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ルーツを深く見つめつつ新境地を開く

世界中のブラック・ピープルによる平等への希求と、ポーター自身のかねてからの願いが共鳴することで生まれた音楽。それが本作だと言えるだろう。そこにはまた、同様の志を持って表現してきた偉大な先人たちからの影響もこだましている。

「アル・グリーンやカーティス・メイフィールド、スティーヴィー・ワンダーなど、多くのブラック・アメリカン・パフォーマーたちが、ゴスペルと世俗音楽の間の一線を跨ぐ音楽を作り出してきた。彼らは〈愛〉を歌ったが、それは男女の愛であると同時に神への愛でもあった。“Phoenix”はそんな風に、ゴスペルと世俗音楽の両方を兼ねようとするアプローチで取り組んだ曲だよ。他にもたとえば“Dad Gone Thing”では、ビル・ウィザーズ“Grandma’s Hands”の話しかけるような、パーソナルな作曲スタイルを借りた。あと“Faith In Love”なんかは、マーヴィン・ゲイの音楽に対するソーシャルなアプローチを手本にしている。70年代という時代、そこに流れていた空気やカルチャーからの影響が大きいんだ」。

ビル・ウィザーズの71年作『Just As I Am』収録曲“Grandma’s Hands”

マーヴィン・ゲイの71年作『What’s Going On』収録曲“What’s Going On”

ポーターの言葉通り、70年代ソウルの担い手たちからの影響は本作において、アティテュード・形式の両面にわたって色濃く感じられる。だがもちろんその基調をなすのは、70年代ソウルだけではない。

「曲を書く時に手本にしているのはブルースの簡潔さだ。シンプルながらも美しい思いを手のひらに乗せるように、曲にしてしまうところがブルースの素晴らしさだと思う」。

またその他にも、様々な音楽的要素が聴こえてくる。

「最初に歌った音楽はゴスペル、でも6歳とか7歳でルイ・アームストロングを聴いた途端、ナット・キング・コールを聴いた途端、ジャズが押し寄せてきた。なんだ、これは!?って。面白いのは、子供の僕の頭の中では一度も別のものとして分けてこなかった、ということさ」。

本作を聴くと、初めてナット・キング・コールらの音楽に触れた幼少期の柔軟な感覚が、彼のなかで今でも持続していることがわかる。そこでは多様な要素が分け隔てなく受け入れられ、そしてゆるやかに統一されているように感じられる。

「ソウル、ゴスペル、ブルース、ジャズ……どんな音楽にも美しさがあると思えるんだ。そしてブラック・アメリカン・カルチャーの〈声〉であるという点で、それらの音楽はどれも一緒だ。僕は言わば〈幸せな家〉を作りたいのさ。こういった音楽はみな、元々同じ家で育った家族みたいなものだからね」。

ポーターはみずからのルーツを深く見つめ、その系統樹のなかで表現しようとする慎ましさを持っている。だが同時に彼は、新境地を開こうとする姿勢も忘れない。本作における、ロンドン交響楽団ストリングスの大々的な起用にも、それは表れている。

「ストリング・オーケストラとやる前は怯んでいるところもあったんだ。ある程度、譜面を守って歌わねばならなかったからね。でもやってみたら、オーケストラは全員僕を、そして音楽をサポートするためにそこにいるのだとわかって、怖さが消えたんだ。小さな感情にすぎないものが、オーケストラによって壮大なものになる。それは決して仰々しくではなく、さり気なく音楽を引き立ててくれるんだ。(『Nat King Cole & Me』でストリングス・アレンジを手掛けた)ヴィンス・メンドーザとの共作や世界中のオーケストラとの共演経験のおかげで、ストリングスを用いることに積極的になれたんだと思う。しかも自分にとって非常にパーソナルな曲でね」。

 

何を通じてでもいいから、〈ベストな自分〉を目指そう

みずからのルーツを大事にしつつ、新しいものをも積極的に招じ入れる。本作において顕著に見られるポーターのスタンスからは、すべてを包み込むような懐の深さが感じられる。そしてそれは、彼の根幹をなす宗教観とも密接に結びついているようだ。

「キリスト教的信念が僕に教えてくれるのは、〈どんな時もベストな自分でいろ、少なくともそれを目指せ〉ということだ。でもそれはキリスト教じゃなくても、ユダヤ教を通じてでも、イスラム教を通じてでも、仏教を通じてでもいい。もしくは家族や同郷の人々といった存在を通じてでもいいんだ。そういったものを通じてベストな自分の姿を見出せるのであれば、そこから人は啓蒙の境地へ至ることができる。そういうことを“Revival”では歌っていた」。

『All Rise』収録曲“Revival”

そう語るポーターもまた、みずからが思い描く〈ベストな自分の姿〉へと至る途上にあるのだろう。彼が今後どのような活躍を見せてくれるのか、とても楽しみだ。しかしいまは、彼の現時点における最高到達点であるニュー・アルバム『All Rise』にじっくりと耳を傾けたい。