イヴェールの近作にがっつり関わっていて、今年はケイシー・ヒルの『Is It Selfish If We Talk About Me Again』やチャーリー・XCXの『how i’m feeling now』といった重要作に参加していました。ダニエルはThe 1975のドラマーであり、バンドの音楽性を舵取りするプロデューサーです」
天野「前作もじゅうぶん素晴らしかったのですが、今回のEPはその路線を突き詰めつつ、飛躍的に進化したと感じました。特にこのジャスティン・ヴァーノンとの“Dionne”は、エクスペリメンタルでありながらもポップで、緊迫感に満ちています。かっこいい。まるで祈りのような歌も、凄みがありますね……」
田中「ちなみに、曲名の〈Dionne〉とはディオンヌ・ワーウィックのことのようです。〈私たちはディオンヌ・ワーウィックの“Walk On By”を演奏した〉というラインがありますね。“Dionne”を聴いて歌詞を読み、さらに“Walk On By”(64年)を聴いてみると、いろいろと発見があると思います!」
4. Sleepy Hallow & Sheff G “Tip Toe”
天野「4位はスリーピー・ハロウとシェフ・Gの“Tip Toe”。2人はNYブルックリンのラッパーで、ブルックリン・ドリルのシーンを代表するアーティストです。この2人ついて、詳しくは〈ブルックリン・ドリル(Brooklyn Drill)を知るための10曲 ポップ・スモーク(Pop Smoke)亡き後も発展し続けるヒップホップ・シーン〉というコラムにがっつりと書きました。ぜひそちらを読んでみてください」
田中「スリーピー・ハロウとシェフ・Gは盟友どうしというか、よく共演しているんですよね。今回も、そんな仲のいい2人による曲です。プロデューサーは、スリーピー・ハロウの曲の多くを手掛けるNYCのグレイト・ジョン(Great John)。タイニー・ティムの“Tiptoe Through The Tulips”(68年)をサンプリングしていますね」
天野「変な曲ですよね……。グレイト・ジョンのビートって、こういうふうにスカスカでミニマルな音使いの、不思議なムードのものが多いんです。この曲も、ドリルっぽいビートではないですし。だからこそ、唯一無二の作風というか」
田中「ちなみにこの曲は、スリーピー・ハロウとシェフ・Gが所属する〈Winners Circle Entertainment〉とメジャーのRCAが契約した第1弾のリリースなんだそうです。ということは今後、スリーピー・ハロウとシェフ・Gはどんどんオーヴァーグラウンドで活躍していきそうですね。ブルックリン・ドリルも注目を集めていることですし、これからが楽しみです」
5. 645AR feat. FKA twigs “Sum Bout U”
天野「さて。今週最後の曲です。645ARがFKAツイッグスをフィーチャーした“Sum Bout U”! これもかなり変わった曲ですね……」
田中「FKAツイッグスは、言わずもがなのイギリスのシンガー・ソングライターですよね。2019年11月にリリースされた『MAGDALENE』は高く評価され、さまざまなメディアの年間ベスト・アルバムに選ばれた一作。一方、645ARは連載初登場です」
天野「この曲を聴いてもらえればわかるとおり、幼い子どものような、とにかく高いピッチの声によるフロウが特徴のラッパーです。一度聴いたら忘れられない声ですよね……。ちょっとホラーっぽくて、怖さも感じます。彼はNYブロンクス生まれのラッパーで、アトランタに移り住んでからリル・ヨッティ周辺のアーティストたちと知り合ったようです。645ARが注目を集めたのは、今年1月にリリースした“4 Da Trap”。その後、4月に発表した“Yoga”もバズって、ヴァイラルで一躍有名になりました。歌声もジョークのようですが、リリックも意味不明で話題。ただ本人は真剣に、キーキーした声(squeaking)でエモーションを表現している、と語っています。汚い言葉を使わず、商業的な成功を得るために編み出した方法だったんだとか。ちなみに、あの声はコンピューターでピッチ・シフトしているとかではなく、彼自身のものだそうですよ。そのあたりは、Complexのインタビューが詳しいです」
田中「なるほど……。そんな645ARの強烈な個性が、この曲では奇妙に歪んだGファンク風のビートのイルな雰囲気に合っていますよね。プロデューサーは、アトランタのセンセイATL(SenseiATL)とスペインのエル・グインチョ。エル・グインチョはロザリアの楽曲を多く手掛けているので、〈PSN〉の常連ですね! そして、645ARの歌声はFKAツイッグスのウィスパー・ヴォイスとも、めちゃくちゃ合っています。この不思議なサウンドはクセになります!」
天野「645AR、とにかく注目の才能です。今週はドレイクとリル・ダークの“Laugh Now Cry Later”やベニーの“Snail”など、話題曲が多かったですね。僕のおすすめはセン・モリモトとAAAMYYYの“Deep Down”、スターラーの“How It Goes”、チカの“U Should”と“My Power”などなど。〈PSN〉のオフィシャル・プレイリストでぜひ聴いてください!」