次世代最強のポップスターがさらなる境地へ踏み出した! 新鮮な過去と懐かしい未来を鮮やかに操るジンクス無用のニュー・アルバムで身体も心も踊りたくなる!
2枚目のジンクス
そもそも4月3日にリリースが予定されていたデュア・リパのセカンド・アルバム『Future Nostalgia』だが、そのリリース日が迫るなか、彼女はInstagramのライヴ配信にて涙ながらに配信リリースの前倒しを発表した。ご存知のように、3月に入って新型コロナウイルスの感染が拡大した英国では国家非常事態宣言が発令。不要不急の外出が禁止となるなかでデュアが選んだのは、閉塞感と不安に苦しむ自国の人々に少しでも早く自身の音楽を届けることであり、それはもちろん少しでもリスナーたちを元気づけたいという思いに起因するものだったのは言うまでもない(アルバムに参加している売れっ子ソングライターのアンドリュー・ワットがウイルス陽性を診断されたことも判断に関係していたはずだ)。結果的に当初のプロモーション計画などが頓挫していくなかにあって、『Future Nostalgia』は見事に全英1位を獲得することになった。
DUA LIPA Future Nostalgia Warner UK/ワーナー(2020)
ただ、そうした特殊なシチュエーションがなかったとしても、昨年からの段階的なリリース・プランを見れば華々しい成功は約束されていたはずだ。昨年11月にリリースされたキックオフのナンバーは“Don’t Start Now”。アバやビー・ジーズにダフト・パンクのニュアンスも足したようなこのディスコ・トラックは、彼女の代表曲でもある全英No.1ヒット“New Rules”(2017年)と同じくイアン・カークパトリックを起用したヒット・ポテンシャル満点の一曲で、破局を主題にしながらポジティヴに響かせる内容も同曲を受け継いだような雰囲気だった。続く今年1月のセカンド・シングル“Physical”は、言わずもがなオリヴィア・ニュートン・ジョンの世界的な同名ヒット(81年)を連想させるクセの強いシンセ・ポップ。そしてアルバム直前の3月に届いたのは、インエクセス“Need You Tonight”(87年)を引用したディスコ・ポップ“Break My Heart”だった。このように80年代を軸とする往年のダンス・サウンドに振り切った『Future Nostalgia』だが、アルバムに臨むにあたって彼女自身が強く意識していたのは〈2枚目のジンクス〉だったという。
本人がそう考えてもおかしくないほど、彼女がファースト・アルバム『Dua Lipa』とその前後に展開したヒット群のスケールは凄まじかった。USでもブレイクした先述の“New Rules”はもちろん、アルバムからは〈I Don’t Give A Fuck〉を意味するコズ製の“IDGAF”が全英3位を記録し、2018年に入ってからはカルヴィン・ハリスとのコラボ“One Kiss”もUKを含む各国チャートで首位をマーク。それに続いてはシルク・シティ(ディプロ&マーク・ロンソン)との“Electricity”も全英4位に輝いている。それら話題曲の連発も踏まえ、『Dua Lipa』は2018年に〈Complete Edition〉としてリパッケージもされた。そういった尻尾の長いヒットが次作へ踏み出す際に重圧となったのは想像に難くない。